黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第3部

    蒼天剣・鬼謀録 4

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    晴奈の話、第138話。
    飴と鞭。

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    4.
     すっかり日も落ちた頃。
     連日の遊撃を受け、疲労した教団員や兵士たちは皆、うとうととしている。指揮官であるウィルバーでさえも、睡魔に幾度と無く襲われている有様だ。
    「……っと、いけね」
     眠気を振り払い、慌てて辺りを見回すが、今日はまだ敵の姿が見えない。
    「おかしいな……? ここんとこ、あれだけ引っ切り無しに襲ってきたってのに、今度はぱたりと消えやがった。相手も、疲れて眠って、んのか、な……」
     また睡魔に襲われる。ウィルバーはブルブルと頭を振って無理矢理目を覚ます。
    「……ああ、くそ。考えがまとまらねえ。おい、誰かコーヒーを……」
     言いかけて、辺りを見回したところで言葉を切る。周りの者は皆ぐったりとした様子で、ほぼ全員が眠ってしまっていたからだ。
    「情けねえな。……うーん」
     怒鳴りつけようとしたものの、自分も睡魔には抗いきれない。諦めて、少しだけ仮眠を取ろうとした。
     目をつぶった途端、心地よい浮揚感を覚える。
    (ああ……、何かもう、魂ごと飛びそうなくらい、眠たい)
     そうして仮眠どころではなく、爆睡してしまった。



     顔がなぜか、熱い。いや、体全体に、熱気が当てられている。
     最初は眠気から来る錯覚と思って、そのまま寝ていようとしたが――まどろんでいる間中、ずっと熱いのだ。
    「……!?」
     ようやく危険を察し、ウィルバーは飛び起きた。
     と同時に、視界にあふれんばかりの赤――燃え盛る炎の光が、飛び込んでくる。
    「やべっ」
     慌ててウィルバーは大声を上げる。
    「火事だ! 燃えてるぞ! 敵襲かも知れねえ! 起きろ、早く起きろーッ!」
     その声で何人かのろのろと起き上がり、火事に気付いてバタバタと駆け回る。
    「くそ、やりやがったなッ!」
     ウィルバーは辺りを見回し、敵の姿を探す。すると、水を持って走り回る者たちの向こうに、こちらに背を向けて逃げ去る者たちを見つけた。
    「あそこだな! 逃がすか、この野郎!」
     ウィルバーは三節棍を手に取り、それを追いかけた。

     追いかけてきたウィルバーを確認した晴奈は足を止め、立ち止まる。
    「セイナ?」
    「予想通りだ。先に行っていろ、リスト。相手してくる」
    「分かった。早く戻ってきなさいよ」
     共に行動していたリストと剣士たちを先に行かせ、迫り来るウィルバーを待ち受ける。
    「また、お前か! 今度こそ逃がさねえ……」「大人しく眠っていろ」
     棍を振り上げ、飛び込んできたウィルバーを紙一重でかわし、刀を持っていた右手でその腹を叩く。
    「う、げ……っ、この、効くかよ!」
     急所に当たったはずだが、ウィルバーはものともせず、なおも棍を振りかざす。だが、こちらの攻撃も晴奈に当たらない。
    「闇の中で『猫』の目に敵うと思うか!」
    「はッ、それは『狼』も同じだ!」
     二人は至近距離で刀と棍をぶつけ合う。闇の中に火花が飛び散り、時折両者の姿が浮かび上がる。
    「今日こそ決着をつけてやる!」
    「そうはいかぬ!」
     互いの武器を押し付け鍔迫り合いの形になったところで、短い会話が起こる。
    「なあ、セイナ。こう何度も出会ってると、いい加減、こんな風に思うことは無いか?」
    「何だ?」
    「お前とオレは、お互いが思ってるよりずっと、因縁深いって、な」
    「思わん」
     断言したものの、晴奈はすぐに撤回する。
    「……いや、少しは思わぬことも無い」
    「それで、相談なんだけどな」
    「何だ?」
     暗闇の中で、ウィルバーが笑っているのが何となく見える。
    「お前、オレの女にならねえか?」
    「笑止」
     そこで晴奈が蹴りを放ち、ウィルバーを突き飛ばす。ウィルバーは倒れることも無く、すとん、と立つ。
    「ってて……、そう怒んなって。ま、今のは半分冗談だよ。そこまで好みじゃねえしな」
    「……腕を上げたか。先程の初弾も今の一撃も、それぞれ鳩尾と丹田に当てたはずだが、大して効いていないようだ」
    「ははっ、戦いのことばっかだな、お前。
     コレは格闘術の一種で、喰らう瞬間に後ろへ下がるんだ。ソレだけで、ダメージがかなり抑えられる。わりと覚えるの、苦労したぜ」
    「そうか。なるほど、なかなか手強いかも知れぬ」
    「悠長なこと言ってられるのも、今のうちだぜ!」
     ふたたびウィルバーが仕掛けてくる。
    「その台詞は、そのまま返させてもらおう。そろそろ頃合だ。失礼する」
     が、晴奈は飛んできた棍を軽く弾いてくるりと身をひるがえし、逃げ出した。
    「あ……? え、お、おい?」「いい加減気付け、阿呆が」
     ウィルバーの真横で、昼間聞いた男の声が聞こえてきた。ウィルバーは辺りを見回すが、どこにも姿が見えない。その間にも仇敵はドンドン、遠ざかっていく。
    「あ、くそ……」「阿呆」
     追いかけようとしたウィルバーに、もう一度罵声が投げつけられる。
     振り向くとようやく、すぐ後ろにその男の姿が確認できた。全身真っ黒なせいで表情すら読み取れないが、確かにそこにいる。
    「だからお前は薬缶なのだ。指揮官が部隊を離れて、一体何をしようと言うのだ?」
    「……あっ!?」
     男の言葉に、ウィルバーは愕然とした顔になる。
    「あの晴奈とか言う侍に翻弄されていることに、ようやく気付いたか?」
    「……ちくしょう!」
     ウィルバーは慌てて、軍営へと戻っていった。

