「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第6部
白猫夢・捜卿抄 1
麒麟を巡る話、第264話。
電話連絡。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
「え? まだパパ、帰ってないの?」
秋也の家にかかってきた電話によって、このハーミット卿誘拐事件は発覚した。
「……遅すぎるよね?」
《確かにのう。どんなに遅くとも、10時には家に着かねば、明日の公務に差し支えると言うのに》
ベルの母であるジーナが電話の向こうで、心配そうな声を上げる。
《もしやと思うが、何かあったのかも知れん》
「……ちょっと調べてみる。また後で電話するね」
ベルは一旦電話を切り、すぐ受話器を上げる。ぷつ、と音が鳴り、電話交換手の声が聞こえてくる。
《シルバーレイク第2通信局です》
「電話お願い。軍電信局に」
《分かりました、おつなぎします》
ぷつ、ぷつと音が鳴った後、男性の声に変わった。
《こちらはプラティノアール軍電信局です。名前と所属コードを》
「こちらはベル・ハーミット少佐。所属コード、542-022-SS-11」
《……SS!? 失礼いたしました!》
ベルの所属を聞いた途端、局員の声が上ずったものに変わる。
「『SS』本部につないでもらえる? パスワードは、『F・7・H・5・6・R』」
《かしこまりました!》
再度、ぷつ、と音が鳴り、今度はまた、女性の声が返ってきた。
《はい、セクレタ・セルヴィス本部です》
「キュビス?」
《ええ》
「すぐ調べてほしいことがあるの。アニェント通りからオリビア通りまで、パパ……、いえ、ネロ・ハーミット卿がいないかどうか」
《卿を?》
「9時ちょっと過ぎに家を出て、まだ自分の家に戻ってないみたいだから。単に疲れてベンチに座り込んで、そのままうたた寝しちゃってるくらいならいいんだけど」
《探してみます》
もう一度ぷつ、と音を立てて、電話は切れた。
「……あー、もー」
「どうした?」
耳を押さえる妻を見て、秋也が声をかける。
「電話ってなんで、こんなぷつぷつ音が鳴るんだろ。すっごく耳障り!」
「さあ……?」
とぼけた返答をした秋也に代わり、葵が答える。
「回線をつなぎ直す時の音だよね。一瞬、信号が切れちゃうから」
「便利だとは思うんだけどさ……。あたし、あの音だけはホントに嫌」
と、苦い顔をしていたベルが、真剣な表情になる。
「ねえシュウヤ、もしもだけど」
「ん?」
「もしもさっきあたしが言ってたみたいに、ベンチでうたた寝みたいなことになってなかった場合は――可能性は何が考えられるかな」
「そうだな……」
一転、秋也も真面目な顔になる。
「現実的に考えれば、2つあるな。
1つは、義父さんが倒れてるかもって可能性だな。もう大分歳だし、それにこの寒さだ。死んではいないまでも、何かしらの急病でうずくまってるってことは、十分にあると思う。
もう1つとしては、……やっぱり、誘拐されたか」
「そうだよね。あたしもどっちかだと思う。どっちも、あってほしくないけど」
「オレも同感だ」
と、電話がじりりん……、とけたたましく鳴る。
「もしもし」
電話に出たベルの耳に、先程応対した女性の声が聞こえてきた。
《現場周辺を警邏していた兵士たちと連絡を取り、捜索を行わせました。しかしそれらしい人物はいなかった、とのことです。
それと……、その兵士たちから気になる情報が》
「何かあったの?」
《1時間半ほど前、猛スピードで道を駆けるタクシー3台とすれ違ったとのことです。
とても人を丁重に運ぶような速度では無く、そもそもタクシー自体、その時間帯には大半の業者が、とっくに営業を終了しているはずです》
「怪しいね。……どちらにしても、卿がその周辺で見つからなかったのはおかしい。
もうおじいちゃんだし、仕事が趣味みたいな人だから、どこかのバーへ突然遊びに行ったなんてことは考えにくい。そのタクシーのことも、無関係とは思えない。1時間半前ならちょうど、あたしの家を出た時刻だもん。
……間違いなく緊急事態だね。SS隊員を、全員招集して」
《了解しました。エトワール参事官も?》
「勿論、呼んで。あたしとシュウヤも、これから向かうから」
今度はベルの方から電話を切り、秋也に目配せした。
「おう」
