「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第1部
蒼天剣・血風録 1
晴奈の話、11話目。
黒と赤の炎。
1.
央南と央中、その二地域を分かつ屏風山脈に、ある組織の総本山がある。
その名は「黒炎教団」。伝説の奸雄、克大火(カツミ・タイカ)を神と崇める集団である。
克大火――年齢・種族不詳。
名前から央南の生まれと推察できるが、どこの地方かまでは不明。魔術と剣術の達人であり、色黒の肌を漆黒の衣服と洋風の外套で覆った、長身の男性だそうである。
巷のうわさに曰く、「200年近く前に起こった戦争の頃から、ずっと若い青年の姿で生きている」、「凶悪な強さを持ち、誰一人打ち負かした者はいない」、「不老不死の秘術を知る唯一の人間、いや、神、もしくは悪魔だ」と、半ば神話や伝説じみた話があちこちに伝わっており、そこに神性を見出した者たちが教団を創り上げたらしい。
教団員たちは克の存在を絶対的なものにすべく、彼の弱点と言われる様々なものを撤廃・廃絶しようと画策している。
まず、彼を敗北寸前まで追い詰めたと言われる、雷の魔術。あらゆる魔術を打ち砕き、克の魔術すら無効化したと言う、伝説の剣。そして――200年前の戦争で興隆・活躍し、後に克と対立した剣術一派、焔流。
双月暦508年、初春。
「またか……!」
「しつこくてかなわん!」
「今度こそ、斬り散らしてくれるわ!」
いつに無く、紅蓮塞が騒々しい。あちこちで剣士たちがいきり立ち、走り回っているからだ。しかし、まだここに来て2年ほどしか経っていない晴奈には、彼らが何に憤り、何をしようとしているのか分からない。
「師匠、何かあったのですか?」
「ええ、少しね」
横にいた晴奈の師匠、柊は、せわしなく動き回る剣士たちの邪魔にならないよう、自分たちの部屋に戻ってから詳しく説明してくれた。
「黒炎教団って知ってる?」
「ええ、故郷でも何度か見かけたことがあります。黒い外套と黒装束を着込んだ、真っ黒な者たちですよね?
うわさに聞くに、央南の東部地域では蛇蝎のごとく忌み嫌われているとか、西端では絶大な政治力を有しているとか」
「ええ。その教団がね、うちに攻めて来るのよ」
「攻めて来る? 一体、何故に?」
話を続けながら、柊は刀を手にし、和紙で拭い出す。どうやら彼女も、戦いに備えるつもりらしい。
「黒白戦争の頃に活躍した奸雄、克大火と対立した一派だから、だそうよ。
黒炎教団は克を信奉しているから、その敵が今もいるとなれば何が何でも打ち倒そうとしているのよ」
この説明に、晴奈は目を丸くして呆れる。
「こ、黒白って確か……、4世紀の戦争だった、ような?
そんな過去の因縁を、まだ引っ張っていると言うのですか?」
晴奈の言葉に、柊は刀に打粉しつつ、クスッと笑う。
「まあ、宗教ってそう言うものよ。央北の天帝教だって、1世紀の経典をずっと使っているんだし。
ともかく、そんなわけで。何年かに一度、彼らはこの紅蓮塞を潰そうと攻めてくるのよ」
柊はもう一度刀を綺麗に拭いて、鞘に納めた。
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黒と赤の炎。
1.
央南と央中、その二地域を分かつ屏風山脈に、ある組織の総本山がある。
その名は「黒炎教団」。伝説の奸雄、克大火(カツミ・タイカ)を神と崇める集団である。
克大火――年齢・種族不詳。
名前から央南の生まれと推察できるが、どこの地方かまでは不明。魔術と剣術の達人であり、色黒の肌を漆黒の衣服と洋風の外套で覆った、長身の男性だそうである。
巷のうわさに曰く、「200年近く前に起こった戦争の頃から、ずっと若い青年の姿で生きている」、「凶悪な強さを持ち、誰一人打ち負かした者はいない」、「不老不死の秘術を知る唯一の人間、いや、神、もしくは悪魔だ」と、半ば神話や伝説じみた話があちこちに伝わっており、そこに神性を見出した者たちが教団を創り上げたらしい。
教団員たちは克の存在を絶対的なものにすべく、彼の弱点と言われる様々なものを撤廃・廃絶しようと画策している。
まず、彼を敗北寸前まで追い詰めたと言われる、雷の魔術。あらゆる魔術を打ち砕き、克の魔術すら無効化したと言う、伝説の剣。そして――200年前の戦争で興隆・活躍し、後に克と対立した剣術一派、焔流。
双月暦508年、初春。
「またか……!」
「しつこくてかなわん!」
「今度こそ、斬り散らしてくれるわ!」
いつに無く、紅蓮塞が騒々しい。あちこちで剣士たちがいきり立ち、走り回っているからだ。しかし、まだここに来て2年ほどしか経っていない晴奈には、彼らが何に憤り、何をしようとしているのか分からない。
「師匠、何かあったのですか?」
「ええ、少しね」
横にいた晴奈の師匠、柊は、せわしなく動き回る剣士たちの邪魔にならないよう、自分たちの部屋に戻ってから詳しく説明してくれた。
「黒炎教団って知ってる?」
「ええ、故郷でも何度か見かけたことがあります。黒い外套と黒装束を着込んだ、真っ黒な者たちですよね?
うわさに聞くに、央南の東部地域では蛇蝎のごとく忌み嫌われているとか、西端では絶大な政治力を有しているとか」
「ええ。その教団がね、うちに攻めて来るのよ」
「攻めて来る? 一体、何故に?」
話を続けながら、柊は刀を手にし、和紙で拭い出す。どうやら彼女も、戦いに備えるつもりらしい。
「黒白戦争の頃に活躍した奸雄、克大火と対立した一派だから、だそうよ。
黒炎教団は克を信奉しているから、その敵が今もいるとなれば何が何でも打ち倒そうとしているのよ」
この説明に、晴奈は目を丸くして呆れる。
「こ、黒白って確か……、4世紀の戦争だった、ような?
そんな過去の因縁を、まだ引っ張っていると言うのですか?」
晴奈の言葉に、柊は刀に打粉しつつ、クスッと笑う。
「まあ、宗教ってそう言うものよ。央北の天帝教だって、1世紀の経典をずっと使っているんだし。
ともかく、そんなわけで。何年かに一度、彼らはこの紅蓮塞を潰そうと攻めてくるのよ」
柊はもう一度刀を綺麗に拭いて、鞘に納めた。



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されかねない・・・っ!
あの犬・・・ウィルバーがいると・・・っ!
今回ばかりは・・・否定できない・・・っ!
まあ、第3部に後日談があるので、そこから類推してくださいw
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今回ばかりは・・・否定できない・・・っ!
まあ、第3部に後日談があるので、そこから類推してくださいw
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NoTitle
結局、紫明は娘たちが大好きなんですね。
晴奈の将来がどうあれ、応援する気になった、と。
この頃の教団は完璧、悪役ですね。
「蒼天剣」1~3部における、「悪」の象徴です。