     晴奈とウィルバー、両者の姿が見えなくなったところで、声の主――克大火は、小さくつぶやいた。
    「ふむ。やはり、あの小僧は使えんな。難所、難局に耐える性格と、その剛力、戦闘技術は評価できるが、今ひとつ冷静さに欠けるし、考えも浅い。何より自分の役割を弁えず、感情的に行動する点は、論外だな。
     それよりも、あの猫侍の方はなかなか目的に適いそうだ。司令官の命令を遵守し、現場判断も正確。頭も多少は回るようだし、難敵にも果敢に立ち回り、卒なくいなしていた。何より、かなりの腕前。あれは逸材だ。
     あいつに、声をかけてみるとしようか」

     ようやくウィルバーが軍営に戻ってくると、そこは惨状を呈していた。
     あちこちに火の手が上がり、ウィルバーと同じく陽動作戦にだまされたのか、怪我をした者がゴロゴロ転がっている。
    「う、あ……」
     ウィルバーはこの時、自分が敗北したことと、これほど甚大な被害を出してしまったことで、天地がひっくり返りそうなほどのめまいを覚え、がくっと地に膝を着いた。
    「あ、あは、はははは、は……、くそぉ」
     現状を把握しきれない混乱と叔父に失敗を追及される恐怖で、もはやどうして良いか分からず、ウィルバーはずっとそこで座り込んでいた。



     陣地を焼き尽くされ、敵に痛めつけられ、教団側の兵士たちは皆、一様に絶望していた。さらに疲労も加わって、彼らはピクリとも動けない。
    「もう嫌だ……」
    「帰りたいよぉ」
    「やっぱり黒炎に付くんじゃなかった」
     あちこちで、怯えと後悔の声が漏れ聞こえてくる。彼らの士気は、下がるところまで下がっていた。
     と、そこに人影がチラホラ現れる。兵士たちが顔を上げると、そこには連合側の兵士が立っていた。
    「あ、あ……」
    「殺さないで、お願い」
    「助けて……」
     教団側の兵士、いや、教団に付いていた街の者たちは兵士に手を合わせ、助けを請う。
     対する兵士たちは腰に提げていた袋から、すっと食べ物を取り出した。
    「投降するか?」
     街の者たちは深く頭を下げ、食べ物をつかみ――あっさり投降した。
    「は、はい。します」
    「もう嫌です、戦うの」

     こうしてわずか一月のうちに、形成は逆転した。
     教団に付いていた者たちが痛手を負い、連合側に介抱・懐柔されたため、教団に対する信用度は大きく下がり、連合側に寝返った。
     そしてこの戦いにより、戦争の大勢はほぼ決した。教団の主導権はほぼ失われ、また懐柔、軍備拡充に莫大な資金を用いていたことにより、数千万玄に相当する損失を生んだ。これにより教団の軍事活動は、大幅に縮小せざるを得なくなった。
     エルスが言っていた通り、彼の作戦は教団側に壊滅的な打撃を与えることとなった。

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    2016.04.01 修正
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