短編・掌編
正義の租税回避地
正義の租税回避地
~前回までのあらすじ~
正義戦隊シティレンジャーの活躍により、秘密結社「ファースト」の野望は潰えた!
しかし悪の根はまだまだ深い! 彼らの前に新たな敵、「リキテン」が立ちはだかった!
負けるな! 正義戦隊! 頑張れ! 正義戦隊!
「おつかれっすー」
「おつっしたー」
ブラックとイエローの、いかにも疲労しきった声が、遠のきながらレッドの耳に入る。
「おう、お疲れ。また明日な」
挨拶を返した時には既に、二人の姿はドアの向こうに消えていった。
「……ふう」
レッド自身も、相当に疲れている。
「分からんなぁ」
「何が?」
レッドの独り言に答えたのは、紅一点のピンクだった。
「いや……、『ファースト』のヤツらも、新たに現れた『リキテン』も、なんだって『まとも』な犯罪を犯さないんだろうか、って考えていたんだ」
「まともな……、って?」
ピンクからコーヒーを受け取りつつ、レッドは自分の考えを話す。
「例えばだ、幼稚園バスをジャックしたりだとか、ラジオに怪音波を流して市民を洗脳しようだとか、どうも効果の上がらなさそうな悪事ばっかりじゃないか。
もっと……、何と言うか、悪役だと自負するなら、例えば銀行強盗とか、政府施設を襲うとか、そっちの方が『らしい』と思うんだが。
ヤツらにできないことじゃないはずだ。我々正義戦隊を何度となく窮地に陥れるほどの、あの組織力と科学力があれば、そっちの方が儲かるんじゃないか、……と思うんだ」
「まあ、リーダーったら! 正義の味方がそんなこと言うもんじゃないわよ!」
ピンクはクスクス笑い、レッドの疑問を一蹴した。
「目立ちたいだけよ、あんなヤツら! そんな真面目なこと、絶対考えてないわ!」
「そう……、かな」
「そうよ、絶対! ……じゃ、あたしも上がります。おつかれさまー」
「ああ、お疲れ」
レッドをミーティングルームに残したまま、ピンクは基地の奥へと、密かに向かう。
「失礼します、博士」
正義戦隊の頭脳、七里博士のラボである。
「どうした?」
「リーダー、……いえ、レッドは現在の活動に疑問を抱いているようです」
「ほう」
七里博士はリモコンを動かし、ラボのドアを遠隔操作で閉める。
「我々の偽装工作が見破られている、と?」
「いえ、そうではありません。今のところはまだ、敵の活動に今一つリアリティが感じられない、と言う程度です」
「ふむ……。まあ、確かに敵を倒した翌週に新たな敵が出現、と言うのは流石に胡散臭かったか」
「そもそも、『敵役』の活動内容が幼稚過ぎると思うんですが」
「僕も同感だね」
いつの間にか現れたブルーに、博士は大して動じた様子も無く、「ううむ」とうなって返す。
「いくらコストダウンしたいからって、あんな子供だましばっかり続けてちゃ、熱血単純バカのレッドだって、そりゃ疑うさ」
「しかしなぁ……。あまり金をかけると、『ここ』を設立した意味が無くなるし」
博士はコンソールを操作し、モニタに様々なグラフを表示させる。
「……とは言え、既に我々が預かっているプール金は6000億もあることだし、もう少しまともな口実を作ってもいいかも知れんな」
「その方が顧客も喜ぶと思うよ。敵役が目立てば目立つほど、大手を振って僕たちに『献金』できるわけだし」
「うむ」
博士はもう一度コンソールを動かし、通話機能を立ち上げた。
「こちらHQ。『ファースト』、……じゃなかった、『リキテン』首脳部、応答せよ」
《こちら首脳部、どうぞ》
「来月から予算を50%アップする。もっと目立った活動をしてほしい」
《了解》
「……くっくっく」
このやり取りを聞いていたブルーが、唐突に笑い出す。
「どうしたの、ブルー?」
「いやいや、こんなのをレッドのアホが知ったら、きっと憤慨するだろうなってね。
正義戦隊だとか悪の組織だとかはただの芝居で、本当の目的がマネーロンダリングの場を構築することにある、……だなんて、夢にも思わないだろうから」
「ふふふ……、人をそう悪く言ってやるな。
だが、いいアイデアだろう? ここに献金すれば、それがどんな稼ぎ方で得たものであろうと『正義のため』と言う大義名分が付く。我々の懐に収まってしまえば、それはもう綺麗な金になるわけだ。
しかも我々は地下組織。ゆえに課税などあるわけが無い。どんな税務署でもここを見付けることなど、到底できんのだからな。
後は敵役の破壊工作のどさくさに紛れて、義援金として返してやれば……」
「状況が状況なだけに、この金にも税金は課せられない。付くのは我々に払う、税金よりずっと安く済む手数料だけ。
献金元にとっては何億、何十億も節税できるし、我々には手数料がじゃんじゃん入ってくると言うわけだ!
