「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第5部
白猫夢・双魁抄 7
麒麟を巡る話、第259話。
巨魁のさらに上を行った豪商たち。
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7.
「……完敗だ」
協議が終わり、帰路に就いたところで、トラス卿はがっくりと肩を落としながら、そうつぶやいた。
「我々は、……いや、我々だけではない。『天政会』すらも手玉に取られた。
我々の予想、そして手腕の、はるか上を行かれた。こんな結果になろうとは……」
「しょうがないわね」
落ち込む夫を、プレタが慰める。
「今にして思えば、レオン総帥も黄大人も、あたしたちがいがみ合って疲弊するのを待っていたんだと思うわ。
そうなれば央北の覇権を二分するあたしたちを、揃って買い叩けるんですもの」
「……なるほど。言われてみれば確かにそうだ。その通りだ。
我々だって相手が疲れ切ったところを、二束三文で買おうとしていたわけだからなぁ……」
疲れた目でぼんやりと遠くを眺めるトラス卿を、プレタは優しく抱きしめた。
「……まあ、全部終わったんだし、もういいじゃない。
これで戦争しないで、お金儲けにだけ、力を注げるじゃない。600億くらい、あなたの手腕ならさっさと返せるわよ」
「……うむ。頑張るしかあるまいな」
「ええ、頑張りましょ。あたしも手伝うから」
「ああ。君がいれば百人力だ。
これからも頼むよ、プレタ」
トラス卿は抱きつくプレタの額に、ちょん、とキスをして返した。
「メイナさん、今回はホンマにありがとうございました」
同時刻――レオン夫妻と明奈はまだ、サウストレードに留まっていた。
「いいえ、こちらこそ」
明奈はぺこっと頭を下げ、嬉しそうに笑う。
「でも、……本当に久しぶりですね。久々に顔を合わせられて、本当にうれしいです、フォルナさん」
「ええ、わたくしも同じ気持ちですわ。こんな形で会うとは、思っておりませんでしたけれどね」
明奈とレオンの妻、フォルナは、実は20年来の友人だったのである。
財団総帥の妻である彼女を通じて、明奈は央北の政治・経済の裏で起こっていることを知っていたのだ。
そして「天政会」と「新央北」の戦いによっていずれ両陣営が疲弊し、共倒れになることを予測した明奈は、レオン夫妻にこんな提案をしていたのである――「進退を窮めた両陣営のどちらかが、きっと和平交渉を申し出るはず。その協議に我々が参加してはどうか」と。
「世界的権威を持つわたしたちであれば国際的な争議の仲裁役には打ってつけですし、その一方、わたしたちにたしなめられて反発するような組織・団体は、まずおりませんものね。
おかげで一儲けできます」
「ええ、ホンマですわ。
まったく、一時はどうしようか思てましたけど」
「『天政会』と『新央北』、この両陣営の争いを止めれば、きっと央北の復興は近い将来達成できます。カメオ聖下もトラス卿も、手腕は確かでいらっしゃいますものね」
「復興すれば、とてつもない需要を生み出すでしょうな。
今、多少のエル安、玄銭安があったとしても、復興してデカい『お客さん』になれば、どっちもV字回復するのんは目に見えてますしな」
「むしろわたしたちにとっては、エルも玄も、クラムもコノンも『絶対に騰がる』と分かっていますものね。またとない投機の機会に恵まれた、と言っていいでしょう」
「ホンマにその通りですわ。
まあ、言い方はえらい悪いかもですが……」
レオンはニヤリ、と笑う。
「ええカモでしたな、どっちも」
「うふふ……」「そう言えますね」
明奈とフォルナも、クスクスと笑っていた。
数年後――明奈たち三人の予測通り、央北経済は急速に回復。央中・央南との貿易が拡大した。
それに牽引される形で、停滞・後退しつつあった両地域の経済も大きく躍進し、両商会は一段と財を蓄えた。
だが――央北の復興・回復が、次の時代に新たな混乱・衝撃を招くことまでは、流石の彼女らにも予測できなかった。
白猫夢・双魁抄 終
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巨魁のさらに上を行った豪商たち。
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7.
