「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第5部
白猫夢・鉄偶抄 2
麒麟を巡る話、第247話。
意思を持つ人形。
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2.
アジトに入ったところで、マロンはほんのわずかだが腐臭を感じ、鼻を押さえる。
「くっさ」
「失礼いたしました。できる限り掃除させていただいたのですが、わたくし共には嗅覚が無いものでして」
マロンはソファに座ろうとして、異臭の源に気付く。
「……ここ。テーブルの下、血だまりができてる」
「失礼いたしました」
ぺこりと頭を下げ、シェベルがモップを持って戻ってきた。
「すぐに片付けさせていただきます」
「……ん、いいわよ別に。窓開ければいいでしょうし。長居するつもりも無いもの」
「なるほど」
モップを壁に立て掛け、シェベルはさっとキッチンへ戻る。
「インパラ、窓の方をお願いいたします」
「はい」
こちらもてきぱきとした動きで、インパラが窓を開けていく。
しかしマロンの目には、両者の動きに明らかな違いが見えていた。
「……ねえ、シェベル」
「何でございましょう」
「楽しそうね」
「ええ」
返事と共に、シェベルが盆に紅茶を乗せて戻ってきた。
「家事の類をブリッツェン氏に任されておりましたが、慣れてみると意外に楽しいものでございまして。
ただ、わたくしに味覚が無いのが非常に残念です。味には自信がございますのに」
「あはは……」
一方、窓を開けていたインパラは二人の会話に耳を傾けてはいたらしいが、どこかきょとんとしたような、無表情と半笑いの、その中間くらいの顔をしている。
「……アンタにはまだ、感情みたいなのが無いのね」
「ございません」
「欲しいと思う?」
「分かりかねます」
「お姉ちゃんみたいになりたい?」
「分かりかねます」
「何で?」
「『何で』と申されましても」
インパラはほぼ無表情のままだったが、困っているようにも見えた。
「そのような事柄について処理する思考パターンは、組み込まれておりません故」
「答えになってないわね」
シェベルから受け取った紅茶を一口飲み、マロンは突っかかってみた。
「つまりそれって、『教わったことが無いから考えたことも無い』ってことでしょ?
『誰かみたいになりたいって考えてみろ』なんて、そんなことあたし、誰からも教わったこと無いわ。そんなの生きてたら勝手に夢想するものだし。
アンタは自分で考えようとしてみたことが、無いんじゃないの?」
「ええ。ございません」
素っ気ない返答に、マロンは興を削がれてしまった。
「……もういいわ。めんどくさい。
あ、シェベル。美味しいわよ、このお茶」
「ありがとうございます」
恭しくお辞儀をしたシェベルに、マロンは本題を切り出した。
「それで? そろそろ聞きたいんだけど、あたしをここまで呼んだ理由」
「はい」
シェベルはマロンの正面に座り、説明を始めた。
「まず、わたくし共のことをご説明させていただきます。
わたくし共は、簡単に言えば人形。鉄でできた木偶(でく)でございます。もう少し詳しく説明いたしますと、ミスリル化チタン鋼と言う合金と、同じくミスリル化処理を施したシリコンゴムを主な成分としております」
「聞いたこと無い材料ね」
「主様は非常に優れた技術を持っております故」
「ああ、秘密主義だから? 一般に公表してないってこと?」
「ええ。他にもいくつか、秘密にしておりますことがございます」
それを聞いて、マロンは首をかしげる。
「そんなにベラベラしゃべっちゃって平気なの?」
「露見すればお叱りを受けるでしょう。
しかしインパラは尋ねられない限り、自分から話すようなことはございません。わたくしもわざわざ主様を怒らせるようなことは、いたしたくございません」
そこで言葉を切り、シェベルは口に人差し指を当て、片目をパチ、とつぶった。
「ですのでこの話は、ご内密にお願いいたします」
「……ふふ、いいわよ」
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意思を持つ人形。
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アジトに入ったところで、マロンはほんのわずかだが腐臭を感じ、鼻を押さえる。
「くっさ」
「失礼いたしました。できる限り掃除させていただいたのですが、わたくし共には嗅覚が無いものでして」
マロンはソファに座ろうとして、異臭の源に気付く。
「……ここ。テーブルの下、血だまりができてる」
「失礼いたしました」
ぺこりと頭を下げ、シェベルがモップを持って戻ってきた。
「すぐに片付けさせていただきます」
「……ん、いいわよ別に。窓開ければいいでしょうし。長居するつもりも無いもの」
「なるほど」
モップを壁に立て掛け、シェベルはさっとキッチンへ戻る。
「インパラ、窓の方をお願いいたします」
「はい」
こちらもてきぱきとした動きで、インパラが窓を開けていく。
しかしマロンの目には、両者の動きに明らかな違いが見えていた。
「……ねえ、シェベル」
「何でございましょう」
「楽しそうね」
「ええ」
返事と共に、シェベルが盆に紅茶を乗せて戻ってきた。
「家事の類をブリッツェン氏に任されておりましたが、慣れてみると意外に楽しいものでございまして。
ただ、わたくしに味覚が無いのが非常に残念です。味には自信がございますのに」
「あはは……」
一方、窓を開けていたインパラは二人の会話に耳を傾けてはいたらしいが、どこかきょとんとしたような、無表情と半笑いの、その中間くらいの顔をしている。
「……アンタにはまだ、感情みたいなのが無いのね」
「ございません」
「欲しいと思う?」
「分かりかねます」
「お姉ちゃんみたいになりたい?」
「分かりかねます」
「何で?」
「『何で』と申されましても」
インパラはほぼ無表情のままだったが、困っているようにも見えた。
「そのような事柄について処理する思考パターンは、組み込まれておりません故」
「答えになってないわね」
シェベルから受け取った紅茶を一口飲み、マロンは突っかかってみた。
「つまりそれって、『教わったことが無いから考えたことも無い』ってことでしょ?
『誰かみたいになりたいって考えてみろ』なんて、そんなことあたし、誰からも教わったこと無いわ。そんなの生きてたら勝手に夢想するものだし。
アンタは自分で考えようとしてみたことが、無いんじゃないの?」
「ええ。ございません」
素っ気ない返答に、マロンは興を削がれてしまった。
「……もういいわ。めんどくさい。
あ、シェベル。美味しいわよ、このお茶」
「ありがとうございます」
恭しくお辞儀をしたシェベルに、マロンは本題を切り出した。
「それで? そろそろ聞きたいんだけど、あたしをここまで呼んだ理由」
「はい」
シェベルはマロンの正面に座り、説明を始めた。
「まず、わたくし共のことをご説明させていただきます。
わたくし共は、簡単に言えば人形。鉄でできた木偶(でく)でございます。もう少し詳しく説明いたしますと、ミスリル化チタン鋼と言う合金と、同じくミスリル化処理を施したシリコンゴムを主な成分としております」
「聞いたこと無い材料ね」
「主様は非常に優れた技術を持っております故」
「ああ、秘密主義だから? 一般に公表してないってこと?」
「ええ。他にもいくつか、秘密にしておりますことがございます」
それを聞いて、マロンは首をかしげる。
「そんなにベラベラしゃべっちゃって平気なの?」
「露見すればお叱りを受けるでしょう。
しかしインパラは尋ねられない限り、自分から話すようなことはございません。わたくしもわざわざ主様を怒らせるようなことは、いたしたくございません」
そこで言葉を切り、シェベルは口に人差し指を当て、片目をパチ、とつぶった。
「ですのでこの話は、ご内密にお願いいたします」
「……ふふ、いいわよ」
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2014.06.14 修正
2014.06.14 修正



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