「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第6部
白猫夢・立葵抄 1
麒麟を巡る話、第269話。
誘拐されて、また誘拐されて。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
時間は日付が変わる前、夜10時頃に戻る。
ハーミット卿を乗せたタクシーが廃車工場の前で停車し、先頭のタクシーからミシェルが降りてきた。
「あ、門お願いしますね。私、ハーミット卿と話しますので」
「へい」
タクシーの御者たちに門を開けてもらう間に、ミシェルはハーミット卿の乗るタクシーに駆け寄る。
「あの、今回は本当にすみません。どうしてもあのお話、承諾していただきたくて」
「……」
ドア越しに、ハーミット卿の不機嫌な顔が見える。
「君ですか。まったく……、呆れ果てますよ」
「すみません……」
「『すみません』、じゃもう済みませんよ? 子供のいたずらじゃないんですから」
「それはもう、重々承知を……」「してませんよね、あなた?」
ドアの窓を開け、ハーミット卿はミシェルをにらみつける。
「重要な立場にある人間が、友好国の宰相を誘拐しておいて、後は万事つつがなく……、なんてことがあるはず無いと、何故分からないんです?
恐らく今現在、我が国の当局は大騒ぎになっています。もう捜索が始まっているでしょう。優秀な人間が揃っていますから、1時間以内にはここに私が囚われていることを看破するでしょう。そうなれば当然、私の身柄を奪還し、併せてあなた方を逮捕するため、こちらに向かってくるはずです。
そうなった場合、あなたはどうされるおつもりですか? まさか『自分はロ国の公太子である。逮捕や身柄拘束などもっての外。あるはずが無い』などと思っていらっしゃるのではないですか?」
「ふえっ」
「そんな言い訳が通用するレベルの行為ではありませんよ? こんなことが露見したら、両国にとってみっともない椿事、醜聞以外の何物でもありません。
ほぼ間違いなく、ロ国はあなたの存在を抹消しようと工作にかかりますよ」
「ま、まさか」
「まさか、ですって? そんなことをひょいとされてしまう身分であることをあなた自身分かっているからこそ、私の孫に縁談を持ってきたのでしょう?」
「あは、は……」
「笑いごとではないと、いい加減理解しなさい!」
ハーミット卿はいよいよ怒り出し、持っていた杖でミシェルの肩を叩いた。
「いたっ!? な、何をなさるんですか!」
「そんなことが言える立場ですか!?
目を醒ましなさい! あなたは今、人としてあるまじき行為を行っているのですよ!?」
ハーミット卿は怒りに任せ、タクシーから降りてさらに叱咤しようと、口を開きかけた。
その時だった。
「……」
まず、門の近くに集まっていた御者たち3名が、ぱたぱたと倒れて行く。
「え……あれ」
続いてミシェルもかくんと膝を着き、そのまま横に倒れた。
「なんだ……?」
突然の事態に、流石のハーミット卿も戸惑う。
と――背後からがし、がしと両手をつかまれた。
「……?」
とっさに振り払おうとしたが、びくともしない。
何とか首だけを後ろに向けると、そこには2人の少女が、薄ら笑いを浮かべて立っていた。そしてその、奇抜な色合いのドレスを見て、ハーミット卿に昔の記憶がよみがえる。
「……既視感があるな、なんか」
「左様でございますか」
「うん。『すっごく昔』、同じ目に遭った気がする。その時は一人だけだったけど。
もしかして君たち、人形かい?」
黒と赤のドレスを着た少女が、こくりとうなずく。
「仰る通りでございます」
「ミシェルさんとかは、生きてるのかな。気絶とか、動けなくしただけ?」
「仰る通りでございます」
今度は黒と青のドレスを着た少女が答える。
「気絶させたのって、君たち?」
「いいえ、わたくし共ではございません」
「じゃ、誰が?」
「わたくしです」
タクシーの裏手から、白いローブを深く被った女性が現れた。
「何故僕を助けた、……わけじゃないな。君たちも僕をさらいに?」
「ええ。お前には再教育の必要があるようですから」
「再教育?」
尋ねたハーミット卿に、女性はこう返した。
「あのお方にまんまとお前を奪われ、あまつさえわたくしの制御プログラムを一つ残らず解除・改変されてしまうとは、まったく思いもよりませんでした。
よしんば、されるにしても、もう100年はかかると思っていたのですが。やはりあの方は、この世で唯一わたくしが認めたお方、と言うところでしょうか。
しかしあの方も詰めが甘いこと」
女性はクスクスと笑いながら、ハーミット卿の胸倉をつかむ。
「おめおめとお前を生かしておくなど。わたくしに奪い返されるとは、思わなかったのでしょうか。
いくら人となり、人のように老いさばらえていようと、お前はわたくしのもの、素晴らしき傑作であることに変わりはない。オーバーホールし、再度この世界を統べる『装置』となってもらいます」
次の瞬間、ハーミット卿と人形たち、そして女性の姿は、そこから消えた。
そして――残されたミシェルたち4人はどうしていいか分からなくなり、工場でただただ茫然とするしかなくなった。
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誘拐されて、また誘拐されて。
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時間は日付が変わる前、夜10時頃に戻る。
ハーミット卿を乗せたタクシーが廃車工場の前で停車し、先頭のタクシーからミシェルが降りてきた。
「あ、門お願いしますね。私、ハーミット卿と話しますので」
「へい」
タクシーの御者たちに門を開けてもらう間に、ミシェルはハーミット卿の乗るタクシーに駆け寄る。
「あの、今回は本当にすみません。どうしてもあのお話、承諾していただきたくて」
「……」
ドア越しに、ハーミット卿の不機嫌な顔が見える。
「君ですか。まったく……、呆れ果てますよ」
「すみません……」
「『すみません』、じゃもう済みませんよ? 子供のいたずらじゃないんですから」
「それはもう、重々承知を……」「してませんよね、あなた?」
ドアの窓を開け、ハーミット卿はミシェルをにらみつける。
「重要な立場にある人間が、友好国の宰相を誘拐しておいて、後は万事つつがなく……、なんてことがあるはず無いと、何故分からないんです?
