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    DETECTIVE WESTERN

    DETECTIVE WESTERN 2 ~死の博打~ 6

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    ウエスタン小説、第6話。
    敗北者たちの末路。

    ※注意! 猟奇的描写有り!

    6.
     マギーと共に、さらに1マイル半ほど歩いたところで、一行は丘の上に小さな小屋があるのを見付けた。
     そしてそこへと足跡が伸びているのを確認し、エミルとアデルは無言でうなずき合う。
    「……と」
     きょとんとしているマギーを見て、エミルはここからの段取りを、彼女に耳打ちした。
    (間違いなく、『羽冠』はあそこにいるわ。でも万が一ここで逃げられたら、もうカーマンバレーに戻ってこないかも知れない。そうなったら全部無駄になるわ。
     だから気付かれないようにそっと近付いて、縄を使って縛る。もし抵抗するようなら、拳銃も使うつもりだから。
     あなたも気付かれないように、そっとあたしたちに付いてきてちょうだい。でも巻き込まれないように、ある程度の距離は取ってね)
    (分かりました)
     三人は静かに歩を進め、ゆっくりと小屋に近付く。
    「……」
     その途中で――三人ともが顔をしかめた。
    (……イカれてるわね)
    (ああ。自分の寝床のすぐ側だぜ)
    (ひどい……)
     身ぐるみはがされ、裸になった男の死体が2つ、丘の中腹に転がっていた。
     どちらも死後既に数日、あるいは十数日は経過しているらしく、その半分は腐り、残りの半分は野獣に食われて白骨化していた。
    (獲るもんだけ獲って、適当に投げ捨てたって感じだな)
    (反吐が出そうな奴ね。……あ)
     エミルがマギーの方を振り向くと、彼女は口を押さえて震えていた。
    (……え、エミルさん、わたし)
     顔を蒼くするマギーを見て、エミルがす、と掌を彼女の目にかざした。
    (手を引っ張っててあげるから、目を閉じてなさい)
    (す、すみません)
     死体を迂回し、どうにか小屋の扉前に到着したところで、アデルがドアノブに手をかける。
    (いいか? 1、2の3、で俺が中に入って捕まえる。エミルは銃を構えて牽制してくれ。
     もし奴が抵抗しそうなら、構わず撃て)
    (了解)
     エミルはマギーの手を握ったまま、腰のホルスターから拳銃を取り出し、撃鉄を起こす。
     それを確認し、アデルが左手でカウントする。
    (1、 2の、……3!)
     勢い良くドアを開け、アデルが踏み込む。
    「大人しくしろ! 手を挙げ、……っ」
     中に入ったところで、アデルが絶句した。
    「アデル!?」
     危険を察知したエミルも、マギーから手を離して中に押し入る。
    「……!」
     そして中に入ったところで、エミルも同様に絶句した。

    「……また『肉』が来たか」
     中にいたのは、確かに「羽冠」だった。
     だがその他に4匹――獣臭をつんと漂わせた野犬が、舌を出して彼の前に座り込んでいる。
     そしてそれを囲むように、何かの「塊」が横たわっていた。
    「……て、……め、え」
     アデルは顔を真っ蒼にしながら、背負っていた小銃を構える。
    「外の2人も、てめえが『捌いた』のか?」
    「そう。邪魔だった。埋めるの、面倒だった」
    「野犬を手なずけてまで?」
    「『肉』をやったら懐いた。色々便利だった」
    「……ここまで吐き気を催すのは、入局した時、レスリーの野郎に紅茶だと騙されてスピリット一気飲みさせられた時以来だぜ。
     エミル、……構やしねえ! 撃て!」
    「言われなくても!」
     二人は怒りに任せ、それぞれ銃を撃った。
     だが――エミルが6発、アデルが5発撃ったところで、またも二人は愕然とさせられた。
    「……何だと!?」
    「あ、……当たった、はずよね?」
     野犬4匹はこの一瞬ですべて倒れたが、肝心の「羽冠」は平然と座っている。
    「違う。当たらなかった」
     そう返し、「羽冠」は懐からバーボンの瓶を取り出し、ぐい、と一口呑み込む。
    「ふ、……ふざけんなッ!」
    「気が済むまで、撃てばいい。
     だが私には、当たらない」
    「……っ」
     二人は銃を構えはするものの、自分たちの攻撃が命中する気がまったくせず、撃つ気力が湧いてこない。
    「……くそッ」
     アデルは小銃を下げ、忌々しげに唾を吐く。
    「やめなさいよ、みっともない」
     エミルも拳銃の撃鉄を倒し、静観する。
    「そうね、当たりそうに無いわ。これ以上は弾の無駄ね。
     でも、あたしたちはあなたを捕まえに来たの。大人しく捕まってくれる気は、あるかしら」
    「無い」
    「羽冠」ににべも無くそう返されるが、エミルは食い下がる。
    「じゃあ、どうやったら捕まってくれるかしら」
    「私に言うこと、聞かせられるのは、神の他には、これだけ」
     そう言って「羽冠」は、懐からカードを1セット取り出して、空になっている皿の上に置いた。
    「私が聞くのは、神の言葉と、博打の結果だけ」
    「あ……? 聖職者気取りかよ、異常者の癖しやがって」
     毒づくアデルに、「羽冠」は鋭く「違う」と言い返した。
    「私は占い師だ。私の占いに神の声、宿る」
    「どうでもいいぜ、んなこと。
     ……合点が行った。誰も彼もてめーみたいなイカレ野郎と、何で博打なんかやるんだと思ってたが、つまりこう言うわけだ。
     それ以外にお前をブッ倒せる方法が無い、……ってことか」
    「そう。多分。でも誰も、勝ったこと、無い。
     この40年間」
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    催眠術でも超能力でも、インディアンに古代から伝わる呪術でもありません。
    もっと現実的で、推理物にふさわしい解釈があります。

    NoTitle 

    もうこれは催眠術かなにかかと思うしかないみたいです。

    どう合理的な解決がつくのかまったくわからない……。
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