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    短編・掌編

    やどかり

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    やどかり

     友人のIは、変わり者だ。
    「座敷童っているだろう?」
     ほら来た。なんで男二人で家飲みしてる時に、そんな話題が出るんだ。
    「いるかどうか知らんが、まあ、聞く話だな」
     一応、乗ってやる。
    「典型的と言うか、古典的なスタイルとしては、『子供の姿をしている』『いつの間にか家に憑いている』『いつの間にか家人と交じって遊んでいる』となっている。
     だけどもセキュリティの発達した現代で、いつの間にか家の中に……、と言うのは難しいんじゃないかと思うんだ」
    「まあ、そうだな」
     変な話題を一々採りあげる奴ではあるが、その話についていけないと言うことは無い。とりあえず俺は、話に耳を傾ける。
    「で、彼ら、……か、彼女らかは分からないけれども、ともかく彼らはもっと、紛れやすい手を使ってるんじゃないかと思うんだよ」
    「紛れやすい手?」
    「例えばだ。誰かの家に遊びに行って、そこに小さい子がいたら、君はどう思う?」
    「まあ、そいつの子供か弟、妹だと思うだろうな」
    「だろう? ……で、この前なんだけど、僕はRの家に遊びに行ったんだ」
    「Rの?」
     Rと言うのは、俺とIの共通の友人である。
    「ちょうど今、君とやってるみたいに、二人で飲んでたんだ」
    「ふーん」
    「で、確認だけど」
     Iは手にしていたコップをぐい、とあおり、話を続ける。
    「Rは一人暮らし、だったよね」
    「ああ」
    「ところが、……妙なことに、僕の記憶では、小さな女の子が」
     と、そこでIの妹さんが、空になったコップにビールを注いでくれた。
    「ありがとう。……そう、今やってくれたみたいに、酒を持ってきてくれたり、つまみを作ってきてくれたりしたんだ」
    「へ?」
    「その時は何にも不思議に思わなかったんだ。
     でも、今になって考えたら、……君の言う通り、確かにRは一人暮らしだったはずなんだ。後で聞いてみても、『知らん』って言われるし」
    「酔ってたんじゃないのか、お前」
    「まあ、……うーん、かも知れない。でも、……そこでさっきの話だよ。
     その女の子は、座敷童だったんじゃないかなって」
     俺も妹さんにビールを注いでもらいながら、その話に乗る。
    「まさか。いくらなんでも気付くだろ?
     Rとは高校からの付き合いだし、あいつが一人っ子だってのは、みんな知ってるじゃないか」
    「だろう? しかしそこが、座敷童の座敷童たる由縁じゃないかなって」
    「はあ」
     あーあ。今日のIは、かなり酔っぱらっているらしい。話が超展開になってきたぞ。
    「家人の振りをして、平然とそこにいたりするんじゃないだろうか。それなら『誰?』って気にされたりもしない」
    「いやいや、いくらなんでもそれは無茶だろ」
     今日のところは、ここら辺でブレーキをかけておいてやろう。
    「例えばさ、毎日家計簿付けてる家とかだったら、一ヶ月くらいで気付くだろ?
     妖怪がメシを食うか知らんが、どうあれ食費がいきなり一人分増えたら、帳尻が合わなくなるわけだし。まあ、ズボラな奴の家だったら気付かんかも知れんが、Rや俺たちみたいに、一人暮らしだったらすぐ分かる。
     お前酔ってたんだってば、な?」
     が、Iはピン、と指を立てて反論する。
    「そこだよ。長居していれは、気付かれう危険もある。
     そこれかれられ、ら……」
    「おい、もう呂律回ってないじゃないか。なあ、悪いけど、水持ってきてくれよ」
     俺は妹さんにそう頼みつつ、勝手ながらIの布団を用意してやる。
    「おい、ちょっとまれろ」
    「何だよ」
    「みずっれ、だれり……」
    「いいから、ほら。こっちで休め。ほれ、って」
     俺はIに手を貸し、妹が持ってきてくれた水を飲ませてやった。
    「ほら、これ飲んで寝ろ」
    「ああ、うん、……」
     まだ何かむにゃむにゃ言っていたが、俺は「じゃ、帰るからな」と言い残して、Iの部屋から出ようとした。
     と――俺は部屋の真ん中で突っ立っていた妹に声をかける。
    「おい、何してる? 置いてくぞ」
    「はーい」
     俺は妹の手を引き、ドアを開けた。
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    連載楽しみにしています。
    頑張ってください。

    NoTitle 

    移動式なんですね。
    それは座敷というのかどうか微妙ですが。
    まあ、それでも気付かないという特性を守っているのは良いですね。・・というよりか、もともと座敷わたしは移動性か。いる間は栄え、いなくなると衰退するという話ですね。

    とりあえずグッゲンハイムの予告編つくりました。
    本格連載は8月くらいです。
    リクエストありがとうございます。

    NoTitle 

    ご笑覧いただき、ありがとうございます。

    出ていくタイミングについてはあまり深く考察していませんが、
    もしかしたら本当に、底抜けにおおらかな家であればずっと居ついてくれるかも知れませんね。

    NoTitle 

    読ませていただきました。面白かったです。

    座敷わらしが出て行く切っ掛けは、正体に気づかれそうになった時、でいいんでしょうか?

    すごくおおらかで鈍い人間だといつまでもいてくれるのかな?

    NoTitle 

    従来の伝統と一線を画す、移動型座敷童です。
    こういうタイプだと、幸不幸の話もちょっと事情が変わってくるかも知れません。
    「出て行った後に良くないことが起こる」ではなく、
    「家にいる間はいいことが起こる」のかも。
    出て行った後は運勢が元通りになるだけで。

    おー、なんかあってもよさそな話ですねー 

    座敷童って、大人は気付かない、とか特性がいろいろ言われるから、気づかないまま定住されてても不思議ではないかも。とは思うけど、このお話みたいな展開もありそな感じしますね(^^)
    座敷童に出ていかれるとよくないことがあったりする、て話もありますけど。
    定住しないで、渡り歩かれると不幸なおうちが次々と。ってなるのかな?
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