恐らく今現在、我が国の当局は大騒ぎになっています。もう捜索が始まっているでしょう。優秀な人間が揃っていますから、1時間以内にはここに私が囚われていることを看破するでしょう。そうなれば当然、私の身柄を奪還し、併せてあなた方を逮捕するため、こちらに向かってくるはずです。
そうなった場合、あなたはどうされるおつもりですか? まさか『自分はロ国の公太子である。逮捕や身柄拘束などもっての外。あるはずが無い』などと思っていらっしゃるのではないですか?」
「ふえっ」
「そんな言い訳が通用するレベルの行為ではありませんよ? こんなことが露見したら、両国にとってみっともない椿事、醜聞以外の何物でもありません。
ほぼ間違いなく、ロ国はあなたの存在を抹消しようと工作にかかりますよ」
「ま、まさか」
「まさか、ですって? そんなことをひょいとされてしまう身分であることをあなた自身分かっているからこそ、私の孫に縁談を持ってきたのでしょう?」
「あは、は……」
「笑いごとではないと、いい加減理解しなさい!」
ハーミット卿はいよいよ怒り出し、持っていた杖でミシェルの肩を叩いた。
「いたっ!? な、何をなさるんですか!」
「そんなことが言える立場ですか!?
目を醒ましなさい! あなたは今、人としてあるまじき行為を行っているのですよ!?」
ハーミット卿は怒りに任せ、タクシーから降りてさらに叱咤しようと、口を開きかけた。
その時だった。
「……」
まず、門の近くに集まっていた御者たち3名が、ぱたぱたと倒れて行く。
「え……あれ」
続いてミシェルもかくんと膝を着き、そのまま横に倒れた。
「なんだ……?」
突然の事態に、流石のハーミット卿も戸惑う。
と――背後からがし、がしと両手をつかまれた。
「……?」
とっさに振り払おうとしたが、びくともしない。
何とか首だけを後ろに向けると、そこには2人の少女が、薄ら笑いを浮かべて立っていた。そしてその、奇抜な色合いのドレスを見て、ハーミット卿に昔の記憶がよみがえる。
「……既視感があるな、なんか」
「左様でございますか」
「うん。『すっごく昔』、同じ目に遭った気がする。その時は一人だけだったけど。
もしかして君たち、人形かい?」
黒と赤のドレスを着た少女が、こくりとうなずく。
「仰る通りでございます」
「ミシェルさんとかは、生きてるのかな。気絶とか、動けなくしただけ?」
「仰る通りでございます」
今度は黒と青のドレスを着た少女が答える。
「気絶させたのって、君たち?」
「いいえ、わたくし共ではございません」
「じゃ、誰が?」
「わたくしです」
タクシーの裏手から、白いローブを深く被った女性が現れた。
「何故僕を助けた、……わけじゃないな。君たちも僕をさらいに?」
「ええ。お前には再教育の必要があるようですから」
「再教育?」
尋ねたハーミット卿に、女性はこう返した。
「あのお方にまんまとお前を奪われ、あまつさえわたくしの制御プログラムを一つ残らず解除・改変されてしまうとは、まったく思いもよりませんでした。
よしんば、されるにしても、もう100年はかかると思っていたのですが。やはりあの方は、この世で唯一わたくしが認めたお方、と言うところでしょうか。
しかしあの方も詰めが甘いこと」
女性はクスクスと笑いながら、ハーミット卿の胸倉をつかむ。
「おめおめとお前を生かしておくなど。わたくしに奪い返されるとは、思わなかったのでしょうか。
いくら人となり、人のように老いさばらえていようと、お前はわたくしのもの、素晴らしき傑作であることに変わりはない。オーバーホールし、再度この世界を統べる『装置』となってもらいます」
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それはそうとして、「SS」って組織名称がどうしても気になる二次大戦ファン。
そのうち「長いナイフの夜」が来るのではないかとちょっとおびえています(^^;)
そのうち「長いナイフの夜」が来るのではないかとちょっとおびえています(^^;)
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今現在執筆してる内容が国家社会主義政党みたいな話になってきてるので……。