つい先程まで西方風のゆったりしたシャツを着ていた秋也は、今はびしっとしたスーツ姿になり、腰には刀を佩いていた。
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電話連絡。
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「え? まだパパ、帰ってないの?」
秋也の家にかかってきた電話によって、このハーミット卿誘拐事件は発覚した。
「……遅すぎるよね?」
《確かにのう。どんなに遅くとも、10時には家に着かねば、明日の公務に差し支えると言うのに》
ベルの母であるジーナが電話の向こうで、心配そうな声を上げる。
《もしやと思うが、何かあったのかも知れん》
「……ちょっと調べてみる。また後で電話するね」
ベルは一旦電話を切り、すぐ受話器を上げる。ぷつ、と音が鳴り、電話交換手の声が聞こえてくる。
《シルバーレイク第2通信局です》
「電話お願い。軍電信局に」
《分かりました、おつなぎします》
ぷつ、ぷつと音が鳴った後、男性の声に変わった。
《こちらはプラティノアール軍電信局です。名前と所属コードを》
「こちらはベル・ハーミット少佐。所属コード、542-022-SS-11」
《……SS!? 失礼いたしました!》
ベルの所属を聞いた途端、局員の声が上ずったものに変わる。
「『SS』本部につないでもらえる? パスワードは、『F・7・H・5・6・R』」
《かしこまりました!》
再度、ぷつ、と音が鳴り、今度はまた、女性の声が返ってきた。
《はい、セクレタ・セルヴィス本部です》
「キュビス?」
《ええ》
「すぐ調べてほしいことがあるの。アニェント通りからオリビア通りまで、パパ……、いえ、ネロ・ハーミット卿がいないかどうか」
《卿を?》
「9時ちょっと過ぎに家を出て、まだ自分の家に戻ってないみたいだから。単に疲れてベンチに座り込んで、そのままうたた寝しちゃってるくらいならいいんだけど」
《探してみます》
もう一度ぷつ、と音を立てて、電話は切れた。
「……あー、もー」
「どうした?」
耳を押さえる妻を見て、秋也が声をかける。
「電話ってなんで、こんなぷつぷつ音が鳴るんだろ。すっごく耳障り!」
「さあ……?」
とぼけた返答をした秋也に代わり、葵が答える。
「回線をつなぎ直す時の音だよね。一瞬、信号が切れちゃうから」
「便利だとは思うんだけどさ……。あたし、あの音だけはホントに嫌」
と、苦い顔をしていたベルが、真剣な表情になる。
「ねえシュウヤ、もしもだけど」
「ん?」
「もしもさっきあたしが言ってたみたいに、ベンチでうたた寝みたいなことになってなかった場合は――可能性は何が考えられるかな」
「そうだな……」
一転、秋也も真面目な顔になる。
「現実的に考えれば、2つあるな。
1つは、義父さんが倒れてるかもって可能性だな。もう大分歳だし、それにこの寒さだ。死んではいないまでも、何かしらの急病でうずくまってるってことは、十分にあると思う。
もう1つとしては、……やっぱり、誘拐されたか」
「そうだよね。あたしもどっちかだと思う。どっちも、あってほしくないけど」
「オレも同感だ」
と、電話がじりりん……、とけたたましく鳴る。
「もしもし」
電話に出たベルの耳に、先程応対した女性の声が聞こえてきた。
《現場周辺を警邏していた兵士たちと連絡を取り、捜索を行わせました。しかしそれらしい人物はいなかった、とのことです。
それと……、その兵士たちから気になる情報が》
「何かあったの?」
《1時間半ほど前、猛スピードで道を駆けるタクシー3台とすれ違ったとのことです。
とても人を丁重に運ぶような速度では無く、そもそもタクシー自体、その時間帯には大半の業者が、とっくに営業を終了しているはずです》
「怪しいね。……どちらにしても、卿がその周辺で見つからなかったのはおかしい。
もうおじいちゃんだし、仕事が趣味みたいな人だから、どこかのバーへ突然遊びに行ったなんてことは考えにくい。そのタクシーのことも、無関係とは思えない。1時間半前ならちょうど、あたしの家を出た時刻だもん。
……間違いなく緊急事態だね。SS隊員を、全員招集して」
《了解しました。エトワール参事官も?》
「勿論、呼んで。あたしとシュウヤも、これから向かうから」
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