「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第6部
白猫夢・立葵抄 3
麒麟を巡る話、第271話。
目覚めた眠り猫。
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3.
葵の木刀でこめかみを打たれて転がっていた、赤と黒のドレスを着た人形――トリノが立ち上がり、腰に佩いていた剣を抜く。
「主様のご命令により、始末いたします」
「やだ」
葵は木刀をトリノに向け、構え直す。
と、青と黒のドレス――フュージョンも立ち上がり、魔杖を構えてくる。
「重ねて申し上げます。始末いたします」
「やだってば」
葵は一言、それだけ返し、木刀を正眼に構えたまま静止する。
「アオイ、気を付けるんだ。『リンネル』氏もいる」
ハーミット卿は心配になり、葵に声をかけたが、葵は顔を向けずにこう返した。
「その人、多分攻撃してこないよ。少なくともあたしが、この子たちと戦ってる間は」
「……」
葵がトリノの初太刀をかわしたところで、ハーミット卿は続けて尋ねる。
「どうして?」
「その人ね、自分の『何か』を見せるのが、すごく嫌いなんだって」
続いて迫ってきたフュージョンの土術の槍も、葵はひらりと避ける。
「多分、自分の魔術も見せたくないだろうから、少なくともこの子たちが戦闘してる間は、じっとしててくれるよ。
もし不意打ちしようとしても」
前からトリノ、背後からフュージョンが攻撃を仕掛けてくるが、これも葵は横に跳んで避ける。
「『万が一』かわされたらさ、その魔術、見られることになるよね。
だから『リンネル』さんは、攻撃してこない。それに、それよりもこの子たちが、あたしを仕留める確率の方が高いと思ってるから、なおさら自分で手を下そうとしないよ」
「……!」
この返答に、ハーミット卿はぞくりとしたものを感じた。
(だからこの間、攻撃せずにかわしてるってことか! 攻撃をかわされる可能性を示唆して、『リンネル』が動かないよう、牽制してるんだ!
……すごいな。すごすぎるよ、僕の孫は。居場所を看破し、敵の動きを測り切る推理力・論理性だけじゃない。相手の攻撃を――僕と会話しながらだよ――ひらひらとかわして見せる、この並外れた運動神経!)
そしてさらに――ハーミット卿は驚愕させられた。
何十合もの斬撃・打突をすべてかわされたところで、トリノの動きが突然止まる。そしてもう一方のフュージョンも、杖を構えたまま静止する。
「……」
それに合わせるように、葵も木刀を右手一本で構え、ぴたりと立ち止まる。
しばらくにらみ合ったところで、トリノとフュージョンが動いた。
「……ぃやああああッ!」「食らええええッ!」
それまでに放ったことの無い、小屋全体を奮わせる怒声を発し、二人が同時に襲い掛かる。
だが――葵はなんと、剣を構え飛び込んできたトリノに向かって駆け出した。
「!?」
しかし、ハーミット卿が声を挙げる間も無く、状況は一変する。
葵はトリノの間合いに入るかと言うその直前、斜め上に跳躍したのだ。
「な……」
着地した先は、トリノの脳天――腰だめに剣を構えていたため、トリノの重心は下に下がっている。
「はっ……、ゴガッ」
葵の体重を支え切れず、トリノの頭部はそのまま、床に埋まり込んだ。
そしてトリノが突っ伏したその時には既に、葵の姿はそこには無い。フュージョンの放った火球が壁に当たり、空振りに終わるとほぼ同時に、葵は空中でくるりと一回転し、逆に相手の背後を取っていた。
「え……」
フュージョンが振り向こうとした瞬間、葵は伸びたままの彼女の腕をつかみつつ、素早く懐に入って、そのまま立ち上がる。
一本背負いの形になり、フュージョンの体が豪快に宙を舞う。
「ひっ、……グエッ」
フュージョンは壁に叩きつけられ、そのまま逆さにめり込んだ。
「……ふぅ」
葵は床に投げていた木刀を拾い、軽く息を吐いた。
「なん……ですって」
ハーミット卿の背後に立っていた「リンネル」は、明らかにうろたえていた。
「わたくしの人形が……あんな……あんな小娘如きに」
「もが……もが……」
「う……く……」
トリノもフュージョンも、床や壁に埋まったまま、身動きできないでいる。
「さてと」
葵はもう一度「リンネル」に木刀を向け、こう言った。
「『リンネル』さん。交渉しない?」
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目覚めた眠り猫。
