DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 2 ~死の博打~ 2
ウエスタン小説、第2話。
眉唾な依頼。
2.
「そりゃまた物騒な」
パディントン局長からの話を聞いて、探偵局員アデルバート・ネイサンは眉をひそめた。
「俺は保安官でも用心棒でも軍人でも無いんですよ?」
「しかし最善の方法はそれしか無いんだよ。それ以外のアプローチをしたら、ほぼ確実に君は死ぬ」
「正直、胡散臭いっス……」
「しかし事実、そいつと接触したガンマン、カウボーイ、用心棒、保安官、軍人、教師、牧師、牧場主、鉱山主、エトセトラ、エトセトラ、……ともかく色んな人間がそいつとテーブルを囲み、ギャンブルし、そして一人残らず死んでるんだ。27人、たった一人の例外も無く、だ。
だから、そいつと接触した際に君が執るべき行動は一つしか無い。出会った瞬間に撃ち殺すしかないんだよ」
「まあ、凶悪な賞金首って言うなら射殺もやむなしでしょうけど……」
アデルは依頼書の人相書きに目を通し、「うーん」とうなる。
「正体不明の胡散臭いインディアンって感じですけど、ただギャンブルしてただけでしょ、こいつ。しょっぴくだけじゃダメなんスかねぇ」
「それが大きな問題なんだ。彼と卓を囲んだ27人全員が死んでいるわけだからね。
彼自身に殺意が無いとしても、これだけ死者が出ているのだから、野放しにできない。クライアントもそう思っているからこその、この依頼なんだよ」
依頼書の内容は、次の通りである。
「近年、我が州およびその近隣州を徘徊する一人のインディアンによって、我が州各市町村で数多くの死亡者が発生している。
目撃者によれば、『本人は賭博行為を行っただけ』とのことではあるが、彼と賭博を行った者は例外なく死亡していることから、彼自身が殺害した、あるいは殺害に関与した疑いが強い。
そこで並々ならぬ実績を持つ貴君に、件の『デス・ギャンブラー』の捜索、および拿捕ないしは殺害を依頼したい。
報酬は州が彼に課した懸賞金12000ドルと、私個人からの謝礼金3000ドルとする。
A州知事 ……」

「頼むよ、知事とは……」「はいはい、『昔からの付き合いなんだ』、でしょ? 素敵なご友人がいっぱいいらっしゃるのね」
エプロン姿の女性が、コーヒーを盆に載せてやって来た。
新しくパディントン探偵局の一員となった賞金稼ぎ、エミル・ミヌーである。
「そうとも。だからこそこの探偵局もここまで大きくなったわけだ、うははは……」
エミルの皮肉をものともせず、局長は高笑いして見せる。
「はあ……。
で、こいつに何を頼んでるの?」
エミルはコーヒーを配り、アデルを親指で差す。
「西部の、かなり西の方で話題になってる賞金首を仕留めてきてほしいのさ。君も『デス・ギャンブラー』のうわさを聞いたことはあるだろう?」
「ええ。とんでもなく強いんですってね。銃や腕っ節じゃなく、博打の方だけど」
「その通り。しかしその強さは、何と言うか……、あまりにも呪われた強さなんだ。
さっきも話した通りだが、こいつは27人の人間を死に追いやっている。それも白人ばかりをな」
これを聞き、エミルの鼻がぴく、と動く。
「『ギャンブラー』はインディアン風の男だって話だけど、それを考えると死人が白人ばっかりって言うのも怪しいわよね」
「ああ。しかも死者27名に、それ以外の共通点は無い。
我々でその27名に対し身辺調査を行ってみたが、まったく関係性が無かったんだ。一番近い2人の住所を見ても、17、8マイルは距離が離れている。
まあ……、もう一つ、共通点としてはだ」
「全員『ギャンブラー』と博打してる最中か、その直後に死んでるんだよ。確かに『死神(デス)』だな、こいつは。
とは言えですよ、局長。博打やってるだけで死ぬなんてこと、有り得るんスかね」
「今は何とも言えん。そこは実地で調査しなけりゃ、結論は出んよ」
「……ま、業務命令ならどこでも行きますよ。イギリスだろうとインドだろうと、ニッポンだろうと」
アデルは肩をすくめ、コーヒーを一気に飲み干した。
「頑張ってねー」
エミルはそう返し、そそくさとその場を離れようとする。
しかしそれを見逃す局長ではなく――。
「君もね」
局長はエミルの肩をつかみ、にこやかに微笑んできた。
「……はーい、はい」
エミルもアデル同様、肩をすくめて見せた。
@au_ringさんをフォロー
眉唾な依頼。
2.
「そりゃまた物騒な」
パディントン局長からの話を聞いて、探偵局員アデルバート・ネイサンは眉をひそめた。
「俺は保安官でも用心棒でも軍人でも無いんですよ?」
「しかし最善の方法はそれしか無いんだよ。それ以外のアプローチをしたら、ほぼ確実に君は死ぬ」
「正直、胡散臭いっス……」
「しかし事実、そいつと接触したガンマン、カウボーイ、用心棒、保安官、軍人、教師、牧師、牧場主、鉱山主、エトセトラ、エトセトラ、……ともかく色んな人間がそいつとテーブルを囲み、ギャンブルし、そして一人残らず死んでるんだ。27人、たった一人の例外も無く、だ。
だから、そいつと接触した際に君が執るべき行動は一つしか無い。出会った瞬間に撃ち殺すしかないんだよ」
「まあ、凶悪な賞金首って言うなら射殺もやむなしでしょうけど……」
アデルは依頼書の人相書きに目を通し、「うーん」とうなる。
「正体不明の胡散臭いインディアンって感じですけど、ただギャンブルしてただけでしょ、こいつ。しょっぴくだけじゃダメなんスかねぇ」
「それが大きな問題なんだ。彼と卓を囲んだ27人全員が死んでいるわけだからね。
彼自身に殺意が無いとしても、これだけ死者が出ているのだから、野放しにできない。クライアントもそう思っているからこその、この依頼なんだよ」
依頼書の内容は、次の通りである。
「近年、我が州およびその近隣州を徘徊する一人のインディアンによって、我が州各市町村で数多くの死亡者が発生している。
目撃者によれば、『本人は賭博行為を行っただけ』とのことではあるが、彼と賭博を行った者は例外なく死亡していることから、彼自身が殺害した、あるいは殺害に関与した疑いが強い。
そこで並々ならぬ実績を持つ貴君に、件の『デス・ギャンブラー』の捜索、および拿捕ないしは殺害を依頼したい。
報酬は州が彼に課した懸賞金12000ドルと、私個人からの謝礼金3000ドルとする。
A州知事 ……」

