黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第3部

    蒼天剣・魍魎録 4

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    晴奈の話、第143話。
    憂鬱な待機/勢力拡大の、真の意味。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    4.
     兵士数名に肉を持たせて巡回させ、その間晴奈たちは村の中で最も高い場所、火の見やぐらで監視を続けていた。
    「……来ないわね」
    「そうだな」
     村に来てすでに2日経っているが、いまだ大鷹は現れない。
    「来なきゃいいのに」
    「そうなると、しばらく帰れなくなるだろう」
    「それはヤダ」
    「……と言って、来い来いと念じる気には」
    「なるワケないじゃない」
     リストはぶすっとした顔で、狙撃銃をいじっている。
    「なーんかさー、コレってアレよね」
    「アレ?」
    「来ないとヒマで仕方ないけど、来るのも怖いから嫌。ジレンマってヤツよね」
    「じ、れ……?」
     きょとんとする晴奈を見て、リストが多少イライラした様子で説明する。
    「どっちに転んでも嫌な思いする状況、ってコトよ。もぉー、どうすりゃいいのよ」
     晴奈は刀を見つめながら、それに答える。
    「いい方法がある」
    「どんな?」
    「悩んでいるうちに鷹が出現すれば、嫌でも戦わなければならぬ。戦いが済んだら、悩まずに済む」
    「……アンタ、バカなの? 解決方法って言うの、それ?」
    「結果を大事にする人間、と言ってほしい。どちらにせよ、そうなれば気が楽になるだろう?」
     むくれるリストに、晴奈はニヤリと笑って返した。

     その時だった。
    「グエッ」
     何かの鳴き声が、やぐらの上方から聞こえてきた。続いてギシギシと、かなりの重量がかかる音がやぐら全体に伝わってくる。
    「……いま、なにか、きこえた?」
     リストはこわばった顔になり、たどたどしい口調で晴奈に尋ねる。
    「聞こえたな。猛禽の類のようだった。相当大きいようだ」
    「うえから、きこえたわよね?」
    「ああ。……落ち着け、リスト」
     晴奈はリストの肩をポンポンと叩き、落ち着かせる。
    「まだ大鷹とは限らない。普通の鳥かも知れぬ」
    「そ、そうね」
    「……撃ってみたらどうだ?」
    「へ?」
     晴奈は上を向き、指差してみる。
    「屋根は割と薄い。刀で突いても恐らく、通る」
    「アンタやればいいじゃない」
    「下手に動くと逃げられるだろう? ここから動かずに攻撃するには」
    「……はいはい、分かったわよ」
     リストは非常に嫌そうな顔をして、銃――狙撃銃ではなく、拳銃――を構えた。
    「あの辺り……、かな」
     音のした方向に狙いを定め、引き金を二度引く。パン、パンと爆竹のような音と共に、銃口から稲穂状の火が噴き出した。
    「ギャアア!?」
     どうやら命中したらしく、鳥の騒ぐ声が聞こえた。が――。
    「……烏?」
    「の、ようだな」
     鳴き声はどう聞いても、鷹には思えない。そしてすぐ、人の頭ほどの黒い塊が2個、屋根から滑り落ちてきた。
    「……あはは、は。なーんだ、烏かぁ」
    「はは……、取り越し苦労だったな」
    「誰よ、バケモノかもって言ったのは、くく、あはは……」
    「いや、失敬した。……ふふっ」
     緊張が解けた二人は、どちらからとも無く笑い出した。
     だが――。
    「うわあああッ!」「でっ、出たーッ!」
     囮になっていた兵士たちの悲鳴が、村中にこだました。