まったく、博士は悪魔のような方だ。こんな金儲け、前代未聞だよ!」
「ふふふ……、ふはははっ、ははっははははは……!」
ブルーの言葉に、博士はさも痛快そうに笑った。
~次回予告~
博士の陰謀にまったく気付く様子も無く、レッドは新たな敵、「リキテン」に立ち向かう!
果たして今回の献金は、義援金は、手数料はいくらになってしまうのか!?
頑張れ! 正義戦隊! 負けるな! 特にレッド! て言うか気付け! ビームなんか出てないぞ!
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~前回までのあらすじ~
正義戦隊シティレンジャーの活躍により、秘密結社「ファースト」の野望は潰えた!
しかし悪の根はまだまだ深い! 彼らの前に新たな敵、「リキテン」が立ちはだかった!
負けるな! 正義戦隊! 頑張れ! 正義戦隊!
「おつかれっすー」
「おつっしたー」
ブラックとイエローの、いかにも疲労しきった声が、遠のきながらレッドの耳に入る。
「おう、お疲れ。また明日な」
挨拶を返した時には既に、二人の姿はドアの向こうに消えていった。
「……ふう」
レッド自身も、相当に疲れている。
「分からんなぁ」
「何が?」
レッドの独り言に答えたのは、紅一点のピンクだった。
「いや……、『ファースト』のヤツらも、新たに現れた『リキテン』も、なんだって『まとも』な犯罪を犯さないんだろうか、って考えていたんだ」
「まともな……、って?」
ピンクからコーヒーを受け取りつつ、レッドは自分の考えを話す。
「例えばだ、幼稚園バスをジャックしたりだとか、ラジオに怪音波を流して市民を洗脳しようだとか、どうも効果の上がらなさそうな悪事ばっかりじゃないか。
もっと……、何と言うか、悪役だと自負するなら、例えば銀行強盗とか、政府施設を襲うとか、そっちの方が『らしい』と思うんだが。
ヤツらにできないことじゃないはずだ。我々正義戦隊を何度となく窮地に陥れるほどの、あの組織力と科学力があれば、そっちの方が儲かるんじゃないか、……と思うんだ」
「まあ、リーダーったら! 正義の味方がそんなこと言うもんじゃないわよ!」
ピンクはクスクス笑い、レッドの疑問を一蹴した。
「目立ちたいだけよ、あんなヤツら! そんな真面目なこと、絶対考えてないわ!」
「そう……、かな」
「そうよ、絶対! ……じゃ、あたしも上がります。おつかれさまー」
「ああ、お疲れ」
レッドをミーティングルームに残したまま、ピンクは基地の奥へと、密かに向かう。
「失礼します、博士」
正義戦隊の頭脳、七里博士のラボである。
「どうした?」
「リーダー、……いえ、レッドは現在の活動に疑問を抱いているようです」
「ほう」
七里博士はリモコンを動かし、ラボのドアを遠隔操作で閉める。
「我々の偽装工作が見破られている、と?」
「いえ、そうではありません。今のところはまだ、敵の活動に今一つリアリティが感じられない、と言う程度です」
「ふむ……。まあ、確かに敵を倒した翌週に新たな敵が出現、と言うのは流石に胡散臭かったか」
「そもそも、『敵役』の活動内容が幼稚過ぎると思うんですが」
「僕も同感だね」
いつの間にか現れたブルーに、博士は大して動じた様子も無く、「ううむ」とうなって返す。
「いくらコストダウンしたいからって、あんな子供だましばっかり続けてちゃ、熱血単純バカのレッドだって、そりゃ疑うさ」
「しかしなぁ……。あまり金をかけると、『ここ』を設立した意味が無くなるし」
博士はコンソールを操作し、モニタに様々なグラフを表示させる。
「……とは言え、既に我々が預かっているプール金は6000億もあることだし、もう少しまともな口実を作ってもいいかも知れんな」
