「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第5部
白猫夢・双魁抄 3
麒麟を巡る話、第255話。
共倒れ寸前。
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3.
私生活では伴侶を得、充実していたトラス卿ではあったが、公務の面では苦境に立たされていた。
「むむう」
「どうしたの、ショウ?」
妻となったプレタが、夫の浮かない顔を見て尋ねる。
「まあ、なんだ。予想の斜め上を行く、困ったことが起こっているんだ」
「斜め上?」
「大蔵省から上がってきた報告なんだが……」
そう言って、トラス卿はプレタに報告書を見せる。
「……えっ?」
「目を疑うだろう? ……あ、いや、他意は無いぞ。
まあともかくだ、双方共倒れになりそうなんだ」
報告書には、この数週間で急速に央北の通貨――ヘブンズ・クラムとコノンの価値が下落していることが書かれていた。
「別の報告によれば、エルも急落しているとのことだ。
原因はまだ調査中とのことだが、恐らく今後数週間で、さらに価値を落とすだろう」
「コノンが下落したのは、『ファルコン』全滅による非合法の実行手段が失われたせい、……と分かるけど、何故クラムとエルも?」
「これはまだ未確定の情報だが、どうやら『天政会』の幹部の一人と、金火狐財団の関係者が共謀し、何らかの悪事を謀っていたらしい。それが表沙汰になり、両者の信用が損なわれると共に、通貨の価値にも響いたらしい。
なんにせよ、これは予想外だった。もっと悪い事態に発展する可能性は非常に高い」
「もっと悪い事態……、と言うと、クラムとコノン、両方の価値が下がり、央北全体の経済にマイナスの効果をもたらす、ってことね」
プレタの回答に、トラス卿は深々とうなずいた。
「ああ。だが、それだけじゃない。今、央北と最も取引しているのは、央中だ。その央中経済も後退するとなると、貿易の面でも打撃を受けることになる。
このまま看過していては、『天政会』と競り合うどころの話ではなくなるかも知れない」
「困った話だけど……、いいことは一つあるわね」
妻の意見に、トラス卿はきょとんとした。
「と言うと?」
「これ以上『天政会』と無闇やたらに争わなくて済むわ。向こうだって大慌てでしょうし、世論を考えれば強引な買収をしたり、ましてや兵隊を動かして圧力をかけるなんてこと、したくないはずよ。
こっちだって事実上、大規模な出資や軍事行動は執れない。両陣営とも不安要素を抱えた今、きっと向こうも何らかの和解策、協調策を図ろうとするでしょうね」
「なるほど。確かにそれは言える。……ふむ」
トラス卿は突然黙り込む。
「ショウ?」
「ちょっと考えさせてくれ」
「ええ」
「……そうだな。なら、先手を打ってしまうか」
「って言うと?」
「こちらから和平交渉を申し出よう。相手がいずれ打とうと言うのなら、先んじてこっちが便宜を図れば、色々と有利に交渉をまとめられるかも知れないからな」
「でも、懸念点が一つあるわ」
「ふむ?」
「『天政会』は金火狐財団と太いパイプを持ってる。交渉するのなら、きっと何だかんだ言って財団が介入してくるわよ。
こっちは『新央北』の身一つでしょ? 多数決とか世論操作とか、いわゆる『数』の話になれば、こっちが不利なのは目に見えてるわ。
こっちも財団に対抗できる勢力を味方に付けるか、あるいは引き入れないと」
「ふーむ……。それなら良さそうなのが一つある。打診してみるとしよう。
……それにしても」
トラス卿は嬉しそうに笑い、プレタを抱きしめた。
「本当に私は素晴らしい人を奥さんにしたものだ! こんなに美しくて、頭もいい!
私は本当に幸せ者だよ、プレタ」
「……ええ。あたしもよ、ショウ。
あなたみたいに単純で無邪気で、すごく優しい人が、あたしの旦那さんなんて。あたしの人生、これからきっとすごく良くなるわ」
「勿論だとも。『貧乏神邸』の因縁は、トラス家で断ち切ってやるさ」
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共倒れ寸前。
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私生活では伴侶を得、充実していたトラス卿ではあったが、公務の面では苦境に立たされていた。
「むむう」
「どうしたの、ショウ?」
妻となったプレタが、夫の浮かない顔を見て尋ねる。
「まあ、なんだ。予想の斜め上を行く、困ったことが起こっているんだ」
「斜め上?」
「大蔵省から上がってきた報告なんだが……」
そう言って、トラス卿はプレタに報告書を見せる。
「……えっ?」
「目を疑うだろう? ……あ、いや、他意は無いぞ。
まあともかくだ、双方共倒れになりそうなんだ」
報告書には、この数週間で急速に央北の通貨――ヘブンズ・クラムとコノンの価値が下落していることが書かれていた。
「別の報告によれば、エルも急落しているとのことだ。
原因はまだ調査中とのことだが、恐らく今後数週間で、さらに価値を落とすだろう」
「コノンが下落したのは、『ファルコン』全滅による非合法の実行手段が失われたせい、……と分かるけど、何故クラムとエルも?」
「これはまだ未確定の情報だが、どうやら『天政会』の幹部の一人と、金火狐財団の関係者が共謀し、何らかの悪事を謀っていたらしい。それが表沙汰になり、両者の信用が損なわれると共に、通貨の価値にも響いたらしい。
なんにせよ、これは予想外だった。もっと悪い事態に発展する可能性は非常に高い」
「もっと悪い事態……、と言うと、クラムとコノン、両方の価値が下がり、央北全体の経済にマイナスの効果をもたらす、ってことね」
プレタの回答に、トラス卿は深々とうなずいた。
「ああ。だが、それだけじゃない。今、央北と最も取引しているのは、央中だ。その央中経済も後退するとなると、貿易の面でも打撃を受けることになる。
このまま看過していては、『天政会』と競り合うどころの話ではなくなるかも知れない」
「困った話だけど……、いいことは一つあるわね」
妻の意見に、トラス卿はきょとんとした。
「と言うと?」
「これ以上『天政会』と無闇やたらに争わなくて済むわ。向こうだって大慌てでしょうし、世論を考えれば強引な買収をしたり、ましてや兵隊を動かして圧力をかけるなんてこと、したくないはずよ。
こっちだって事実上、大規模な出資や軍事行動は執れない。両陣営とも不安要素を抱えた今、きっと向こうも何らかの和解策、協調策を図ろうとするでしょうね」
「なるほど。確かにそれは言える。……ふむ」
トラス卿は突然黙り込む。
「ショウ?」
「ちょっと考えさせてくれ」
「ええ」
「……そうだな。なら、先手を打ってしまうか」
「って言うと?」
「こちらから和平交渉を申し出よう。相手がいずれ打とうと言うのなら、先んじてこっちが便宜を図れば、色々と有利に交渉をまとめられるかも知れないからな」
「でも、懸念点が一つあるわ」
「ふむ?」
「『天政会』は金火狐財団と太いパイプを持ってる。交渉するのなら、きっと何だかんだ言って財団が介入してくるわよ。
こっちは『新央北』の身一つでしょ? 多数決とか世論操作とか、いわゆる『数』の話になれば、こっちが不利なのは目に見えてるわ。
こっちも財団に対抗できる勢力を味方に付けるか、あるいは引き入れないと」
「ふーむ……。それなら良さそうなのが一つある。打診してみるとしよう。
……それにしても」
トラス卿は嬉しそうに笑い、プレタを抱きしめた。
「本当に私は素晴らしい人を奥さんにしたものだ! こんなに美しくて、頭もいい!
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