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葵の木刀でこめかみを打たれて転がっていた、赤と黒のドレスを着た人形――トリノが立ち上がり、腰に佩いていた剣を抜く。
「主様のご命令により、始末いたします」
「やだ」
葵は木刀をトリノに向け、構え直す。
と、青と黒のドレス――フュージョンも立ち上がり、魔杖を構えてくる。
「重ねて申し上げます。始末いたします」
「やだってば」
葵は一言、それだけ返し、木刀を正眼に構えたまま静止する。
「アオイ、気を付けるんだ。『リンネル』氏もいる」
ハーミット卿は心配になり、葵に声をかけたが、葵は顔を向けずにこう返した。
「その人、多分攻撃してこないよ。少なくともあたしが、この子たちと戦ってる間は」
「……」
葵がトリノの初太刀をかわしたところで、ハーミット卿は続けて尋ねる。
「どうして?」
「その人ね、自分の『何か』を見せるのが、すごく嫌いなんだって」
続いて迫ってきたフュージョンの土術の槍も、葵はひらりと避ける。
「多分、自分の魔術も見せたくないだろうから、少なくともこの子たちが戦闘してる間は、じっとしててくれるよ。
もし不意打ちしようとしても」
前からトリノ、背後からフュージョンが攻撃を仕掛けてくるが、これも葵は横に跳んで避ける。
「『万が一』かわされたらさ、その魔術、見られることになるよね。
だから『リンネル』さんは、攻撃してこない。それに、それよりもこの子たちが、あたしを仕留める確率の方が高いと思ってるから、なおさら自分で手を下そうとしないよ」
「……!」
この返答に、ハーミット卿はぞくりとしたものを感じた。
(だからこの間、攻撃せずにかわしてるってことか! 攻撃をかわされる可能性を示唆して、『リンネル』が動かないよう、牽制してるんだ!
……すごいな。すごすぎるよ、僕の孫は。居場所を看破し、敵の動きを測り切る推理力・論理性だけじゃない。相手の攻撃を――僕と会話しながらだよ――ひらひらとかわして見せる、この並外れた運動神経!)
そしてさらに――ハーミット卿は驚愕させられた。
何十合もの斬撃・打突をすべてかわされたところで、トリノの動きが突然止まる。そしてもう一方のフュージョンも、杖を構えたまま静止する。
「……」
それに合わせるように、葵も木刀を右手一本で構え、ぴたりと立ち止まる。
しばらくにらみ合ったところで、トリノとフュージョンが動いた。
「……ぃやああああッ!」「食らええええッ!」
それまでに放ったことの無い、小屋全体を奮わせる怒声を発し、二人が同時に襲い掛かる。
だが――葵はなんと、剣を構え飛び込んできたトリノに向かって駆け出した。
「!?」
しかし、ハーミット卿が声を挙げる間も無く、状況は一変する。
葵はトリノの間合いに入るかと言うその直前、斜め上に跳躍したのだ。
「な……」
着地した先は、トリノの脳天――腰だめに剣を構えていたため、トリノの重心は下に下がっている。
「はっ……、ゴガッ」
葵の体重を支え切れず、トリノの頭部はそのまま、床に埋まり込んだ。
そしてトリノが突っ伏したその時には既に、葵の姿はそこには無い。フュージョンの放った火球が壁に当たり、空振りに終わるとほぼ同時に、葵は空中でくるりと一回転し、逆に相手の背後を取っていた。
「え……」
フュージョンが振り向こうとした瞬間、葵は伸びたままの彼女の腕をつかみつつ、素早く懐に入って、そのまま立ち上がる。
一本背負いの形になり、フュージョンの体が豪快に宙を舞う。
「ひっ、……グエッ」
フュージョンは壁に叩きつけられ、そのまま逆さにめり込んだ。
「……ふぅ」
葵は床に投げていた木刀を拾い、軽く息を吐いた。
「なん……ですって」
ハーミット卿の背後に立っていた「リンネル」は、明らかにうろたえていた。
「わたくしの人形が……あんな……あんな小娘如きに」
「もが……もが……」
「う……く……」
トリノもフュージョンも、床や壁に埋まったまま、身動きできないでいる。
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「『リンネル』さん。交渉しない?」
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2014.06.14 修正
2014.06.14 修正



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