「頼むよ、知事とは……」「はいはい、『昔からの付き合いなんだ』、でしょ? 素敵なご友人がいっぱいいらっしゃるのね」
エプロン姿の女性が、コーヒーを盆に載せてやって来た。
新しくパディントン探偵局の一員となった賞金稼ぎ、エミル・ミヌーである。
「そうとも。だからこそこの探偵局もここまで大きくなったわけだ、うははは……」
エミルの皮肉をものともせず、局長は高笑いして見せる。
「はあ……。
で、こいつに何を頼んでるの?」
エミルはコーヒーを配り、アデルを親指で差す。
「西部の、かなり西の方で話題になってる賞金首を仕留めてきてほしいのさ。君も『デス・ギャンブラー』のうわさを聞いたことはあるだろう?」
「ええ。とんでもなく強いんですってね。銃や腕っ節じゃなく、博打の方だけど」
「その通り。しかしその強さは、何と言うか……、あまりにも呪われた強さなんだ。
さっきも話した通りだが、こいつは27人の人間を死に追いやっている。それも白人ばかりをな」
これを聞き、エミルの鼻がぴく、と動く。
「『ギャンブラー』はインディアン風の男だって話だけど、それを考えると死人が白人ばっかりって言うのも怪しいわよね」
「ああ。しかも死者27名に、それ以外の共通点は無い。
我々でその27名に対し身辺調査を行ってみたが、まったく関係性が無かったんだ。一番近い2人の住所を見ても、17、8マイルは距離が離れている。
まあ……、もう一つ、共通点としてはだ」
「全員『ギャンブラー』と博打してる最中か、その直後に死んでるんだよ。確かに『死神(デス)』だな、こいつは。
とは言えですよ、局長。博打やってるだけで死ぬなんてこと、有り得るんスかね」
「今は何とも言えん。そこは実地で調査しなけりゃ、結論は出んよ」
「……ま、業務命令ならどこでも行きますよ。イギリスだろうとインドだろうと、ニッポンだろうと」
アデルは肩をすくめ、コーヒーを一気に飲み干した。
「頑張ってねー」
エミルはそう返し、そそくさとその場を離れようとする。
しかしそれを見逃す局長ではなく――。
「君もね」
局長はエミルの肩をつかみ、にこやかに微笑んできた。
「……はーい、はい」
エミルもアデル同様、肩をすくめて見せた。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
ブログ「妄想の荒野」の矢端想さんに挿絵を描いていただきました。
ありがとうございます!
ブログ「妄想の荒野」の矢端想さんに挿絵を描いていただきました。
ありがとうございます!
- 関連記事
-
-
DETECTIVE WESTERN 2 ~死の博打~ 4 2013/08/04
-
DETECTIVE WESTERN 2 ~死の博打~ 3 2013/08/03
-
DETECTIVE WESTERN 2 ~死の博打~ 2 2013/08/02
-
DETECTIVE WESTERN 2 ~死の博打~ 1 2013/08/01
-
DETECTIVE WESTERN ~荒野の名探偵~ 15 2013/04/06
-



@au_ringさんをフォロー
総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

もくじ
未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

~ Trackback ~
トラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
~ Comment ~