黄輪雑貨本店 新館


    「白猫夢」
    白猫夢 第6部

    白猫夢・立葵抄 4

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    麒麟を巡る話、第272話。
    妖魔撃退。

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    4.
    「交渉だと!? ……コホン、交渉ですか」
     どうにかしゃなりとした声色を出して、「リンネル」が応じる。
    「あなた方とわたくしが、何を交渉すると言うのです」
    「じいちゃんを解放して、この先一生、二度と手を出さないで。
    その代わりあたしは、あなたに手を出させないから」
    「そんな内容のどこが、交渉と言うのです」
    「じゃああたしと戦う? もしかしたらあなたは初弾をかわされて、あたしにその術を見られるかも知れないよね。『もしも』って思わない?」
    「あなた如き小娘がわたくしの術を回避することなど、例え天地が引っくり返ったとしても起こり得ないことです」
     そう答えた「リンネル」はハーミット卿の前に進み、手を掲げた。
    「そんなに死にたいと言うのならば、望み通りに殺して差し上げましょう」
    「リンネル」の手中に、白木の杖が生じる。
    「……」
     短く呪文を唱え、「リンネル」は魔術を放った。
    「『ネメシスバルド』」
     次の瞬間、葵を取り囲むように、四方八方から紫色に光る魔術の槍が現れる。
    「かわせると言うのなら、かわして御覧なさい」
    「ん」
     葵がうなずいた瞬間――紫色の槍は、葵を目がけて飛んで行った。

    「で?」
     そう尋ねた葵に、「リンネル」は何も言えなかった。
    「……」
    「かわして見せたよ。この通り」
     まだ残っている紫色の槍の上に、葵はちょこんと立っていた。その体には傷どころか、服が破れた様子も無い。
    「……何かの間違いでしょう。そんなことが起こり得るはずなど、到底ございません」
    「でもこの通りだよ」
    「……虚仮にしているおつもりですか」
     ふたたび「リンネル」が呪文を唱え、魔術を放つ。
    「今度こそ……死ねえッ! 『ピアシングクロス』!」
    「ほい」
     交差する光弾を、これも事もなげにかわす。
    「な……、何故だッ!? 何故当たらない!? ……ぐっ、……」
     立て続けにかわされ、打つ手を見失ったためか、「リンネル」の動きが止まる。
    「これで交渉する気に、なってくれた?」
     すとんと床に降り立った葵が、再度そう尋ねる。
    「この交渉を呑んでくれないと、あなたにとってもっと、困ったことになると思う」
    「わたくしが、何を困ると言うのです」
    「だって……」
     葵は木刀を杖のように構え、ぼそぼそと何かを唱え出した。
    「……え」
     その状況は恐らく「リンネル」にとって、最も現実に起こってほしくなかったものであっただろう。
    「『ピアシングクロス』、……だっけ?」
     葵が放った術は紛れも無く、「リンネル」の使った術だった。

    「はっ、……あ……」
    「リンネル」のローブに、赤い点が飛び散る。
    「そ……んな……馬鹿なことが……」
    「ちなみにだけど、もういっこの方もあたし、覚えたよ。
     あなたきっと、今の時点でもう、すっごく嫌な気分になってるはずだよ。これ以上何かしたいって、きっと思ってない。
     それでもあたしと戦う?」
    「……ごふっ……く……く……クス……クスクス……」
     血を吐いてはいるが、「リンネル」は倒れもしなければ、体勢を崩してもいない。
    「……いいでしょう。今回ばかりはお前が提示した条件、呑みましょう」
    「今回だけじゃないってば」
     折れかけた「リンネル」に対し、葵はもう一度条件を確認させる。
    「もうこの先一生、じいちゃんに手を出さないでって言ったはずだよ? それが呑めないなら、あたしは無理やりにでもあなたと戦う。
     別にさ、あなたに呑めない条件じゃないでしょ? あなたの話はコントンさん……、カツミさんのお弟子さんから聞いてるもん。カツミさんが唯一、同格と認めたほどの人だって。
     そんなあなたがじいちゃん一人操るのに、そこまで犠牲を払う必要、無いと思うんだけど」
    「……」
     ローブの奥に見えた「リンネル」の顔が、怒りで再び歪みかけるが――やがてローブを深く被り直し、その顔を隠す。
    「よろしい。その条件で、引き下がるといたしましょう。
     克の名において確約いたしましょう。わたくしは今後、お前の祖父を付け狙う行為は一切、いたしません。そしてその死後においても、指一本触れることはしないと、誓いましょう」
    「良かった」
    「ただし小娘」
    「リンネル」は魔杖を葵に向け、こう告げた。
    「お前とはいずれ、決着を付けさせていただきます。
     わたくしの術を盗んだお前を、わたくしは何があろうと許しはしませんし、のうのうと生かしておくつもりもありません」
    「分かった。いいよ、それで」
    「それでは失礼いたします。
     また、いつか」
     最後にそう返し、「リンネル」と人形たちは、小屋から姿を消した。
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    あくまで葵より「リンネル」氏の方が圧倒的に実力が高いため、
    葵が無理矢理制圧を試みれば、返り討ちに遭って死ぬ危険性もありました。
    結果的に見れば成功したものの、相当なハッタリでした。

    もしかしたら、葵はこの時点で相当眠たかったかもしれません。
    「後顧の憂いを断つ<早く家に帰って寝たい」という状態だったのかも。

     

    約束は守る相手なんでしょうけど、条件を呑ませるのも制圧するのも可なら、甘くみていられてるうちなら取り逃がすこともないでしょうし、面倒ごとを嫌う性格みたいだし、制圧した方が後顧の憂いがなくてよかったのやないかなぁ
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