黄輪雑貨本店 新館


    「白猫夢」
    白猫夢 第6部

    白猫夢・宰孫抄 2

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    麒麟を巡る話、第261話。
    孫との一局。

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    2.
     青年期の長い長耳といえども、流石に齢70を超えれば相応に老けてくる。
     ハーミット卿も既に老境を迎え、さっぱりとまとめていた金髪も、その大部分は既に白髪へと変わっていたし、顔にもしわが刻まれていた。
     しかしその優れた頭脳も、あっけらかんとした性格も、宰相に就任した頃とほとんど変わっていなかった。
    「そもそも相手のことをまったく調べようともせず、そのくせ自分の都合を押し付けるなんてところから、まずおかしいんだ」
    「うんうん」
    「仮にミシェル殿下が大公になったとしたら、きっとロージュマーブルはがっくり傾いちゃうよ。こんな小さな下調べも、まともな根回しもできない人間を国王に据えては、ね」
    「だよねー」
     ハーミット卿は対面に座る三毛耳の猫獣人と碁を囲みながら、昼の珍事を彼女に話していた。
    「じゃーさおじーちゃん、ロージュマーブル公国を継ぐのって、誰になると思うー?」
    「うーん……、そうだな。恐らく次男のレネになるんじゃないかな。
     彼はまだ若いけれど、既にロ国議会でも無視できない発言力を持ってきてるし、主義・主張にもブレが無い。
     それを頑固、人の意見を聞かない奴だと言う判断材料にする人も少なくないけど、今のところ主張する内容に不当な、あるいはおかしい点は見られないし、リーダーになる人間なら、それくらいには芯が通ってる方がいいと思う」
    「ふーん。おじーちゃんの意見だし、やっぱりそうなるのかなー」
    「まあ、まだ分からないけどね」
     そう返しながら、ハーミット卿は碁石をパチ、と置く。
    「あー……」
     対する彼女は、困った顔になる。
    「どうする? 投了するかい?」
    「えー、えっとー……」
     と、彼女はくる、と後ろを向いた。
    「お姉ちゃーん、どーしたらいいかなー?」
    「んー」
     ソファに寝そべっていた、こちらも三毛耳の猫獣人が、むくりと起き上がる。
    「ドコ打ったら勝てそうー?」
    「ちょっと待って……、ふあぁ」
     彼女は癖のある、くすんだ緑髪をもしゃ、と適当に撫でつけながら、妹の背中越しに盤面を眺めた。
    「……んー、……右隅くらいかな。その、並んでるとこ」
    「ココ?」
    「もいっこ下」
    「ココ?」
    「そこ。んで、そこ打つとじいちゃん、寄せに来るけど、それは5手先までほっといても余裕があるから、出てるところ叩く感じで。そこから上の方をうまいこと凌いでいけば、3目半であんたが勝つよ」
    「う、うん。……やってみるー」
     妹は恐る恐る、姉に言われた通りに石を置く。
    「……」
     一方、のんきに打っていたハーミット卿は神妙な顔になり、盤面に目を凝らしている。
    「ココだよねー?」
    「そこ」
    「ちょっと、アオイ」
     と、ハーミット卿が顔を挙げる。
    「ヒントは一回がマナーじゃないかな」
    「そだね。……じゃ、あたし寝る。頑張れ、カズラ」
    「う、うん」
     と、姉の方――葵(アオイ)・ハーミットがソファに寝転んだところで、ぼそぼそと彼女の声が返って来た。
    「さっきの話だけどさ」
    「うん?」
    「あたしの意見だと、長女のカーラさんが大公になるんじゃないかなって」
    「どうして?」
    「現大公の一番お気にだもん。レネさん、大公に嫌われてるし。
     それにミシェルさんは失敗したけど、カーラさんはうまいことやったらしいよ、根回し。こないだグ国将軍の息子さんと婚約したってさ。あと1年か2年経てば結婚するだろうし、その時現大公がまだ生きてたら、きっと指名するよ。
     あとはあたしの勘」
    「……ふむ」
     アオイの話に、ハーミット卿は素直に感心した。
    (素晴らしいとしか言いようが無いな。
     まだ15歳と言うのに、政治・経済観が飛び抜けて優れている。『勘』と彼女は言っているが、それは恐らく、彼女があちこちで見聞きした情報を無意識的に整理、取捨選択した結果、導き出されたものなんだろう。
     ……この一局にしても)
     ハーミット卿はアオイのヒントにより突如、難局の様相を見せた盤面に目を凝らし、道筋を懸命に探っていた。
    「……ここ、……かな」
     どうにかアオイの示した局面を乗り切り、ハーミット卿が2目半で勝利を収めた。
    「あー、負けちゃったー」
    「負けたの? 残念だったね」
     しょんぼりとする妹、葛(カズラ)・ハーミットに、葵はやはり寝転んだまま、労いの言葉をかけた。
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