「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第5部
白猫夢・鉄偶抄 4
麒麟を巡る話、第249話。
人形たちの争奪戦。
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4.
燃え盛る刀を見て、アルは一歩後ろへ引く。
「燃える刀……。ホムラリュウ、だな」
「そうよ」
逆にマロンは一歩、アルに向かって踏み込む。
「で、アンタは一体、何者なの? 突然現れて、あたしと楽しくおしゃべりしてた相手をいきなりブッ飛ばした、その理由は?」
「私は御子を探し、育て、導く者だ」
「ミコ?」
「この世に真の平和、平定を導く者のことだ。
私はずっと長い間、御子となるべき人間を探している。だがそれを良しとせず、己の欲望のままに世界を操ろうとする不逞(ふてい)の輩がいる。
その一つがこいつら木偶の主だ。である以上私は、その木偶共々戦わねばならない」
「反目してる奴の手先だからブッ飛ばした、って言うのは分かったわ。現れた理由もさっき聞いた。
じゃあもう一つ聞くわよ。何であたしを『助けよう』と?」
「お前が御子にふさわしい人材だからだ」
この答えに、マロンはきょとんとする。
「あたしが? ……どう言う基準なのよ?」
「強靭な肉体と不屈の精神力を持つ。それ故だ」「それダけではナいハずだ」
玄関からインパラに支えられる形で、シェベルが戻ってきた。
右腕は千切れ、顔も半壊し、上半身全体も12、3度ほどねじれて傾いてしまっているが、それでもシェベルはアルに立ち向かっている。
「その2つノ要素を持ち、なオかつ、『深く絶望しタ者』であるこトが条件」
「深く、絶望……?」
「えエ。ミニーノ様、あなタはたっタ数日前に大勢の仲間ヲ失い、お姉様も深く傷つけらレ、その精神状態は到底、平常トは言えないはズ。
そこに付け込み、アルはあなたを傀儡にしようとシているのデす」
「……ふーん、なるほどね」
マロンは刀を構えたまま、アルに尋ねる。
「で、アンタの言い分は? シェベルたちはあたしを『素体』だか何だかにしようとしている、ってさっき言ってたけど、どう言う意味なの?」
「そのままの意味だ。素材にしようとしているのだ。
こいつらの頭脳のな」
「……?」
アルの言っている意味が分からず、マロンは首を傾げた。
「頭脳の素材……?」
「重ねて言う。そのままの、意味だ」
「……まさか」
アルはシェベルらを指差す。
「こいつらの主は死んだ偉人・才人の墓を暴いてその頭蓋を奪い、解剖・解析したものを電子的に再構築した後、こいつらの思考に組み込んでいるのだ。
もっとも設備不足か、あるいは効率が悪いのか、1人に対して1%程度もトレースできないようだが、それでもそいつらの有していた技や術、奥義を習得することくらいはできる。そいつらの対人能力が低いのは、頭脳のその部分を不要と判断し、切り捨てているからだろう。
ともかく、お前もそうなる。こいつらの主がやって来たが最後、首を刎ねられ、その頭蓋を割られて、脳みそを細切れにされるのだ」
「……」
マロンもシェベルたちに目を向け、恐る恐る尋ねる。
「そうするつもりだったの?」
「……」
答えないシェベルの代わりに、インパラが答えた。
「はい」
「……参ったわね」
マロンは刀をアルとシェベルたちの間に向け、ため息をついた。
「姉の仇、……と張り切って来てみたら、あたしの奪い合いに出くわすなんてね。
正直、どっちにも従う気は無いわ。どっちに付いてもあたしは死ぬみたいだし」
「それは違う」
と、アルが反論する。
「御子となれば、お前は世界の女王。思うがままに……」「あのね」
マロンはすい、と刀の切っ先をアルに向ける。
「あたし、小さい頃に母の友達から、アンタの話を聞いたことがあるのよ」
「……何?」
「アランだの何だのって名前を変えて人に近付き、持てはやして操って、しまいにはその人を破滅させる『鉄の悪魔』。そう聞いてるわ。
つまりアンタに付いて行ったところで、その先に待ってるのはあたしの破滅。誰がアンタなんかに付いて行くもんですか」
「……」
「それから」
続いてマロンは、シェベルたちを指す。
「あたしを解剖するために、ここに呼んだってことよね。それならそっちもお断りよ。ここで帰らせてもらうわ」
「そうは行かん」
アルはテーブルを蹴倒し、マロンに迫る。
「ここでお前を手に入れられないとなれば、この木偶共がお前をさらうだろう。そうなれば我々にとって不都合な事態に発展する。御子を得られないばかりか、敵の強化をむざむざ見過ごすことになるからだ。
よって、ここでお前が私と共に来ないと言うのであれば、殺すしかない」
「あっ、そう。そう言うことなら、なおのことお断りさせてもらうわ。御子だの何だの持ち上げておいて、結局はアンタのためじゃない。
しかも自分の思い通りにならなきゃ殺す? 話にならないわ。それじゃどっちみち、アンタはあたしを殺すつもりじゃない。それが早いか遅いかってだけよ。
断言するわ。アンタには100%、付いて行かない」
「ならば……」
アルの両脚からガキン、と金属音が鳴る。
「死ぬが良い」
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4.
