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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第5部

    白猫夢・鉄偶抄 6

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    麒麟を巡る話、第251話。
    人形の遺志。

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    6.
    「……っ、……あれ?」
     気が付くと、マロンはインパラと共に、アジトがあった場所から30メートル以上も離れた場所にいた。
    「『テレポート』……?」
     マロンにもインパラにも、怪我は全くない。
     そこでようやくマロンは、シェベルがその場にいないことに気付いた。
    「シェベル! どこ!?」
    「あちらにおります」
     跡形も無く消し飛んだアジトを、インパラが指差した。
    「……!」
     マロンはインパラの手を引きながら、そこへ向かった。

    「ご無事デ……何ヨり……です」
     確かにそこに、シェベルはいた。
     しかし体の3分の2は木端微塵に吹き飛ばされ、残っていたのは深い亀裂が走った頭と、左肩部分だけだった。
    「アンタ……!」
     マロンは彼女の側に屈み込み、叫んだ。
    「何で!?」
    「何が……でござイま……しょウか」
    「何であたしを助けたのよ! ……いいえ、それは分かる。大事な『素体』だからよね?
     でも助け方、もっと他にあったでしょ? 『テレポート』使えるアンタなら、あいつだけ他の場所にやっちゃうとか」
    「あノ時点で……ワたくしの魔力は……『テレポート』一回分しカ……残っておりまセんでした。あなた様とインパラヲ……飛ばすダけで……精一杯でございマした故」
    「非合理的です」
     インパラも尋ねる。
    「何故アルだけを飛ばさなかったのか、とミニーノ様は尋ねていらっしゃるのです。わたくしも同感です」
    「アルを飛ばし……他の場所デ爆発させレば……ミニーノ様が無事なこトは明らか……でございマす」
    「……!」
     その回答に、マロンは面食らう。
    「……どう言うこと? つまりアンタ、この爆発であたしが死んだことにしときたかったってこと?」
    「はい」
    「何でよ?」
    「生きていルことが分カれば……主様は執拗にミニーノ様を狙うデしょウ……でスのデ……便宜ヲ図らセて……いただキまシた」
    「だから、何でよ? そんなことしたらアンタ、その主に相当怒られるはずでしょ? それにアンタ自身、このザマじゃない」
    「……少しばかリ……計算違いガ多過ギました故」
    「は?」
    「わたクし……造られテからズっと……たダの道具でシた」
     シェベルの声が、段々と金気を帯び始めた。
    「主様ノ欲望ノたメ……ブリッツェン様の欲望ノタメ……使ワレ続ケて参リマしタ。
     シカシ……ワタクシニ感情ガ芽生エ始メてカラ……誰カノ欲ニ操ラレルママ……デイルノガ……ホトホト嫌ニナッテオリマシタ。デキルコトナラ……ワタクシ自身ノ思ウガママニ生キテミタイ……ナ、ト。
     アナタ様ヲオ呼ビシタ……ソモソモノ理由ハ……主様トブリッツェン様カラ……解放サレタカッタカラ。『素体』ガ見付カルマデ……氏ノ元ヲ離レナイヨウ……命令サレテオリマシタ故。
     ソシテ元ヨリ、アナタ様ハ無傷デ逃ガス……予定デモアリマシタ。……アワヨクバ、アナタ様ニ付イテ行キタイトモ……思ッテオリマシタ。
     残念ナガラ……アルノセイデ……ソノ目論見ハ……崩レテシマイマシタ」
    「インパラはどうする気だったのよ? こいつはきっと、主に告げ口するわよ?」
    「……」
     シェベルは目を閉じ、こう答えた。
    「ワタクシニ……感情ガ芽生エタナラ……キット『妹』ニモ……芽生エルハズデス。
     キット彼女モ……ワタクシノ思イヲ……分カッテクレルハズ」
    「……」
     マロンはインパラに目をやる。
    「お姉さんはこう言ってるけど、アンタはどうするつもりだった?」
    「分かりかねます」
     インパラはにべもなくそう返し――だが、こう付け加えた。
    「……ですが、理解したいです」
    「だってさ」
    「……」
     シェベルの顔に走った亀裂が、いつの間にか全体に広がっている。残っていた左肩部分も、今は既に崩れ落ちていた。
    「……インパラ……『妹』ヨ……モシアナタガ……感情ヲ……自分ノ意思ヲ……手ニ入レタイト……言ウノナラバ……主様カラ……離レ……人間……ト……一緒ニ……過ゴ……シ……テ……」
     ごそっ、と乾いた音を立てて、シェベルの頭部は粉々に崩れた。
    「……」
     マロンは立ち上がり、インパラに尋ねた。
    「どうしたい?」
    「……」
    「主の言うことに従う? それとも、お姉ちゃんの遺言に従う?」
    「……」
     インパラの無表情が崩れる。
    「……分かりかねます」
     何度目かのその言葉を、彼女は困った顔で唱えた。

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    2014.06.14 修正
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