黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第6部

    白猫夢・宰孫抄 3

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    麒麟を巡る話、第262話。
    眠り猫、飛び猫。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    3.
     葵・ハーミットと言う少女は、確かに天才の部類に入る人間と言えた。

    「えやあッ!」「てい」
     黄派焔流、シルバーレイク道場。
     練習相手の、気合の入った初太刀をすい、と避け、葵が竹刀でぺち、と面を小突く。それを確認した師範代が、苦い顔をしてこう告げた。
    「一本! ……と言いたいが、ハーミット」
    「はい?」
    「もっと気合を入れてくれ。確かに有効打だが、なんだ『てい』って」
    「一応頑張ったんですけど」
    「もっと声を張ってくれないと、こっちも張り切って『一本』って言い辛い」
    「分かりました。気を付けます」

    「おーい、ハーミット、起きてるかー」
     王立高等学校。
     授業中に爆睡する葵に、教師がトントンと肩を叩く。
    「むにゃ……ふぁい?」
    「聞いてたか? 銅の炎色反応を言ってみろ」「青色です」「ナトリウムは?」「黄色」「マグネシウム」「白」「……」「ぐー」
     教師からの質問が止まるなり、また葵の寝息が聞こえてくる。
    「起きんかーッ!」「ふぇ?」

     確かに文武両道であり、「起きている時」にはそれなりに親しみやすい子なのだが、いつもどこか無気力で、気が付けば眠っている。
     いつしか彼女には、「眠り猫」のあだ名が付いていた。



     一方、妹の葛・ハーミットの方は、まるで姉の気力を吸収したかのような性格だった。

    「えーいっ!」「はあッ!」
     目一杯振りかぶった竹刀を止められ、返す刀でぱこん、と胴を打たれる。
    「一本!」
    「あー、やられちゃったー。
     ね、ね、もっかい、もっかいやろ!」

    「次、ハーミット」「はーいっ!」
     教師に指名され、勢いよく立ち上がって朗読を始める。
    「『すると狐の女神様は仰いました、これから私の言うことを』、……えーと」
    「『誦め(よめ)』だ」
    「あー、そだったそだった。『言うことを誦め、しかし苦者は』、……にがもの?」
    「若者だ。どんな目してるんだ、お前……」
    「えへへ、すいませーん。『しかし若者はきょとんとするばかり。そこで狐の女神様は……』」

     姉のように際立った才覚は無く、どこか抜けたところがあるものの、多少の失敗は気にせず邁進する、非常に前向きで明るい性格だったため、こちらも周りの人気は高かった。
     姉と比較して、こちらは「飛び猫」と呼ばれていた。



     優秀だが積極性の無い姉。行動的だがおっちょこちょいの妹。
     互いを補うような一長一短の特徴を持つからか、二人は非常に仲のいい姉妹であり、周りからもそう見られていた。



     そんな二人を特に気に入っていたのは、祖父のハーミット卿である。
    「パパ、またそんなにお土産……」
    「まあ、いいじゃないか」
     その日もハーミット卿は、沢山の本を抱えて娘夫婦の家を訪ねてきた。
     ニコニコ微笑みながら本をテーブルに置く父を見て、卿の娘であるベルが口を尖らせる。
    「ママが寂しがるよ」
    「まあ、うん。……そうだね、10時、いや、9時前には帰るよ。
     二人はまだ帰ってきてないのかな」
    「ええ。試験が近いから、図書館で一緒に勉強するって言ってた」
    「そっか。シュウヤ君は?」
    「今日は特に何もないはずだから、そろそろ帰ってくる頃かな」
    「彼もなかなか忙しそうだね」
     そう返した卿に、ベルは肩をすくめて見せる。
    「ちょっと寂しいけどね。道場が成功してくれたのはホントにうれしいけど、そっちにばっかり熱中されると、なんか、ちょっとね」
    「やんわり諭しておこうか?」
    「パパじゃ説得力ないって。パパだってもうおじいちゃんなのに、いまだに仕事一筋だし」
    「……参ったね。説得は得意なつもりだったんだけど」
     と、卿が苦い顔をしたところで、玄関をノックする音が聞こえる。
    「あ、はーい、おかえりー」
     ベルが玄関を開け、夫の秋也が入ってきた。
    「ただいま。……あ、お義父さん、ども」
    「邪魔してるよ。順調そうで何よりだ」
    「ええ、まあ。あ、そうだ」
     秋也はくたびれたかばんからごそごそとチラシを取り出し、卿に渡す。
    「来月、剣術大会を開くんです。並行して色々催し物もあるんで、その、もしお暇なら……」
    「ああ、来月ならまだ何とか、予定を空けられるかも知れない。調整しておくよ」
    「ありがとうございます」
     ぺこ、と頭を下げた秋也に、卿はこんな質問をした。
    「で……、これって、アオイたちも出るのかな」
    「え? ええ、葵はオレの道場じゃ一番強いですし。葛も一応出ますよ」
    「それは楽しみだ。
     ……ん、うわさをすれば、だね」
     卿は窓の外に、葵たちがこちらに向かって歩いてくるのを見付けた。
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