DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 2 ~死の博打~ 5
ウエスタン小説、第5話。
探偵業のABC。
5.
北へと続く足跡を確認しながら、アデルがつぶやく。
「残り具合から見るに……、10往復は超えてるな。確かに仕立て屋のおっさんが言ってた通り、1ヶ月は滞在してるみたいだ」
このつぶやきに、エミルが感心して見せる。
「伊達に探偵なんて名乗ってないわね。他に何か分かることは?」
「ん? そうだな……」
エミルの反応に気を良くしたアデルは、途端に饒舌になる。
「足跡の間隔からして、『羽冠』は身長60~63インチ、体重は140~145ポンドくらいだな。
間隔の短さから、チビだってことは大体見当が付く。一方で、足跡が左に寄ったり、右に寄ったりでよたよたとしてるが、酔っぱらっているにしちゃ爪先の方向が一定で、しっかり定まっていることから、そうでは無いと分かる。
となるとこれは、太鼓腹を抱えてがに股気味に歩いていることを示唆している。このカチカチに乾いた地面でもしっかり跡が残っているし、相当デブだってことは間違いない」
「へぇ。他には?」
「他には、……そうだな、靴底の形が妙にいびつだ。何度か直してるらしい。だが職人がこんなツギハギみたいな汚い直し方するわけ無いし、となると自分で直したんだろうと言うことが分かる。割と器用なタイプだな」
「ふーん」
「えーと、そうだな、他には……」「あのね」
足跡にばかり目を向けているアデルの襟を、エミルがぐい、とつかんで引き上げた。
「ぐえっ、……な、何すんだよ!?」
「後ろ」
「え?」
アデルが振り向いたところで――彼は後方の岩陰に、誰かが慌てて隠れるのを確認した。
「推理眼を披露するのは結構だけど、尾行に気付かないようじゃ、探偵失格なんじゃない?」
「……耳が痛いね」
アデルは首をさすりながら、岩陰へと声をかけた。
「俺たちに何か用か?」
「……」
答えない尾行者に、今度はエミルが話しかける。
「別に何もしないわよ。目的も一緒なんだろうし、一緒に来た方がいいんじゃない?」
「……あ、はい」
岩陰からおずおずと現れたのは、まだ15、6歳くらいの、赤毛と金髪の中間くらいの髪色の少女だった。
「あの……、目的が一緒、って言うのは?」
尋ねた少女に、エミルが答える。
「こんな荒地にハイキングしに来るなんて、そんな酔狂な人はそうそういないわよ。大方、『羽冠』に会いに来たってところでしょ?」
「は、はい。そうです」
うなずいた少女を見て、アデルはエミルに向かって肩をすくめた。
「……探偵顔負けだな。お前も相当の推理力を持ってるよ」
「どうも」
少女から詳しく話を聞いてみたところ、やはり「羽冠」に会いに来たのだと言う。
「じゃあ、3日前に街を出たマスターは……」
「はい。わたしの父です」
「やっぱりね。で、3日も戻ってこないから、もしかして……、って?」
「……はい。でも」
少女は顔をこわばらせ、こう続ける。
「もしかしたら、そうじゃないかも知れないし、だとしたら、何で戻ってこないのかって」
「……君には悪いと思うが、十中八九、お父さんは」「アデル」
アデルの言葉を遮り、エミルが尋ねる。
「希望を持つのは大事だけど、それを裏切られた時の覚悟は今、しておいた方がいいわよ」
「分かってます」
「本当ね? 『羽冠』のところへ乗り込んですぐ、お父さんと、……いいえ、お父さん『だった』ものと出会ってしまっても、泣き叫んだりしないって、誓える?
悪いけど、あたしたちは仕事で『羽冠』を捕まえに行くの。だから、あなたをなだめる余裕は無いわよ?」
「……はい。誓います。ご迷惑は、絶対にかけません」
「いいわ。それなら付いてらっしゃい。
あたしはミヌー。エミル・ミヌーよ。そっちの探偵さんは、アデルバート・ネイサン。通称アデル」
「よろしく」
アデルの差し出した手を握りながら、少女も自己紹介した。
「マゴット・レヴィントンです。マギーと呼んでください」
「よろしくね、マギー」
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探偵業のABC。
5.
