DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 2 ~死の博打~ 3
ウエスタン小説、第3話。
おしゃべりな仕立て屋。
3.
「2ヶ月ぶりの空気ね」
「ああ。喉にくるな」
駅を出た二人は、久々に荒野の光景を目にしていた。
エミルも探偵局で見せていたエプロン姿では無く、一端の賞金稼ぎと一目で分かる出で立ちに戻っていた。
「で、最後の目撃情報があったバーって、どこって言ってたっけ?」
「あっちだ。あの、……ありゃ?」
アデルが指差した建物には窓と言う窓に板が打ち付けられ、ドアにも大仰な閂が仕掛けられている。
「閉店しちまった、……みたいだな」
「そりゃまあ、陰気な事件が起こったバーなんて、誰も行きたがらないでしょうからね」
「……とりあえず、聞き込みだな」
二人はバーの隣にあった仕立て屋に入り、話を聞いてみた。
「ああ……。お隣さん、ね」
「何かあったのか? いや、血なまぐさいことがあったのは分かってるんだが、他に何か?」
「あったとも。いやいや、あったなんてもんじゃない。むしろ起こしたんだよね、お隣さんが」
「うん?」
仕立て屋の主人は商売道具の定規で額をこすりながらこの町、カーマンバレーに起きた凶事について語った。
「一週間前になるかな、……いや、その前から話をした方がいいかな。
そう、きっかけは一ヶ月前に現れた、あのインディアンだったんだ。服装こそほとんど、良く見る放浪者と一緒なんだけど、帽子が奇抜な奴でさ。
元は普通の中折れ帽だったっぽいんだけども、あっちこっちに赤かったり白かったりの羽をベタベタくっつけててさ。とんでもないセンスだなー、と思ったよ、マジで。
だけどもっととんでもないことは、そいつが町に来た、その晩に起こったんだ。夕方くらいにバーに入ってきた、いかにもワルそうな放浪者の兄(あん)ちゃんが、そいつとポーカーしようってことになったんだよ。
ところが『羽冠』の野郎――20戦くらいしたのかな――それを全部だ、つまり全勝しちまいやがったんだ。しまいには相手が大事そうにしてたコルトまで奪い取っちまって、もうその兄ちゃんはお冠だ。
で、ここからが悲惨な話になるんだが……」
エミルもアデルも、揃って「ようやくかよ」とは思っていたが、口には出さないでおいた。
「『羽冠』の野郎が命を賭けようって言い出したんだ。頭に来てた兄ちゃんは当然、それに乗った。
で、賭けの方法自体は兄ちゃんの思い付きっぽくてな、コルトに弾一発だけ込めて、自分のこめかみに銃口当てて引き金を引いて、弾が出たら負け、……って話だった」
「……賭けになるの? リボルバーだったら弾倉から弾、見えるじゃない」
突っ込んだエミルに、仕立て屋は肩をすくめて返した。
「もう夜になってたからなぁ。カウンターに付いてたガス灯以外には灯りは無かったし、銃の形は分かっても、弾倉のどこに鉛弾が突っ込んであるのかまでは、見えなかったんじゃないかな。
兄ちゃん自体、相当カッカしてたみたいだし、どっちにしたって目に入って無かったかもな」
「そんなもんかしらね」
「ま、ともかく賭けは行われたんだが、コイントスで後先決めて、一発目は兄ちゃんってことになった。
で、自分のこめかみに銃を突き付けて、引き金を絞って、……で、一発目でズドンだ」
「マジかよ」
「マジもマジ、この目で見てたんだから。後片付けも手伝ったしね。
ともかく勝負は『羽冠』の勝ちだ。残った鉛弾とコルトを持って、『羽冠』はさっさと店を出て行っちまった。
それでさ、当然次の日は店が開けなかったし、死人が出たってうわさも広まって、客がぱったり来なくなっちまったんだ。
もうマスター、がっくり落ち込んじゃっててさ。店の酒を片っ端から開けて、ヤケ酒飲んでたんだが……」
と、ここでおしゃべりな仕立て屋は突然、声のトーンを落とした。
「次の悲劇がその翌週、つまり今から三週間前に起こったんだ」
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おしゃべりな仕立て屋。
3.
