「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第5部
白猫夢・鉄偶抄 3
麒麟を巡る話、第248話。
第三の人形。
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3.
シェベルは説明を続ける。
「わたくし共の体には色々と秘密がございますが、中でもミニーノ様をお呼びした理由につながる事柄について、これからお話いたします。
ただ、話が終わりますまで席をお立ちになったり、あるいは攻撃などなさったりされないよう、重々お願いいたします」
「……? いいけど」
「先程ミニーノ様がご指摘なさったように、わたくし共には標準的な人間と比較して、思考に欠けた点が存在いたします。
ミニーノ様は『教わったことが無いから考えられない』と言う論理は成立しないとお考えのご様子ですが、わたくし共にとっては、決してそうではございません。
標準的な人間であれば、経験と知識とをそれぞれ重ね合わせ、新たな知恵を見出すことも可能でございましょう。しかしわたくし共にはそうした複合的な思考パターンそのものが存在いたしません。それ故、『こう考えてみろ』と教わらない限り、その思考パターンを組み込むことが不可能なのです。
例えて言うなら――キッチンに今、卵と牛乳と小麦粉がある、とします。料理にお詳しい方であれば、この3つから様々な料理を想起し、連想し、閃き、実際にそれを作ることが可能でございましょう。しかしフライパンすら触ったことの無い方であれば、ただ途方に暮れるのみでございます。
わたくし共は後者でございます――『考えてみろ』と卵をいただいても、それをどう調理すればよいのか、まったく分からないのです」
「ふーん……。でも、アンタは料理できるんでしょ?」
「ええ」
「それはブリッツェンから教わって?」
「いえ、別の方から教わりました」
「まあ、どっちにしても、よ。誰かから教えられれば、アンタたちはちゃんと覚えるのね」
「はい」
「それがつまり、あたしを呼んだ理由?」
「概ねはそうでございます」
「概ね? 正確には?」
そこでシェベルは言葉を切る。
「……」
「なに?」
「まだお呼びしていないはずなのですが……、主様がいらっしゃったようです。
出迎えますので、少々お待ちを」
「ああ、はい」
机の上に置いてあった紅茶を、シェベルはそそくさと片付ける。マロンのカップにはまだ半分ほど残っていたが、彼女はそれも持って行ってしまった。
(もしかしたらその『主様』に内緒で出してくれたのかも知れないわね。よっぽど怒らせたくないみたい)
紅茶を台所へ置いてから、シェベルは玄関に向かう。
「お待たせいたしました、あるじさ……」
言いかけたシェベルが静止する。
「……どちら様ですか」
尋ねた次の瞬間――シェベルは玄関のドアごと吹き飛ばされた。
「なっ……!?」
壁とドアに挟まれ、シェベルの体から鈍色の液体が飛び散る。
「う……あ……か……」
何か言おうとしたようだが、半ばうめき声に近く、何と言ったか聞き取れない。
「シェベル!?」
立ち上がったマロンは、玄関に真っ黒なローブを身に着けた「何か」を見た。
「何か」と言うのは、そのローブの袖から見えている腕が、甲冑や籠手のようにつるりとした光沢を放っていたからだ。
「木偶どもめ……。うろちょろするな」
「お前は……、お前は」
シェベルはドアをはがし、突如現れたその、黒いローブの名を呼んだ。
「お前は、アルか」
「そうだ。この場所に『テレポート』が原因と思われる空間の異常振動を数度検出したことから、お前らがここで何かをしていることは明白だ。
89%の確率で『素体』探しであろうと算出されたため、ここへ来たのだ。どうやら予測通りだったようだな」
アルと呼ばれたその黒ローブは、マロンに顔を――と言ってもフードに隠されているが――向けた。
「お前はこいつらに、何と言って連れて来られた?」
「話したいことがある、って」
マロンは刀に手をかけつつ、アルとの距離を置く。
「その話はお前にとって有害でしかない。私と共に来るのだ」
「何でよ?」
「来なければお前は……」「消えろ」
言いかけたアルに、シェベルが襲い掛かった。
「お前が消えろ」
だがアルはシェベルの拳を左手で受け、そのまま振り払う。
つかまれたまま振り回され、シェベルの右肩がボキボキと音を立ててねじれる。
「お前ら如き木偶どもが、私の相手になるはずが無い」
シェベルは右腕をぐしゃぐしゃにねじられ、壁へ叩き付けられて、そのまま壁を破って外へと投げ飛ばされた。
「……!」
「邪魔者がまだいるようだな」
アルは窓の側でじっとしていたインパラに向き直り、拳を構えた。
「……インパラ」
「はい」
「お姉さんの様子、見てきなさい。あたしはこいつの相手するわ」
「かしこまりました」
「ぬ……?」
アルは構えを解き、マロンに話しかける。
「何故だ? 私が救ってやろうと言うのに」
「フン」
マロンは刀を抜き、アルに向かって構えた。
「アンタみたいなタイプが一番嫌いなのよ。
自分のしてることが正義だと思って疑わない、その上それを周りに無理矢理押し付けてくるタイプってのがね。
あたしの母さんと同じタイプ。……そう言うの、反吐が出るのよ!」
マロンの刀に、真っ赤な火が灯った。
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第三の人形。
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3.
