黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第3部

    蒼天剣・魍魎録 2

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    晴奈の話、第141話。
    奇妙な情報/取ってつけたような理屈。

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    2.
     黄州平原での戦いを制し、央南連合の勝利が現実味を帯び始めた、518年晩春。
     次のような報告がエルスの元に届いた。
    「りゅ、竜?」
     流石のエルスもこんな報告をされるとは予想しておらず、おうむ返しに聞き直した。
    「はい、竜です。2~3日前、黄州平原南部にて多数、目撃例があったと」
    「えーと、もう少し説明してもらっていい?」
    「それが、その……。これ以上のことが、報告されておりません。ただ、数名の兵士が異口同音に『空を飛んで行く竜を見た』と」
    「何かの見間違いじゃ?」
    「私も正直、そう思うのですが」
     困った顔の伝令を見て、エルスは苦笑した。
    「僕だってそう思うよ」

     ところがこれをきっかけに、様々な「怪物」のうわさが急速に立ち始めた。その目撃例は多岐に渡っており、「飛竜」や「三本足の大鷹」、そして「赤い大蛇」など、まさに魑魅魍魎と言った報告例が並んだ。
    「大蛇……?」
     特にエルスの関心を引いたのは、蛇の報告である。
    「リスト、蛇って聞いて、何を連想する?」
    「メイナ。あの子、蛇が大好きなんだって」
     リストは顔を青くして答える。エルスは苦笑しつつ、質問の真意を伝える。
    「はは、そうなんだ。……いや、ここは3年前の任務を思い出してほしかったんだけどね」
    「やっぱり、ソレ? ま、忘れてたワケじゃないんだけど、思い出したくないし。アタシ、あれから全っ然、蛇がダメなのよ」
    「そっか。まあ、とりあえず僕の考えを伝えるよ。
     この奇妙な報告は、教団がまた何かをしようとしている前触れだと思うんだ」
    「何故そう思う?」
     リストの横で茶を飲んでいた晴奈が首を向ける。
    「昔、黒鳥宮に潜入したことがあるって言ったことがあるよね。その時に、でっかい蛇が襲ってきたんだ」
    「大きな、蛇……? それは、まさか」
    「そう、怪物さ。恐らくは、アマハラがワルラス卿に献上した魔術研究の成果物」
    「黒鳥宮に忍び込んだ際に似た怪物を見たから、今回の騒ぎも黒炎絡みだ、と?」
    「そう言うこと。まあ、まだ確証は得られていないけど」
     エルスは机に載せられた書類に目を通しながら、今後の方針を伝えた。
    「裏にどんな事情があろうと、僕らのやることは変わらない。教団の侵攻を食い止める、それだけだよ」

     目撃されてからしばらくの間は、単に「見た」「作物や家畜が食われた」と言うような、極めて小規模の被害報告ばかりで、大きな事件は起こらなかった。そのため、連合の方針としては特に捜索・駆逐することもせず、教団との戦いを優先していた。
     だが518年5月下旬、ついに人的被害が発生した。南西部の村、花丘に前述の鷹が現れ、村人3名を食い殺したと言うのである。さらにこの事件が起きる少し前に、教団員らしき者を目撃したと言う証言もあった。
     怪物と教団に何らかの関係があることを確信したエルスは、晴奈とリスト、他兵士たち十数名を花丘に向かわせた。

    「はぁ……」
     花丘への道中ずっと、リストはため息をついていた。
    「どうした、リスト? やけに顔色が悪いが……」
    「そりゃ、悪くもなるわよ。アタシ、大蛇とか妖狐とか、バケモノ系大っ嫌いなの! なのにあのバカ、それを承知で向かわせるのよ!? ホント、底意地悪いわ」
    「そう言うな、これも仕事なのだから」
    「うー……」
     晴奈がなだめるが、リストの愚痴は止まらない。
    「大体さー、この発展した現代にヨウカイとかバケモノとか、何でいるのよ……。あんなの普通、昔話や怪談の中にしかいないもんでしょー……」
    「それは昔、私も思ったことがある。私も、私の師匠に同じことを言ったのだが、師匠は『人間の生活圏から離れれば、怪物と言うものは思っているよりもウヨウヨいるものだ』と」
    「やめてよぉー……。考えたくも無い」
     リストは長い耳を丸めるように、耳をふさいだ。
    「まあ、その。もし遭遇したら、私が何とかするから。リストは後ろで援護していてくれればいいからな」
    「ぜひ、そうさせてもらうわ。……もぉー、エルスのバカぁ」