「2ヶ月ぶりの空気ね」
「ああ。喉にくるな」
駅を出た二人は、久々に荒野の光景を目にしていた。
エミルも探偵局で見せていたエプロン姿では無く、一端の賞金稼ぎと一目で分かる出で立ちに戻っていた。
「で、最後の目撃情報があったバーって、どこって言ってたっけ?」
「あっちだ。あの、……ありゃ?」
アデルが指差した建物には窓と言う窓に板が打ち付けられ、ドアにも大仰な閂が仕掛けられている。
「閉店しちまった、……みたいだな」
「そりゃまあ、陰気な事件が起こったバーなんて、誰も行きたがらないでしょうからね」
「……とりあえず、聞き込みだな」
二人はバーの隣にあった仕立て屋に入り、話を聞いてみた。
「ああ……。お隣さん、ね」
「何かあったのか? いや、血なまぐさいことがあったのは分かってるんだが、他に何か?」
「あったとも。いやいや、あったなんてもんじゃない。むしろ起こしたんだよね、お隣さんが」
「うん?」
仕立て屋の主人は商売道具の定規で額をこすりながらこの町、カーマンバレーに起きた凶事について語った。
「一週間前になるかな、……いや、その前から話をした方がいいかな。
そう、きっかけは一ヶ月前に現れた、あのインディアンだったんだ。服装こそほとんど、良く見る放浪者と一緒なんだけど、帽子が奇抜な奴でさ。
元は普通の中折れ帽だったっぽいんだけども、あっちこっちに赤かったり白かったりの羽をベタベタくっつけててさ。とんでもないセンスだなー、と思ったよ、マジで。
だけどもっととんでもないことは、そいつが町に来た、その晩に起こったんだ。夕方くらいにバーに入ってきた、いかにもワルそうな放浪者の兄(あん)ちゃんが、そいつとポーカーしようってことになったんだよ。
ところが『羽冠』の野郎――20戦くらいしたのかな――それを全部だ、つまり全勝しちまいやがったんだ。しまいには相手が大事そうにしてたコルトまで奪い取っちまって、もうその兄ちゃんはお冠だ。
で、ここからが悲惨な話になるんだが……」
エミルもアデルも、揃って「ようやくかよ」とは思っていたが、口には出さないでおいた。
「『羽冠』の野郎が命を賭けようって言い出したんだ。頭に来てた兄ちゃんは当然、それに乗った。
で、賭けの方法自体は兄ちゃんの思い付きっぽくてな、コルトに弾一発だけ込めて、自分のこめかみに銃口当てて引き金を引いて、弾が出たら負け、……って話だった」
「……賭けになるの? リボルバーだったら弾倉から弾、見えるじゃない」
突っ込んだエミルに、仕立て屋は肩をすくめて返した。
「もう夜になってたからなぁ。カウンターに付いてたガス灯以外には灯りは無かったし、銃の形は分かっても、弾倉のどこに鉛弾が突っ込んであるのかまでは、見えなかったんじゃないかな。
兄ちゃん自体、相当カッカしてたみたいだし、どっちにしたって目に入って無かったかもな」
「そんなもんかしらね」
「ま、ともかく賭けは行われたんだが、コイントスで後先決めて、一発目は兄ちゃんってことになった。
で、自分のこめかみに銃を突き付けて、引き金を絞って、……で、一発目でズドンだ」
「マジかよ」
「マジもマジ、この目で見てたんだから。後片付けも手伝ったしね。
ともかく勝負は『羽冠』の勝ちだ。残った鉛弾とコルトを持って、『羽冠』はさっさと店を出て行っちまった。
それでさ、当然次の日は店が開けなかったし、死人が出たってうわさも広まって、客がぱったり来なくなっちまったんだ。
もうマスター、がっくり落ち込んじゃっててさ。店の酒を片っ端から開けて、ヤケ酒飲んでたんだが……」
と、ここでおしゃべりな仕立て屋は突然、声のトーンを落とした。
「次の悲劇がその翌週、つまり今から三週間前に起こったんだ」
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