「……完敗だ」
協議が終わり、帰路に就いたところで、トラス卿はがっくりと肩を落としながら、そうつぶやいた。
「我々は、……いや、我々だけではない。『天政会』すらも手玉に取られた。
我々の予想、そして手腕の、はるか上を行かれた。こんな結果になろうとは……」
「しょうがないわね」
落ち込む夫を、プレタが慰める。
「今にして思えば、レオン総帥も黄大人も、あたしたちがいがみ合って疲弊するのを待っていたんだと思うわ。
そうなれば央北の覇権を二分するあたしたちを、揃って買い叩けるんですもの」
「……なるほど。言われてみれば確かにそうだ。その通りだ。
我々だって相手が疲れ切ったところを、二束三文で買おうとしていたわけだからなぁ……」
疲れた目でぼんやりと遠くを眺めるトラス卿を、プレタは優しく抱きしめた。
「……まあ、全部終わったんだし、もういいじゃない。
これで戦争しないで、お金儲けにだけ、力を注げるじゃない。600億くらい、あなたの手腕ならさっさと返せるわよ」
「……うむ。頑張るしかあるまいな」
「ええ、頑張りましょ。あたしも手伝うから」
「ああ。君がいれば百人力だ。
これからも頼むよ、プレタ」
トラス卿は抱きつくプレタの額に、ちょん、とキスをして返した。
「メイナさん、今回はホンマにありがとうございました」
同時刻――レオン夫妻と明奈はまだ、サウストレードに留まっていた。
「いいえ、こちらこそ」
明奈はぺこっと頭を下げ、嬉しそうに笑う。
「でも、……本当に久しぶりですね。久々に顔を合わせられて、本当にうれしいです、フォルナさん」
「ええ、わたくしも同じ気持ちですわ。こんな形で会うとは、思っておりませんでしたけれどね」
明奈とレオンの妻、フォルナは、実は20年来の友人だったのである。
財団総帥の妻である彼女を通じて、明奈は央北の政治・経済の裏で起こっていることを知っていたのだ。
そして「天政会」と「新央北」の戦いによっていずれ両陣営が疲弊し、共倒れになることを予測した明奈は、レオン夫妻にこんな提案をしていたのである――「進退を窮めた両陣営のどちらかが、きっと和平交渉を申し出るはず。その協議に我々が参加してはどうか」と。
「世界的権威を持つわたしたちであれば国際的な争議の仲裁役には打ってつけですし、その一方、わたしたちにたしなめられて反発するような組織・団体は、まずおりませんものね。
おかげで一儲けできます」
「ええ、ホンマですわ。
まったく、一時はどうしようか思てましたけど」
「『天政会』と『新央北』、この両陣営の争いを止めれば、きっと央北の復興は近い将来達成できます。カメオ聖下もトラス卿も、手腕は確かでいらっしゃいますものね」
「復興すれば、とてつもない需要を生み出すでしょうな。
今、多少のエル安、玄銭安があったとしても、復興してデカい『お客さん』になれば、どっちもV字回復するのんは目に見えてますしな」
「むしろわたしたちにとっては、エルも玄も、クラムもコノンも『絶対に騰がる』と分かっていますものね。またとない投機の機会に恵まれた、と言っていいでしょう」
「ホンマにその通りですわ。
まあ、言い方はえらい悪いかもですが……」
レオンはニヤリ、と笑う。
「ええカモでしたな、どっちも」
「うふふ……」「そう言えますね」
明奈とフォルナも、クスクスと笑っていた。
数年後――明奈たち三人の予測通り、央北経済は急速に回復。央中・央南との貿易が拡大した。
それに牽引される形で、停滞・後退しつつあった両地域の経済も大きく躍進し、両商会は一段と財を蓄えた。
だが――央北の復興・回復が、次の時代に新たな混乱・衝撃を招くことまでは、流石の彼女らにも予測できなかった。
白猫夢・双魁抄 終
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第5部終了です。
ただ、この部を総括して言いたかったことは、
既に250話の追記で言ってしまっているので、
別の話をあれこれ。
前々作「蒼天剣」からご愛読いただいている方にとっては、
この節の話はちょっとショックかも知れません。
「なんであの子、あいつとくっついてないの!?」と。
理由は明日の番外編で説明します。
あと、「蒼天剣」を細かいところまで覚えてる方にとっては、
なぜマロン(黄月乃)とプレタ(桜凪海)が似ていたのか、
ピンとくるのではないかな、……と。
興味があれば、一度その「密かな因縁」を探し、推理してみて下さいな。
あともう一つ。
第5部連載開始前に掲載した西部劇小説、
「DETECTIVE WESTERN」の第2作が完成しました。
現在、挿絵を依頼中につき、掲載はもう少ししてから。
しつこいようですが、まだあともう一つ。
「短編」カテゴリが「DW」で埋め尽くされそうなので、
カテゴリ名を「短編・掌編」と変え、
過去に書いた掌編小説をリメイクし、散発的に掲載したいと思います。
あと、新作も何点か出せれば。
なんでここまであれこれ挙げつらったか、……って?
第6部がまだほとんど完成してないからです。
「DW」連載後に連載開始する予定ではありますが、
今のところ予定が立てられそうにないです。
それでも8月までには完成させるつもりなので、
皆様ご声援の程、よろしくお願いします。
第5部終了です。
ただ、この部を総括して言いたかったことは、
既に250話の追記で言ってしまっているので、
別の話をあれこれ。
前々作「蒼天剣」からご愛読いただいている方にとっては、
この節の話はちょっとショックかも知れません。
「なんであの子、あいつとくっついてないの!?」と。
理由は明日の番外編で説明します。
あと、「蒼天剣」を細かいところまで覚えてる方にとっては、
なぜマロン(黄月乃)とプレタ(桜凪海)が似ていたのか、
ピンとくるのではないかな、……と。
興味があれば、一度その「密かな因縁」を探し、推理してみて下さいな。
あともう一つ。
第5部連載開始前に掲載した西部劇小説、
「DETECTIVE WESTERN」の第2作が完成しました。
現在、挿絵を依頼中につき、掲載はもう少ししてから。
しつこいようですが、まだあともう一つ。
「短編」カテゴリが「DW」で埋め尽くされそうなので、
カテゴリ名を「短編・掌編」と変え、
過去に書いた掌編小説をリメイクし、散発的に掲載したいと思います。
あと、新作も何点か出せれば。
なんでここまであれこれ挙げつらったか、……って?
第6部がまだほとんど完成してないからです。
「DW」連載後に連載開始する予定ではありますが、
今のところ予定が立てられそうにないです。
それでも8月までには完成させるつもりなので、
皆様ご声援の程、よろしくお願いします。



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双月千年世界 1;蒼天剣

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