fc2ブログ

黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第6部

    白猫夢・捜卿抄 4

     ←白猫夢・捜卿抄 3 →白猫夢・捜卿抄 5
    麒麟を巡る話、第267話。
    犯人確保、……か?

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    4.
     隊員2名を裏手に回らせた後、ベルは残りの隊員たちを一人ずつ、工場の敷地内に送る。
    (……よし)
     全員を静かに張り込ませてから、ベルと、そして秋也が最後に門をくぐる。
    (パパは、……いないか)
     タクシーの陰に隠れ、工場の中を覗き見たが、ハーミット卿らしき姿は無い。
    (となると、そろそろフレッドたちがパパを救出してくれてる頃、……かな)
     と、軍帽に仕込んでおいた「魔術頭巾」から、隊員の声が聞こえてきた。
    《こちらSS-18。こちらSS-18。応答願います》
    「こちらSS-11。どうぞ」
    《救助対象、いません》
    「……えっ?」
     思わず聞き返したが、隊員は困惑した声色で、同じことを返す。
    《ハーミット卿は、いません》
    「……え、じゃあまさか、人違い? いや、でもタクシーはここだし、……ええ?」
     困惑するベルの肩を、秋也がとん、とんと軽く叩く。
    「落ち着けって。とにかく、ここに怪しいタクシーがあるのは確かだ。何にせよ、突入した方がいいと思うぜ。もし間違ってたら、平謝りして撤収したらいいんだし」
    「う、うん」
     ベルは呼吸を整え、全員に命令した。
    「SS全隊員、突入せよ! 相手が抵抗しない限り、銃は使うな!」
    《了解!》
     号令と共に隊員たちが立ち上がり、一斉に工場内へと駆け込んでいく。
    「ひゃ、ひゃああっ!?」
     その直後――間の抜けた叫び声が、工場から聞こえてきた。

     工場内にいた男たち4人を拘束し、ベルは事情を聴くことにした。
    「まず聞くけど、あなたたちは、何故ここに? ここは夜、稼働してないはずだし、あなたたちはどう見ても工員じゃない。……それどころか」
     男たちの中に、場違いな服装をした兎獣人が1名いた。あからさまに豪奢な身なりをしており、どう見ても王侯貴族の類である。
    「あなたの名前から聞かせてもらえる?」
    「……その、……いや、……言えない」
    「言ってもらわなきゃ困るわ。
     現時点であなたたちには不法侵入、不法占拠の容疑がかかってる。黙秘するなら拘置所に行ってもらうことになる。
     当然、取り調べを受けることになるし、豪華な服を着てるあなたの素性がそこで明らかになったら、国際問題になりそうだもの」
    「う……」
     兎獣人は顔を真っ蒼にし、ぼそぼそと答えた。
    「……み、……ミシェルです」
    「ミシェル、何さん?」
    「……ミシェル・ロッジです」
    「え、……ロッジ? ロッジってロ国大公の?」
    「はい……」
     今にも泣きそうな顔をしているミシェルに対し、ベルは詰問を続ける。
    「じゃあ、さっきタクシーで街中を爆走してたのも、あなたたち?」
    「はい……」
    「その目的は?」
    「……え、……えー」
    「言わないとより面倒なことになるけど、それでいいの?」
    「……言った方が面倒になりそうですし、……あ、いや」
     慌てて口を押さえたミシェルに、ベルはきつい口調で尋ねる。
    「あなたたちがハーミット卿を誘拐したの?」
    「……は、はい。あ、いや、ちょっと違うかな、ちょっと」
    「どう言うこと?」
     と、ついにミシェルは泣き出してしまった。
    「そ、そのですね、えっと、……うっ、……うぅー」
    「ちょっと……。いい歳したおじさんが泣かないでよ。
     じゃあ最初から、一つずつ聞くから。ゆっくりでいいから答えてよ?」
    「うっ、うっ、……はい」
    「ハーミット卿をタクシーに乗せたのは、あなたたち?」
    「は、はい」
    「ここまで連れてきたの?」
    「そ、それが、うっ、うっ」
    「違うの?」
    「は、半分」
    「半分って?」
    「と、突然なんです。うっ、うう……」
    「何が?」
    「タクシーに乗せたのは確かなんです。でもここに着く直前、……ひっく、ひっく」
    「直前に、突然何があったの?」
    「ひっく……、ここの門を開けようとした時なんです。
     タクシーを停めてたら、そこに、なんか、……ひっく、……なんか、変な人たちが来て」
    「変な、人?」
    「真っ白い、うっ、魔術師みたいなローブ着た人と、ひっく、赤と青の、派手な服を着た女の子が、ひっく、タクシー、開けて、中からハーミット卿を、うぐっ、連れ出したんです……」
    「……どこから嘘?」
    「ぜ、全部、本当なんです! ひっく、だから、ひっく、もうどうしたらいいか分からなくて、……うえーん」
     とうとう子供のように大泣きしだしたミシェルに、ベルたちは呆れるしかなかった。
    関連記事




    ブログランキング・にほんブログ村へ





    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 5;緑綺星
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 4;琥珀暁
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 3;白猫夢
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 2;火紅狐
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 1;蒼天剣
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 短編・掌編・設定など
    総もくじ 3kaku_s_L.png イラスト練習/実践
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 5;緑綺星
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 4;琥珀暁
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 3;白猫夢
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 2;火紅狐
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 1;蒼天剣
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 短編・掌編・設定など
    もくじ  3kaku_s_L.png DETECTIVE WESTERN
    もくじ  3kaku_s_L.png 短編・掌編
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png 雑記
    もくじ  3kaku_s_L.png 携帯待受
    もくじ  3kaku_s_L.png 今日の旅岡さん
    総もくじ  3kaku_s_L.png イラスト練習/実践
    • 【白猫夢・捜卿抄 3】へ
    • 【白猫夢・捜卿抄 5】へ

    ~ Comment ~

    管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    トラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【白猫夢・捜卿抄 3】へ
    • 【白猫夢・捜卿抄 5】へ