「その方が顧客も喜ぶと思うよ。敵役が目立てば目立つほど、大手を振って僕たちに『献金』できるわけだし」
「うむ」
博士はもう一度コンソールを動かし、通話機能を立ち上げた。
「こちらHQ。『ファースト』、……じゃなかった、『リキテン』首脳部、応答せよ」
《こちら首脳部、どうぞ》
「来月から予算を50%アップする。もっと目立った活動をしてほしい」
《了解》
「……くっくっく」
このやり取りを聞いていたブルーが、唐突に笑い出す。
「どうしたの、ブルー?」
「いやいや、こんなのをレッドのアホが知ったら、きっと憤慨するだろうなってね。
正義戦隊だとか悪の組織だとかはただの芝居で、本当の目的がマネーロンダリングの場を構築することにある、……だなんて、夢にも思わないだろうから」
「ふふふ……、人をそう悪く言ってやるな。
だが、いいアイデアだろう? ここに献金すれば、それがどんな稼ぎ方で得たものであろうと『正義のため』と言う大義名分が付く。我々の懐に収まってしまえば、それはもう綺麗な金になるわけだ。
しかも我々は地下組織。ゆえに課税などあるわけが無い。どんな税務署でもここを見付けることなど、到底できんのだからな。
後は敵役の破壊工作のどさくさに紛れて、義援金として返してやれば……」
「状況が状況なだけに、この金にも税金は課せられない。付くのは我々に払う、税金よりずっと安く済む手数料だけ。
献金元にとっては何億、何十億も節税できるし、我々には手数料がじゃんじゃん入ってくると言うわけだ!
まったく、博士は悪魔のような方だ。こんな金儲け、前代未聞だよ!」
「ふふふ……、ふはははっ、ははっははははは……!」
ブルーの言葉に、博士はさも痛快そうに笑った。
~次回予告~
博士の陰謀にまったく気付く様子も無く、レッドは新たな敵、「リキテン」に立ち向かう!
果たして今回の献金は、義援金は、手数料はいくらになってしまうのか!?
頑張れ! 正義戦隊! 負けるな! 特にレッド! て言うか気付け! ビームなんか出てないぞ!



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~ Comment ~
NoTitle
「リキテン」に新たな敵!
税務戦隊ムシルンジャー!
ムシルンジャーは果たして、正義戦隊の敵か、味方か?
乞御期待!(笑)
税務戦隊ムシルンジャー!
ムシルンジャーは果たして、正義戦隊の敵か、味方か?
乞御期待!(笑)
NoTitle
この調子で「正義の組織」が乱立したら、
日本(かどうかは分かりませんが)は裏金天国になりますね。
海外からも「ロンダリングマン」とか「H(aven)-MEN」とか名乗るアメコミヒーローが乗り込んできそう。
Gメンも捜査のしがいがあるかもw
日本(かどうかは分かりませんが)は裏金天国になりますね。
海外からも「ロンダリングマン」とか「H(aven)-MEN」とか名乗るアメコミヒーローが乗り込んできそう。
Gメンも捜査のしがいがあるかもw
Gメンにはりつかれてるかもしれないですね、目立ちますもん。
一斉検挙の日も近いかも
正義の組織もポコポコ発生してそうなもんですし、政府直轄の裏金戦隊オレノモンジャーなんてのが設立されたりして(^^)
一斉検挙の日も近いかも
正義の組織もポコポコ発生してそうなもんですし、政府直轄の裏金戦隊オレノモンジャーなんてのが設立されたりして(^^)
- #1722 カテンベ
- URL
- 2013.08/31 08:11
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NoTitle
向こうさんは最近、タックスヘイブン潰しに躍起になってるらしいので。
そして同時に狙われるシティレンジャーの面々。