黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第3部

    蒼天剣・魍魎録 1

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    晴奈の話、第140話。
    潜入野郎、L'sチーム。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    1.
    「あ、蛇さん」
     いつものように仲良く街を歩いていた明奈とリストが、道端で白い蛇を見つけた。
    「蛇ってさー」
     リストは蛇を気持ち悪そうに見つめている。
    「何でこんな、ニョロニョロ気味悪い動きすんのかしらね?」
    「そうですか?」
     反対に、明奈はしゃがみこんで蛇に手を近づける。
    「わたし、可愛いと思いますけど」
    「マジ? うえぇー、勘弁してよぉ」
     リストは明奈から二歩、三歩離れる。
    「ちっちゃい舌が動くところとか、つぶらな目とか、可愛いですよ」
    「げぇ……、アタシ、それもダメ」
     リストはさらに、後ろへと下がる。その様子を見ていた明奈が、クスクスと笑う。
    「蛇って、好みが分かれるらしいですよね」
    「分かれるって言うか……、アンタ、忘れたの?」
     白蛇に菓子の欠片を与えていた明奈が、きょとんとする。
    「はい?」
    「黒鳥宮から脱出した時のコト」
    「ああ、蛇と言えば……」



     3年前、515年の夏。エルスとリスト、他一名が黒鳥宮に潜入し、ある潜入作戦を遂行していた。
     作戦は成功し、成り行きで明奈と遭遇したエルスたちは、黒鳥宮から逃げたいと言う彼女を保護。共に脱出する途中で、とんでもないものに行く手を阻まれた。

    「グルルルル……」
    「へ、蛇ぃ!? でけー……」
     エルスと共に作戦に参加していた、まだ少年の「虎」の剣士が、大聖堂の天井から現れた巨大な蛇を見て声をあげる。
    「……!」
     リストがいち早く反応し、拳銃の狙いを大蛇の眉間に定め、全弾撃ちつくす。
    「ギイイッ!」
     だが、大蛇の動きは早く、弾は半分も当たらない。当たった残り半分も硬いうろこに阻まれ、弾かれてしまう。
    「何なのよ、あの蛇!?」
     この時もヘラヘラ笑っていたエルスが、トンファーを構えながら観察している。
    「モンスターだろうねぇ。教団で飼いならされてるのかな――何に使うのか、考えたくは無いけど――メイナちゃん、僕らの後ろに下がって」
    「は、はい」
     この時既に、明奈は会って間もないエルスたちを信用していた。素直に後ろへ下がり、そっとエルスに魔術をかける。
    「僕が落とす。二人とも援護、お願い」
     エルスはそう言って呪文を唱え始める。エルスが得意とする、風の魔術だ。
    (さっさと使いなさいよ、弾丸無駄にしたじゃない!)
     リストは内心エルスにケチをつけるが、この後のことを予想し、急いで頭の中を切り替え、弾を込めなおす。
    「『エアブラスト』! 当たれッ!」
     エルスが大蛇に向けて、空気の弾を放つ。高圧のガスが空気を歪め、渦を描きながら大蛇の頭に1発、背中に2発当たる。
    「ギャッ!」
    「落ちて来る! 目と喉狙って!」「言われなくても!」
     大聖堂の椅子をなぎ倒しながら、大蛇はボトリと床に落ちる。すぐに大蛇は怒りの咆哮を挙げながら鎌首をもたげ、エルスをにらみつけた。
     その瞬間を狙い、リストがまた全弾を発射する。
    「グエアアアア!」「うるさい、荒縄ッ!」
     リストが放った銃弾は、今度もしっかりと全弾命中した。先ほどは硬いうろこに跳ね返されたが、今度は柔らかい目と喉奥――すべての弾はしっかり、大蛇の体内に食い込んだ。
    「ギェ、アアウ」
     蛇は目と口から血を噴き出し、大きくのけぞる。
    「今だ! とどめッ!」「了解っす!」
     虎獣人の少年が剣を振り上げ、大きく口を開けてのけぞった大蛇の真上から剣を突き入れた。
    「ギョ、ゴボ、ゴボボ……」
     大蛇は水音の混じった悲鳴を上げ、剣を刀身の半分まで飲み込みながらバタリと倒れた。
    「やった……!」
     虎獣人は剣を引き抜き、血をぬぐう。エルスも危険が去ったことを確認し、明奈に向き直った。
    「メイナちゃん、もしかして何か術、使った?」
     明奈はエルスがそこまで気を回していたのかと思っていなかったのか、目を丸くした。
    「あ、はい。『マジックブースト』って言う、術の威力を高める術を」
    「やっぱりかー。なーんか、いつもより術のキレがいいなと思ってさ。助かったよ、ありがとね、メイナちゃん」
    「あ、い、いえ、そんな」
     さわやかな笑顔で礼を言われ、明奈は思わず顔を赤くする。それを見たリストが目を吊りあげ、エルスの背中をバシバシ叩いた。
    「アンタは~……!」
    「な、何? 痛いよ、ちょっと……」
     この光景を見ていた虎獣人が、たまらず吹き出した。
    「まーたやってるよ、はは……」



    「あれからもう、3年ですか。とても懐かしいです」
    「なーに感傷に浸ってんのよ。って言うか、そんな話じゃなくて」
     リストは話の間も後ろに下がり続けており、既に店の軒先半分ほど、明奈との距離を取っている。
    「あんなグロいもん見たら、トラウマになんない?」
    「……いいえ?」
    「……そなの? そんなもん?」
     リストは首を傾ける。明奈も同じように、傾ける。
    「そんなものでは、ないですか?」
    「そっかなぁ……。ま、どっちにしてもアタシは、蛇は絶対ダメ」
    「そうですか。
     ……可愛いな。連れて帰ろうかしら、この子?」
     リストは涙目になってそれを拒んだ。
    「マジ、勘弁して……」



     話は3年前に戻る。エルスは脱出の途中、大蛇のことを考えていた。
    (あの大蛇……。こんな大勢の人間がいる場所に、野生のモンスターは普通、いたりしない。間違いなく、飼いならされたものだ。でも、何のために……?
     そう言えば前に、央南で怪物を目撃したって言ううわさを聞いたな。あれも確か、大都市――人間の大勢いる場所だった。地理的にもわりと近いし、何か関係があるのかな……?
     まさか、誰かがモンスターを飼いならし、売りさばいているとか? ……はは、そんな馬鹿な)
     この頃のエルスが天原の名や研究内容、そして彼とワルラスのつながりなど、知るはずも無かった。
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