燃え盛る刀を見て、アルは一歩後ろへ引く。
「燃える刀……。ホムラリュウ、だな」
「そうよ」
逆にマロンは一歩、アルに向かって踏み込む。
「で、アンタは一体、何者なの? 突然現れて、あたしと楽しくおしゃべりしてた相手をいきなりブッ飛ばした、その理由は?」
「私は御子を探し、育て、導く者だ」
「ミコ?」
「この世に真の平和、平定を導く者のことだ。
私はずっと長い間、御子となるべき人間を探している。だがそれを良しとせず、己の欲望のままに世界を操ろうとする不逞(ふてい)の輩がいる。
その一つがこいつら木偶の主だ。である以上私は、その木偶共々戦わねばならない」
「反目してる奴の手先だからブッ飛ばした、って言うのは分かったわ。現れた理由もさっき聞いた。
じゃあもう一つ聞くわよ。何であたしを『助けよう』と?」
「お前が御子にふさわしい人材だからだ」
この答えに、マロンはきょとんとする。
「あたしが? ……どう言う基準なのよ?」
「強靭な肉体と不屈の精神力を持つ。それ故だ」「それダけではナいハずだ」
玄関からインパラに支えられる形で、シェベルが戻ってきた。
右腕は千切れ、顔も半壊し、上半身全体も12、3度ほどねじれて傾いてしまっているが、それでもシェベルはアルに立ち向かっている。
「その2つノ要素を持ち、なオかつ、『深く絶望しタ者』であるこトが条件」
「深く、絶望……?」
「えエ。ミニーノ様、あなタはたっタ数日前に大勢の仲間ヲ失い、お姉様も深く傷つけらレ、その精神状態は到底、平常トは言えないはズ。
そこに付け込み、アルはあなたを傀儡にしようとシているのデす」
「……ふーん、なるほどね」
マロンは刀を構えたまま、アルに尋ねる。
「で、アンタの言い分は? シェベルたちはあたしを『素体』だか何だかにしようとしている、ってさっき言ってたけど、どう言う意味なの?」
「そのままの意味だ。素材にしようとしているのだ。
こいつらの頭脳のな」
「……?」
アルの言っている意味が分からず、マロンは首を傾げた。
「頭脳の素材……?」
「重ねて言う。そのままの、意味だ」
「……まさか」
アルはシェベルらを指差す。
「こいつらの主は死んだ偉人・才人の墓を暴いてその頭蓋を奪い、解剖・解析したものを電子的に再構築した後、こいつらの思考に組み込んでいるのだ。
もっとも設備不足か、あるいは効率が悪いのか、1人に対して1%程度もトレースできないようだが、それでもそいつらの有していた技や術、奥義を習得することくらいはできる。そいつらの対人能力が低いのは、頭脳のその部分を不要と判断し、切り捨てているからだろう。
ともかく、お前もそうなる。こいつらの主がやって来たが最後、首を刎ねられ、その頭蓋を割られて、脳みそを細切れにされるのだ」
「……」
マロンもシェベルたちに目を向け、恐る恐る尋ねる。
「そうするつもりだったの?」
「……」
答えないシェベルの代わりに、インパラが答えた。
「はい」
「……参ったわね」
マロンは刀をアルとシェベルたちの間に向け、ため息をついた。
「姉の仇、……と張り切って来てみたら、あたしの奪い合いに出くわすなんてね。
正直、どっちにも従う気は無いわ。どっちに付いてもあたしは死ぬみたいだし」
「それは違う」
と、アルが反論する。
「御子となれば、お前は世界の女王。思うがままに……」「あのね」
マロンはすい、と刀の切っ先をアルに向ける。
「あたし、小さい頃に母の友達から、アンタの話を聞いたことがあるのよ」
「……何?」
「アランだの何だのって名前を変えて人に近付き、持てはやして操って、しまいにはその人を破滅させる『鉄の悪魔』。そう聞いてるわ。
つまりアンタに付いて行ったところで、その先に待ってるのはあたしの破滅。誰がアンタなんかに付いて行くもんですか」
「……」
「それから」
続いてマロンは、シェベルたちを指す。
「あたしを解剖するために、ここに呼んだってことよね。それならそっちもお断りよ。ここで帰らせてもらうわ」
「そうは行かん」
アルはテーブルを蹴倒し、マロンに迫る。
「ここでお前を手に入れられないとなれば、この木偶共がお前をさらうだろう。そうなれば我々にとって不都合な事態に発展する。御子を得られないばかりか、敵の強化をむざむざ見過ごすことになるからだ。
よって、ここでお前が私と共に来ないと言うのであれば、殺すしかない」
「あっ、そう。そう言うことなら、なおのことお断りさせてもらうわ。御子だの何だの持ち上げておいて、結局はアンタのためじゃない。
しかも自分の思い通りにならなきゃ殺す? 話にならないわ。それじゃどっちみち、アンタはあたしを殺すつもりじゃない。それが早いか遅いかってだけよ。
断言するわ。アンタには100%、付いて行かない」
「ならば……」
アルの両脚からガキン、と金属音が鳴る。
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2014.06.14 修正
2014.06.14 修正



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