「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
双月千年世界 短編・掌編
白猫夢番外編 その3
麒麟を巡る話、ではまったくありません。
第17代総帥の憂鬱と執念。
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白猫夢番外編 その3
「はぁ……」
双月暦528年、ゴールドコースト市国にて。
第17代金火狐財団総帥、ヘレン・トーナ・ゴールドマンは自分の息子、エランの結婚式に出席していると言うのに、憂鬱そうな様子を見せていた。
「あら、浮かない顔ですわね。折角のお式ですのに」
「折角のお式やからやん。……あーあ」
傍らに座る、茶耳の狐獣人の女性を一瞥し、ヘレンはもう一度ため息をついた。
「ずーと前から、アンタがあの子の奥さんになってくれたらええのになー、と思てたんですよ」
「ええ……。それは重々理解しておりましたけれど」
その狐獣人、フォルナは小さく頭を下げる。
「どうしても、あの人とはそう言う関係になれないな、と。わたくしもわたくしで、ずっとそう思っておりましたもので」
「何でなん? そこをちゃんと聞かへんと、諦めきれませんわ」
「説明は、非常に難しいのですが……」
フォルナは一瞬目を閉じ、己のもやもやとした、形容しがたい思いを話す。
「初めて会った時から、あの人はわたくしにとって『男』では無かったのです。
もっと別の……、そうですね、何と申せば良いでしょうか……、言うなれば『弟』とか、『子供』とか、そんな感じでしたもの」
こう聞かされ、ヘレンは口を「へ」の字に曲げる。
「あの子の方が年上やねんけど、……まあ、そう言われてもしゃあない子やからなぁ」
「終わりよければと申しますでしょう? 今、エランはきちんと、本当の愛を感じた方と結婚して、家庭を持てたわけですから。
総帥もそのうち、きっとお嫁さんのことを気に入られますわ。わたくしから見ても感じのいい、優しい方ですもの」
「……まあ、そやけどな。それは私も思てますよ。思てますけど、……やっぱりアンタやなかったのが惜しいわぁ」
まだ口を尖らせているヘレンに、フォルナはいたずらっぽく笑い、左薬指にはまった指輪を見せる。
「とは言えわたくしも、今はトーナ家の一員ですわ。
モントと結婚いたしましたから、総帥ともごく近しい親戚になりましたもの」
「……それが一番モヤモヤするねん。何でよりによってアイツと?」
「先程の説明と併せれば、会った当初からわたくし、彼を『男』と思っておりましたもの」
「今のアンタからその台詞聞くと、なんか生々しいわ……」
ヘレンはぽむ、とフォルナの膨らんだ腹を叩いた。
「分かった、もうええですわ。こうなった以上、諦めざるを得ませんわ。
でもその代わり、エランの子とアンタの子、絶対結婚させたりますからな」
「……諦め、悪いですわね。もしかしたらどっちも男の子か、女の子かも知れませんのに」
「まあ、そうなったら諦めるわ。……でも覚えときやー」
ヘレンは不敵に笑い、こう続けた。
「金火狐一族は不屈揃いや。よっぽどのことが無い限り、諦めへんねんで」
「あら、恐ろしいこと」
ちなみにこの後、フォルナとレオンの間には男の子が、エランとその妻の間には、女の子が生まれた。
当然の如く――ヘレンは即座に、この子供たちを許嫁にさせたと言う。
閑話 終
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第17代総帥の憂鬱と執念。
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白猫夢番外編 その3
「はぁ……」
双月暦528年、ゴールドコースト市国にて。
第17代金火狐財団総帥、ヘレン・トーナ・ゴールドマンは自分の息子、エランの結婚式に出席していると言うのに、憂鬱そうな様子を見せていた。
「あら、浮かない顔ですわね。折角のお式ですのに」
「折角のお式やからやん。……あーあ」
傍らに座る、茶耳の狐獣人の女性を一瞥し、ヘレンはもう一度ため息をついた。
「ずーと前から、アンタがあの子の奥さんになってくれたらええのになー、と思てたんですよ」
「ええ……。それは重々理解しておりましたけれど」
その狐獣人、フォルナは小さく頭を下げる。
「どうしても、あの人とはそう言う関係になれないな、と。わたくしもわたくしで、ずっとそう思っておりましたもので」
「何でなん? そこをちゃんと聞かへんと、諦めきれませんわ」
「説明は、非常に難しいのですが……」
フォルナは一瞬目を閉じ、己のもやもやとした、形容しがたい思いを話す。
「初めて会った時から、あの人はわたくしにとって『男』では無かったのです。
もっと別の……、そうですね、何と申せば良いでしょうか……、言うなれば『弟』とか、『子供』とか、そんな感じでしたもの」
こう聞かされ、ヘレンは口を「へ」の字に曲げる。
「あの子の方が年上やねんけど、……まあ、そう言われてもしゃあない子やからなぁ」
「終わりよければと申しますでしょう? 今、エランはきちんと、本当の愛を感じた方と結婚して、家庭を持てたわけですから。
総帥もそのうち、きっとお嫁さんのことを気に入られますわ。わたくしから見ても感じのいい、優しい方ですもの」
「……まあ、そやけどな。それは私も思てますよ。思てますけど、……やっぱりアンタやなかったのが惜しいわぁ」
まだ口を尖らせているヘレンに、フォルナはいたずらっぽく笑い、左薬指にはまった指輪を見せる。
「とは言えわたくしも、今はトーナ家の一員ですわ。
モントと結婚いたしましたから、総帥ともごく近しい親戚になりましたもの」
「……それが一番モヤモヤするねん。何でよりによってアイツと?」
「先程の説明と併せれば、会った当初からわたくし、彼を『男』と思っておりましたもの」
「今のアンタからその台詞聞くと、なんか生々しいわ……」
ヘレンはぽむ、とフォルナの膨らんだ腹を叩いた。
「分かった、もうええですわ。こうなった以上、諦めざるを得ませんわ。
でもその代わり、エランの子とアンタの子、絶対結婚させたりますからな」
「……諦め、悪いですわね。もしかしたらどっちも男の子か、女の子かも知れませんのに」
「まあ、そうなったら諦めるわ。……でも覚えときやー」
ヘレンは不敵に笑い、こう続けた。
「金火狐一族は不屈揃いや。よっぽどのことが無い限り、諦めへんねんで」
「あら、恐ろしいこと」
ちなみにこの後、フォルナとレオンの間には男の子が、エランとその妻の間には、女の子が生まれた。
当然の如く――ヘレンは即座に、この子供たちを許嫁にさせたと言う。
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