北へと続く足跡を確認しながら、アデルがつぶやく。
「残り具合から見るに……、10往復は超えてるな。確かに仕立て屋のおっさんが言ってた通り、1ヶ月は滞在してるみたいだ」
このつぶやきに、エミルが感心して見せる。
「伊達に探偵なんて名乗ってないわね。他に何か分かることは?」
「ん? そうだな……」
エミルの反応に気を良くしたアデルは、途端に饒舌になる。
「足跡の間隔からして、『羽冠』は身長60~63インチ、体重は140~145ポンドくらいだな。
間隔の短さから、チビだってことは大体見当が付く。一方で、足跡が左に寄ったり、右に寄ったりでよたよたとしてるが、酔っぱらっているにしちゃ爪先の方向が一定で、しっかり定まっていることから、そうでは無いと分かる。
となるとこれは、太鼓腹を抱えてがに股気味に歩いていることを示唆している。このカチカチに乾いた地面でもしっかり跡が残っているし、相当デブだってことは間違いない」
「へぇ。他には?」
「他には、……そうだな、靴底の形が妙にいびつだ。何度か直してるらしい。だが職人がこんなツギハギみたいな汚い直し方するわけ無いし、となると自分で直したんだろうと言うことが分かる。割と器用なタイプだな」
「ふーん」
「えーと、そうだな、他には……」「あのね」
足跡にばかり目を向けているアデルの襟を、エミルがぐい、とつかんで引き上げた。
「ぐえっ、……な、何すんだよ!?」
「後ろ」
「え?」
アデルが振り向いたところで――彼は後方の岩陰に、誰かが慌てて隠れるのを確認した。
「推理眼を披露するのは結構だけど、尾行に気付かないようじゃ、探偵失格なんじゃない?」
「……耳が痛いね」
アデルは首をさすりながら、岩陰へと声をかけた。
「俺たちに何か用か?」
「……」
答えない尾行者に、今度はエミルが話しかける。
「別に何もしないわよ。目的も一緒なんだろうし、一緒に来た方がいいんじゃない?」
「……あ、はい」
岩陰からおずおずと現れたのは、まだ15、6歳くらいの、赤毛と金髪の中間くらいの髪色の少女だった。
「あの……、目的が一緒、って言うのは?」
尋ねた少女に、エミルが答える。
「こんな荒地にハイキングしに来るなんて、そんな酔狂な人はそうそういないわよ。大方、『羽冠』に会いに来たってところでしょ?」
「は、はい。そうです」
うなずいた少女を見て、アデルはエミルに向かって肩をすくめた。
「……探偵顔負けだな。お前も相当の推理力を持ってるよ」
「どうも」
少女から詳しく話を聞いてみたところ、やはり「羽冠」に会いに来たのだと言う。
「じゃあ、3日前に街を出たマスターは……」
「はい。わたしの父です」
「やっぱりね。で、3日も戻ってこないから、もしかして……、って?」
「……はい。でも」
少女は顔をこわばらせ、こう続ける。
「もしかしたら、そうじゃないかも知れないし、だとしたら、何で戻ってこないのかって」
「……君には悪いと思うが、十中八九、お父さんは」「アデル」
アデルの言葉を遮り、エミルが尋ねる。
「希望を持つのは大事だけど、それを裏切られた時の覚悟は今、しておいた方がいいわよ」
「分かってます」
「本当ね? 『羽冠』のところへ乗り込んですぐ、お父さんと、……いいえ、お父さん『だった』ものと出会ってしまっても、泣き叫んだりしないって、誓える?
悪いけど、あたしたちは仕事で『羽冠』を捕まえに行くの。だから、あなたをなだめる余裕は無いわよ?」
「……はい。誓います。ご迷惑は、絶対にかけません」
「いいわ。それなら付いてらっしゃい。
あたしはミヌー。エミル・ミヌーよ。そっちの探偵さんは、アデルバート・ネイサン。通称アデル」
「よろしく」
アデルの差し出した手を握りながら、少女も自己紹介した。
「マゴット・レヴィントンです。マギーと呼んでください」
「よろしくね、マギー」
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