黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第3部

    蒼天剣・鬼謀録 5

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    晴奈の話、第139話。
    最後の手段、放出。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    5.
     教団の大敗北により、ウィルバーはワルラスから叱責を受けていた。
    「ウィル! まったくお前と言う奴は! これほどの愚か者とは思わなかったぞ!」
     ワルラスはいつにも増して、ウィルバーを激しくののしる。
    「本当に、その、すみません……」「すみませんで済むかッ!」
     激昂したワルラスはウィルバーの首をつかみ、ギリギリと締め上げる。
    「ぐえ、が、あが……」
    「この、この……ッ!」
     ウィルバーの顔が真っ青になる。ワルラスはウィルバーの体を投げ飛ばし、壁に叩きつけ、さらに蹴倒して罵倒する。
    「お前のせいで! お前のせいで事態が悪化したじゃないか! 死ね! 死んでわびろ!」
     この騒ぎを聞きつけ、教主でありウィルバーの父親でもあるウィリアムが従者を連れ、部屋に入ってきた。
    「いい加減にしろ、ワルラス! 本当に死んでしまうだろう!?」
     従者たちはワルラスを抑え、ウィルバーを助け起こした。羽交い絞めにされながらも、ワルラスは反論しようとする。
    「しかし兄上……」
    「黙れ! こいつにばかり責任を押し付けて、自分に非は無いと言うつもりか!?
     お前が策士と言うのならば、このような『万一の事態』も予想し相応に対応・収拾すべきだろう!? それをろくに指示も出さず、一指揮官に丸ごと責任を転嫁して滅多打ちにするとは、策士が聞いて呆れる!」
    「う……」
     正論を返され、ワルラスは言葉に詰まる。
    「それにだ! 何人もの同志から聞いているぞ! アマハラを抱き込み、裏切られた件についてもすべてウィルのせいにして、満身創痍の状態で連れ回しながらいびり倒したと!
    『アマハラの件は自分が全責任を負う』と、15年前胸を張って答えたのは一体誰だ!?」
    「そ、それは事情が変わって……」
    「事情だと!? 事情が変わったら、ウィルを痛めつければ解決するのか!? 理屈にもなっていないだろう!? 自分の失策、失態を他人になすりつけるなど、上に立つ者のすべきことではない!
     今回の件で、大司教にあるまじきお前の卑劣さ、卑怯さが良く分かった! やはりお前には大司教の座は務まらん。その頭脳を買って就かせてはみたが、精神面では到底、その資格が無い! それがウィルの、この姿で証明されたな」
     ウィリアムはボコボコにされたウィルバーを指差し、悲しそうに顔を歪める。
    「ああ……! また、差し歯が抜けて! 気も失っている……。君たち、早く医療院に連れて行ってやりなさい」
     従者にウィルバーを抱えさせ、治療に向かわせた後、ウィリアムは再度ワルラスをにらみ、こう告げて部屋を後にしようとした。
    「この度の大敗北の責任は勿論、ウィルバーにも取らせる。だがお前にもいずれ、きっちりと取ってもらうぞ。アマハラの件も兼ねてな」
     ワルラスは去ろうとするウィリアムに、慌てて声をかけた。
    「待ってください、兄上!」
    「何だ? まだ何か、言い訳するつもりか?」
    「いえ、そうではなく。……今回の件、確かに私にも、非はあります。経験豊富なウィルをたのみにし、支援もせずに放任したことが、今回の失敗につながったと思います。
     ですから次はこの私自ら戦地に赴き、指揮を執らせていただけないでしょうか?」
     ワルラスの提案に、ウィリアムは面食らう。
    「何? お前が?」
    「はい、この私がです。実を言いますと、今回の作戦は大量に物資があったため、使う必要は無いかと思って温存しておいた兵器がございます。それを用いれば、今度こそ勝利をものにできるはずです!」
    「兵器だと? いつの間にそんなものを?」
    「極秘に開発、秘匿しておりました。私の命令でなければ活動……、もとい、起動しません」
    「ふむ……?」
     ワルラスの自信たっぷりな弁説に、ウィリアムも耳を傾け始めた。



     ワルラスはウィリアムの説得に成功し、戦う機会を与えられた。
     ウィリアムが部屋を出た後、ワルラスは机に仕掛けていたスイッチをそっと押す。するとゴトゴトと音を立て、本棚が動き出した。
    「アマハラはとんだ愚か者だったが……」
     本棚の奥に、隠し階段が現れる。ワルラスは階段を降り、奥へと進む。
    「魔術の才は本物だった」
     奥へ降り切ったところで、頑丈な扉にたどり着く。
    「私に献上した、この『兵器』」
     扉を開けると、その向こうには――。
    「存分に使わせてもらうぞ。最早、手段は選んでいられんからな」
     何十頭もの獣の叫び声と、むせ返るような獣の匂いが広がっていた。

    蒼天剣・鬼謀録 終

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    2016.04.01 修正
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    今回は特殊な事情がいくつか絡んでますからねぇ……。
    自分とこ(黒炎教団内)の兵なら、使い捨てにしても、どこからも文句は出ないでしょうが、今回は教団の協力者集めで得た民間人ですしね。
    その人達が殺されちゃうと、せっかく自分たちの側に付いた協力者が離れる可能性もあったわけで。
    どうしても、死なないようなポジションに配置せざるを得なかったと思います。
    ウィルくん、今回は本気で難儀したと思います。上からは無茶振りされるし、下は言うこと聞いてくれないしで……。

    NoTitle 

    ウィルバーくん、軍団の指揮官としては失格だなあ。というか、こういう人に一軍を指揮させるということ自体が間違っているような。根こそぎ動員と物量作戦は戦略として間違っていないと思うけど、未訓練の兵士は軽装歩兵として前面に展開、敵を混乱させるための使い捨ての駒にするのが常道ではないのかなあ。ほんとに兵法を学んだ上で指揮を取っているのかなあ。うむむ。

     

    どもども~。
    そう言えばこの回は、珍しくウィリアムが多弁でしたね。
    次回の「魍魎録」も、ウィリアムたち教団の中心人物にスポットが当たってます。

    もうすぐ3部も終わりですが、……ここからがまた、長かったり。
    よろしくお付き合い下さいませ。

     

    いやっふ~~。
    どうも、LandMです。
    あれですね、やはり書いた後に作品を見ると新たな一面で見れるのがすごいですね。比重が結構黒炎教団に行っていたので、こちらのやりとりが見れると嬉しいですね。3部は3部で長いので、こちら側で採用するとしたら、3部のみ採用ですかね。……まだまだ先の話になりそうですが。

    また続きは読ませていただきますね。どうもLandMでした。
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