    「調べてみた結果だが」
     大火はウィリアムが用意した料理を平らげたところで、調査結果を話し始めた。
    「正直なところ、どうとも取れるな」
    「と、言いますと」
    「確かにお前の言う通り、謀反の準備とも取れる行動を取ってはいる。僧兵団の強化を図り、央中との貿易にも武器の類が増えている。それとな」
     大火はそこで言葉を切り、コーヒーに手を付ける。
    「それと……?」
    「……それと、ワルラスが執務室として使っている部屋だが、いつの間にか隠し部屋が作られていた。どうやら、先日お前が危惧していたモンスターを飼う部屋のようだ」
    「では、やはり謀反と?」
    「だから、そうとも言えないと言っただろう?」
     大火はウィリアムをたしなめるように、細い目をさらに絞ってきた。
    「それらは勢力拡大のための軍事力増強、とでも説明されれば反証のしようが無い。それに今のところ、お前には従順な態度を取っている。一人の時も、出世欲をにじませるようなことは無かった。
     現時点での結論を言えばだな――お前に叛意を悟られまいと振舞っているのか、それとも本当に勢力拡大を目的としているのか、断言はできんな」
    「そう、ですか」
     ウィリアムは内心、とてもがっかりした。それを見抜いてか、大火がじっと見つめてくる。
    「不満か?」
    「え、いえっ」
    「いや、俺としても現状がはっきりしないことには、不満だからな。
     ワルラスと言う男はなかなか狡猾だ。恐らく対情報能力の堅さ――己の思惑をさらけ出さないことにかけては、相当手強いだろうな。恐らくこのまま、謀反とも奉仕とも取れない軍備増強と侵略を、コツコツ続けていくつもりだろう。
     その辺りはまるで『狐』のようだ――狼の皮を被った狐、とでも言うべきか」
    「尻尾をつかむのは、とても難しいと」
    「ああ。だが、このまま放っておくと、一つの不安要素が発生する。それが何か、分かるか?」
     大火に問われ、ウィリアムはコーヒーを飲みながら思考をめぐらせる。
    「ふ、む……。軍備増強と侵略が続くと、起こる問題ですか。……!」
     一つの可能性に思い当たり、ウィリアムは身を震わせる。
    「外、……山脈の外に、兵隊が発生する」
    「そうだ。黒鳥宮の外、『ワルラスが』拡大した教区に、『奴の』兵隊ができあがることになる。もしその数、その戦力が本山のそれと肩を並べるようなことになれば……」
    「……すなわち権力奪取、クーデターですか」
     ウィリアムはコーヒーを卓に置き、顔を覆う。
    「ううむ……」
    「まあ、一つの可能性としてとらえておいてくれ。もしかすると別の手段を考えているかも知れんし、な。
     ともかく看過すべき問題では無いし、暇があれば観察しておこう。これは教団の存亡に関わる――ひいては俺の『契約』に関する、重要な問題だからな」
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    明けましておめでとうございます。
    今年もよろしくお願いします。

    やはり神様への信仰と教祖・高僧への信用は別物、別格ですからねぇ。
    しかも神様が、間近で顛末を眺めているというのに。
    3部を読み終わった後で振り返れば、かなり独りよがりなクーデターです。

    NoTitle 

    明けましておめでとうございます。

    クーデターですか。

    宗教団体でクーデターをやるのは難しいぞ~。

    なにせどうやって信者の支持を取り付けるか考えておかないと失敗するからなあ。

    「宗門争いはどっちが勝っても釈迦の恥」だそうでありますし。

     

    もうちょっと読み進めていただくと、クーデターの全貌が明らかになります。
    もめたのは基本、ワルラス一人だったり。

    同人ゲームですかΣ(゚∀゚;)
    現実化したら、僕にも何かシナリオか素材を、……なんてw
    2年後だと……「火紅狐」すら終わってるかもです。
    楽しみにしてますね。

    サイト1周年おめでとうございます。
    これからもよろしくです。

     

    おお、クーデターですね。クーデター。
    ウィリアムピンチですね…ってこの段階では決定事項ではないですね。結構ウィリアムも家族もめごとが多いところですねえ……。

    かなり先の話(2年後ぐらい?)に今のグッゲンハイムを同人ゲーム化しようかと考えております。その時にはクロンの過去話も加筆仕様と思っています。その時にはウィリアムやヒイラギの映像化もしたいなあ・・・と思考中です。また、そういう段階まで進みそうだったら、お話しますね。……まあ、かなり先ですね。お互いどうなっているかもわかりませんが。

    それはそうと、おかげさまで私のサイトが1周年を迎えました。黄輪様にはキャラ提供と色々お世話になりました。本当にありがとうございます。これからもよろしくお願いしますです。
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