    「こ、これは……!?」
     7年前、黒鳥宮の礼拝堂にて。「それ」を見たウィリアム教主が目を丸くし、後ずさった。
    「見ての通りです、兄上。蛇にございます」
    「馬鹿を、言うな……。そんな巨大な蛇が、あってたまるか!」
     ウィリアムは腰の剣を取って――ウィルソン家の者は皆、武道の心得がある。「文武両面で、教団員たちの模範となるべき」と言う考えからである――ワルラスとの距離を取る。
    「そう警戒なさらずとも……。私が命じない限り、危害を加えることはございません」
    「本当か……?」
    「ええ、黒炎様に誓って。
     これはですね、以前に入信したアマハラと言う魔術師からの寄進でして。何でも、こうした怪物たちを手なずけ、社会に役立てる研究をしているとか」
     勿論、これは嘘である。ワルラスも、天原が人間を怪物に作り変えていたことは知っていたし、その上で彼の「研究成果」を平然と受け取っていた。
    「私も今後の戦略上、有効かと考えましたので、受け取ることにしました」
    「戦略上……?」
    「ええ、黄海を教化してから大分経ちましたし、そろそろ近隣の都市に教団の勢力を伸ばすべきかと考え、準備を……」「ワルラス?」
     ウィリアムは非常にいぶかしげな顔を、ワルラスに向ける。
    「お前は一体、何がしたいのだ?」
    「何を、と言いますと?」
    「お前は世界征服でもしたいのか? 大司教に就く前から『教区の拡大』『同志の増員』を声高に唱え、武力攻撃や政治的圧力を主とした『布教活動』を続けてきた。
     確かにこれまで教団は、多少なりともそうした攻撃的手段を執ったことはある。だが、それは概ね焔流を打倒するとか、あくまで黒炎様のご威光を保持するためにやってきたことだ。決して、侵略のためではない。
     お前のやっていることは、まるで邪知暴虐の限りを尽くす暴君のようだ」
    「そうでございましょうか」
     ワルラスもいぶかしげな顔で、兄を見つめる。
    「私に言わせれば、これまでの布教活動はあまりにぬるく、あまりに消極的。これまでのように、商取引や地域防衛の代わりに……、などと言う『契約』の手法を固持していては、いつまで経っても山脈から出られないでしょう」
    「ならば問う。何故そこまでして、教区の拡大を目指す?
     元来、我々の活動は密教的だった。部外者に教団の秘儀、秘伝を漏らさぬように活動してきたのだ。だが、お前のやっていることはその秘匿性を害するものだ。我々の技術を入信して間も無い地区へいたずらにバラ撒き、我々が守り通してきた秘術を見せびらかすようなこの『教化』は、その神秘性を根元から揺るがしている。お前はこの崇高なる黒炎教団を、そこいらのごろつき傭兵団にでも貶めたいのか?」
    「ご冗談を。これも教団の将来を考えてのことです。兄上はお気付きになりませんか? 時代の波が押し寄せているのを」
     まったく噛み合わない話の展開に、ウィリアムの頭がキリキリと痛み出す。
    「時代の波だと? 話が見えん、ワルラス」
    「ここ数年、我々の体制を脅かす凶事がいくつも起こっております。その一端が、あの剣が発見されたこと。世に放たれれば、黒炎様の御身にも関わろうと言う代物であることは、ご承知のはずです。
     他にも北方における軍事態勢の急変、央北の政治腐敗など、黒炎様の御身に関わる不安は枚挙に暇がありません。このような急変の時に今までのような規模での活動を続けていては、いずれ黒炎様のお力にも、なれなくなるかも知れませんぞ」
    「もういい。お前の言っていることはさっぱりだ。それらしいことばかり言っているが、その一つ一つが取るに足りぬ。
     北方が動いたところで、この山脈には遠すぎる。
     央北の政治腐敗も我々には関係が無い。
     魔剣にしても、この黒鳥宮にしまいこんでいるのだ。盗られる可能性など、無いに等しいではないか。
     教団の体制が揺れることなど、ありはしない。……納得がいかんと言うのならば、勝手にすればいい。だが……」
     ウィリアムは剣を納め、ワルラスをきっとにらみつけた。
    「忘れるな。お前の座っている『大司教』と言う座は、黒炎教団50万名の人生を大きく左右することを」
     ウィリアムは頭を抱えるようにして、礼拝堂を後にした。残ったワルラスは傍らの大蛇に向かって、ぼそりとつぶやいた。
    「……頭の堅い愚図を兄に、いや、上司に持つと苦労する。あんなノロマより、私の方が教主にふさわしいではないか?
     なあ、『ナーガ』よ」
    「グルルルル……」
     ナーガと呼ばれた大蛇は、同意するようにのどを鳴らした。

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    寝過ごした……。
    更新、非常に遅れてしまいました(´・ω・)
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    ポールさんの言うとおり、今回の「モンスター作戦」は戦術面から見るに、出オチの方策でしか無いと思います。
    次の「魍魎録 3」で分かるとおり、ハナから通常の兵士、部隊と絡めていないので、戦力になるわけがない。
    ビビらせておしまい、という情けない効果しか期待できないでしょうね。
    まあ、この作戦の結果は「魍魎録 6」にて。

    蒼天剣・周富徳ですかw
    黄海の海の幸を使った料理バトル、……みたいな展開になりそうですね。

    NoTitle 

    ずらっと「なんとか録」というのを見続けているうちに、「蒼天剣・周富徳」とか空目してしまいました(汗)

    戦場に、モンスターを出すというのはちょっとどうなのかな、と最近思うようになりました。

    出したところで、諸兵科混合の戦闘術がうまく機能していなければ、ザマの会戦でのカルタゴ軍の象部隊みたいなことになるのではないかと。(カルタゴ軍では戦術もきちんと編み出されていたのに負けましたからねえ)

    要は、どれだけ臨機応変に対処する能力があるか、ですが、モンスターはそこらへんが弱いのではないかなあ、と思うであります。

    戦車なみに強くていうことをきくモンスターが出れば話は別だけど、それはそれでリアリティ的にどうよ、と思ってしまうミリタリファン(汗)。

     

    生理的にちょっとな敵も、と聞いて、
    一瞬「恐竜並みにでっかいゴキブリ退治」とか考えて、
    ちょっとブルーになったり。

    場合によっては「バケモノ討伐」とか、
    ファンタジー世界の軍人さんに対して、
    こう言う無茶振りな任務も出たりするんでしょうね。
    ……と言うか出てましたねw

     

    考えてみれば、モンスターハンターなどの怪物狩りは結構そういうところが大変ですよね。これは生理的にはちょっと…という敵も倒さないと金がもらえないですからね。そういう敵ほど報償も高かったりするんでしょうね。
    あまり、話に関係ないような気がしないでもないですが。。。
    どうも、LnadMでした。
    • #206 LnadM(才条 蓮) 
    • URL 
    • 2010.09/29 07:09 
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