シェベルは説明を続ける。
「わたくし共の体には色々と秘密がございますが、中でもミニーノ様をお呼びした理由につながる事柄について、これからお話いたします。
ただ、話が終わりますまで席をお立ちになったり、あるいは攻撃などなさったりされないよう、重々お願いいたします」
「……? いいけど」
「先程ミニーノ様がご指摘なさったように、わたくし共には標準的な人間と比較して、思考に欠けた点が存在いたします。
ミニーノ様は『教わったことが無いから考えられない』と言う論理は成立しないとお考えのご様子ですが、わたくし共にとっては、決してそうではございません。
標準的な人間であれば、経験と知識とをそれぞれ重ね合わせ、新たな知恵を見出すことも可能でございましょう。しかしわたくし共にはそうした複合的な思考パターンそのものが存在いたしません。それ故、『こう考えてみろ』と教わらない限り、その思考パターンを組み込むことが不可能なのです。
例えて言うなら――キッチンに今、卵と牛乳と小麦粉がある、とします。料理にお詳しい方であれば、この3つから様々な料理を想起し、連想し、閃き、実際にそれを作ることが可能でございましょう。しかしフライパンすら触ったことの無い方であれば、ただ途方に暮れるのみでございます。
わたくし共は後者でございます――『考えてみろ』と卵をいただいても、それをどう調理すればよいのか、まったく分からないのです」
「ふーん……。でも、アンタは料理できるんでしょ?」
「ええ」
「それはブリッツェンから教わって?」
「いえ、別の方から教わりました」
「まあ、どっちにしても、よ。誰かから教えられれば、アンタたちはちゃんと覚えるのね」
「はい」
「それがつまり、あたしを呼んだ理由?」
「概ねはそうでございます」
「概ね? 正確には?」
そこでシェベルは言葉を切る。
「……」
「なに?」
「まだお呼びしていないはずなのですが……、主様がいらっしゃったようです。
出迎えますので、少々お待ちを」
「ああ、はい」
机の上に置いてあった紅茶を、シェベルはそそくさと片付ける。マロンのカップにはまだ半分ほど残っていたが、彼女はそれも持って行ってしまった。
(もしかしたらその『主様』に内緒で出してくれたのかも知れないわね。よっぽど怒らせたくないみたい)
紅茶を台所へ置いてから、シェベルは玄関に向かう。
「お待たせいたしました、あるじさ……」
言いかけたシェベルが静止する。
「……どちら様ですか」
尋ねた次の瞬間――シェベルは玄関のドアごと吹き飛ばされた。
「なっ……!?」
壁とドアに挟まれ、シェベルの体から鈍色の液体が飛び散る。
「う……あ……か……」
何か言おうとしたようだが、半ばうめき声に近く、何と言ったか聞き取れない。
「シェベル!?」
立ち上がったマロンは、玄関に真っ黒なローブを身に着けた「何か」を見た。
「何か」と言うのは、そのローブの袖から見えている腕が、甲冑や籠手のようにつるりとした光沢を放っていたからだ。
「木偶どもめ……。うろちょろするな」
「お前は……、お前は」
シェベルはドアをはがし、突如現れたその、黒いローブの名を呼んだ。
「お前は、アルか」
「そうだ。この場所に『テレポート』が原因と思われる空間の異常振動を数度検出したことから、お前らがここで何かをしていることは明白だ。
89%の確率で『素体』探しであろうと算出されたため、ここへ来たのだ。どうやら予測通りだったようだな」
アルと呼ばれたその黒ローブは、マロンに顔を――と言ってもフードに隠されているが――向けた。
「お前はこいつらに、何と言って連れて来られた?」
「話したいことがある、って」
マロンは刀に手をかけつつ、アルとの距離を置く。
「その話はお前にとって有害でしかない。私と共に来るのだ」
「何でよ?」
「来なければお前は……」「消えろ」
言いかけたアルに、シェベルが襲い掛かった。
「お前が消えろ」
だがアルはシェベルの拳を左手で受け、そのまま振り払う。
つかまれたまま振り回され、シェベルの右肩がボキボキと音を立ててねじれる。
「お前ら如き木偶どもが、私の相手になるはずが無い」
シェベルは右腕をぐしゃぐしゃにねじられ、壁へ叩き付けられて、そのまま壁を破って外へと投げ飛ばされた。
「……!」
「邪魔者がまだいるようだな」
アルは窓の側でじっとしていたインパラに向き直り、拳を構えた。
「……インパラ」
「はい」
「お姉さんの様子、見てきなさい。あたしはこいつの相手するわ」
「かしこまりました」
「ぬ……?」
アルは構えを解き、マロンに話しかける。
「何故だ? 私が救ってやろうと言うのに」
「フン」
マロンは刀を抜き、アルに向かって構えた。
「アンタみたいなタイプが一番嫌いなのよ。
自分のしてることが正義だと思って疑わない、その上それを周りに無理矢理押し付けてくるタイプってのがね。
あたしの母さんと同じタイプ。……そう言うの、反吐が出るのよ!」
マロンの刀に、真っ赤な火が灯った。
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2014.06.14 修正
2014.06.14 修正



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