黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第3部

    蒼天剣・鬼謀録 3

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    晴奈の話、第137話。
    敵味方、どちらにも不可解な作戦。

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    3.
     エルスの考えを全軍に伝え、その上で改めて敵の様子を調べさせたところ、確かに動きが著しく鈍く、進軍に手間取っていることが確認できた。
    「やはり、大量の軍備と経験の無い兵士たちが、足を引っ張っているようです」
    「そっか、うん。……じゃ、みんな集まって。この作戦で行こう」
     エルスは将たちを集め、これから執る作戦を聞かせる。
    「やることは二つ。まず一つ目――できるだけ、戦いを長引かせて」
    「長引かす……?」
    「うん。その方が、後々でいいことがあるんだ。とにかく相手を走らせ、引っ張り回して、疲れさせよう。
     で、二つ目。敵兵よりも、軍備を攻撃して」
     エルスの真意を、晴奈が推理する。
    「兵士を疲れさせ、補給を断つ――兵士を一個一個攻撃するよりも、全体を弱らせると言うことか」
    「ん、まあ、それもあるかな。でも、もっと別の効果も狙っている。
     うまく決まれば、戦況も風潮も一気に逆転する。敵に壊滅的打撃を与え、僕らに絶対的勝利をもたらす、非常に効果的な戦略。敵がたっぷり碁盤の上に撒いてくれた石を、丸ごと僕らが奪い去る作戦だ」
    「敵に、壊滅的打撃を……?」
     エルスの大言に、将たちは目を丸くし言葉を失う。そんな皆の顔を見たエルスは、恥ずかしそうに笑った。
    「壊滅的、は言いすぎかなぁ。……はは」



     ともかくエルスの指示に従い、晴奈たちは4、5人ごとの班になって敵の陣中を飛び回った。
    「わあっ、食糧が燃えてる!」
    「槍もだ! くそ、一体どこから……!」
    「ゼェ、ゼェ……、だめだ、振り切られた」
     兵を増やしたとは言え、その半分近くが戦闘に参加したことはおろか、武術や武道の経験の無い者たちばかりである。戦闘に参加させたところで、戦果が上げられるとは思えないため、経験の無い者でもできるような仕事――配膳や荷運び、軍備の管理に就いていたのだが、その脆弱性を狙った敵の攻撃を防げるわけも無く、見る見るうちに軍備が燃やされていく。
    「あぁ……」
    「飯が、燃える……」
    「どうしよう、武器が……」
     軍備を失うにつれ、彼らの士気も下がっていく。
     敵陣内の雰囲気は、日を追うごとに重苦しくなっていった。

     一方、手練である教団員たちも、あちこちに現れる敵に翻弄され、日ごとに疲労がたまっていた。
    「セイナーッ! いい加減にしやがれーッ!」
    「……フン」
     この戦いでも何度か、晴奈とウィルバーは出くわした。
     だが晴奈は相手をせず、目の前から立ち去るだけに留めている。
    「いつまで逃げ回る気だーッ! 勝負しろ、勝負!」
    「相手をする気は無い! さらばだッ!」
     怒鳴るウィルバーに対し、晴奈は黙々とエルスの指示通りに動く。
     ここでも結局晴奈に振り切られ、ウィルバーは毒づいた。
    「……ハァ、ハァ。何なんだ、アイツ? 出たり消えたりしやがって。オレをおちょくってんのか?」
     ウィルバーは息を整えつつ、晴奈の「奇行」をいぶかしがる。
    「くそ、オレは鼻先にニンジンぶら下げられた馬かっての! 無駄にあっちこっち走らせやがって……」
     ブツブツ文句を言っているところに、後ろからボソ、と声がかけられた。
    「本当に、あの行為が無駄と思うのか?」
    「……ああん?」
     ウィルバーは後ろを向くが、そこには暗い森が広がっている。どうやら声の主は、その闇に紛れているらしい。
    「お前には単なる無駄かもしれないが、敵にとっては意味ある行為かも知れない。そうは考えられないのか?」
    「……んなこと、知ったこっちゃねーよ。アイツが何考えてるか、分かるわけねーじゃねーか。オレはアイツじゃないんだからな」
     暗闇からクックッ、と言う音が響く。どうやら笑っているらしいが、鴉か何かの声にも聞こえる。
    「話にならんな。熟考のできない、愚か者の典型だな」
    「何だと……!?」
     罵倒され、ウィルバーはいきり立つが、声の主は取り合おうとせず、依然笑っている。
    「ククク……、まるで薬缶だな。火があれば勝手に沸く――敵に乗せられて操られやすい。それもまた典型だ、な」
    「てめえッ!」
     ウィルバーは森に向かって棍を投げ入れる。だが手ごたえは無く、それきり声も聞こえなくなった。

     どこに消えたのかとウィルバーが森に入り探しているその真上、木の枝に腰かけている全身真っ黒な男が、ウィルバーの頭を見下ろしながらつぶやく。
    「まったく、のんきな奴だ。己の家に今、危険が迫っていると言うのに。……あいつでは役に立ちそうも無い。むしろ危険を助長、手助けする『道具』になりかねんな。
     もう少しましな者はいないか、敵方も探してみるとしよう。場合によってはその方が、都合がいいかも知れんから、な」



     連合側が敵陣をかき回し続け、一ヶ月近くが経った。
    「みんな、ご苦労さま。おかげでこの後の作業が、とっても成功しやすくなった」
    「まだ何か、作業が……?」
     毎日飛び回り続け、流石に疲労の色が濃い晴奈たちは、エルスの言葉を聞いて一様にうめく。
    「まあ、まあ。これで明日以降の戦いが楽になると思って……。
     そんなわけで、これが今日、最後の仕事」
     そう言ってエルスは皆に一通り視線を送り、次の指示を出した。
    「後、やることは一つだけ――残っている軍備や馬車、他燃やせるものは徹底的に燃やして。ただし、人的被害を出さないように」
    「難しいことを、さらりと言ってくれるな」
     晴奈のつぶやきを聞いていたのか、それとも聞いていなかったのか、エルスはさらに難問をぶつける。
    「で、もし倒れている人がいたら――敵、味方関係無しで――できる限り全員、助けるように」
    「……鬼だな」

     通常、傷ついた兵士――傷病兵と言うのは「お荷物」である。
     戦闘要員にならない上に治療を必要とするため、健常な兵士の足を引っ張ってしまうからだ。当然、助ければ助けるほど行軍は遅くなり、機動力は著しく低下する。軍事行動の効率だけを考えるなら、これは助けず、放っておく方が良いのだ。
     ところが戦略家、軍事司令の玄人であるはずのエルスはそれをやれと言う。晴奈はこの判断に、首をかしげすにはいられなかった。
    「わけが分からない……」
    「そう言わずに、お姉さま。エルスさんもお優しい方ですから、傷ついた方は放っておけないのでしょう」
     晴奈の補佐に付いていた明奈がエルスの真意を解釈しようとするが、晴奈にはどうにも、腑に落ちない。
    「それだけが目的だろうか?」
    「と、言いますと?」
    「エルスは最初、敵に壊滅的打撃を与える戦略と言っていた。であるからして、この指示もその目論見につながるのだろうが……」
    「助けることと、倒すこと。……言われてみれば、まったく反対のことですね?」
     晴奈の指摘に、明奈も首をかしげた。
    「そこなんだ。まったく逆のことのようにしか思えない。この二つがどう、つながるのか」
    「……でも、お姉さまはおやりになるのでしょう?」
    「無論だ」

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    2016.04.01 修正
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