黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第6部

    白猫夢・立葵抄 5

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    麒麟を巡る話、第273話。
    SS、面目丸つぶれ。

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    5.
    「以上です」
     アテナから顛末を伝え聞いた秋也たち夫妻は、揃って怪訝な表情を浮かべていた。
    「『以上』って言われても……」
    「わたしが卿から伺った内容は、先程の説明ですべてです」
     そう返したアテナに、夫妻はまたも、揃って首を横に振る。
    「んなこと聞いてるんじゃないよ。あたしたちが言いたいのは、話の内容が信じられないってことだってば」
    「ああ、そう言うコトだ。
     精鋭であるはずのオレたちSSを完璧に出し抜いて、いつの間にか事件が解決してた。しかも解決したのがオレたちの娘って、……三文芝居だぜ、話が」
    「しかし卿本人からの連絡であったことは事実です。ここ、SS本部への連絡が可能であったことからも、本人であることは否定しようが無いものと思われます」
    「……パパが戻ってきたら、もう一回話を聞いてみなきゃ、気持ちが収まりそうもないね」
    「その点については同感です」

     葵からの連絡から30分後――SSが手配した軍用車に乗って、ハーミット卿と葵が帰ってきた。
    「ありがとう、皆。本当に心配をかけた」
    「……」
     柔らかい口調で感謝と謝罪の言葉をかけた卿に対し、SS隊員らは揃って、沈んだ顔をしていた。
    「確かに僕の身柄を保護してくれたのは君たちでは無く、一般人によるものだった。忸怩(じくじ)たる思いをしていることは、察するに余りある。
     とは言え今回のケースはひどく特異な状況だったし、仮に僕が今回の事件に巻き込まれていない無事な立場にあり、君たちに十分な助言をできる状態にあったとしても、これほどのスピード解決は望むべくも無かっただろう。
     そもそも本来の誘拐事件――ミシェル・ロッジ氏が起こした第一の誘拐事件においては、君たちが完璧に、間違いの一切無い、素晴らしい仕事をしていたことは、万人が認めるところだろう。異様な第二の事件が無ければ、君たちの職務は全うされ、君たちの手によって、僕は助け出されていたはずだ。
     ……それに関してだけど」
     卿は一瞬、葵の方をチラ、と見て、こう続けた。
    「第二の事件については、一切公表を控えようと考えているんだ」
    「……」
     葵は眠たそうに目をこすりながら、ぼんやり立っている。
    「何度も言ったけど、第二の事件については僕たちの常識、一般認識を大きく逸脱した超常的な事態であり、はっきり言って僕や君たちのような、一般的な人間が扱える事件では無かった。
     これを公表することは、社会不安を煽るばかりで何の効果も得られない、誰一人として得をしない、あらゆる面から考えても無意味な行為であるのは明白だ。
     だから公には第一の事件のみが発生し、それを君たちSSが見事に解決したとする。……よって」
     卿自身も気まずさを覚えつつ――こう命令した。
    「君たちには『事件を解決した』と胸を張っていてもらわないと困る。落ち込むのは今晩だけにしてほしい。
     明日の朝からは、首相誘拐事件を解決した英雄として振る舞ってくれ」

     秋也夫妻と葵、そしてハーミット卿は軍用車で、家まで送られることになった。
    「そう言えば、アオイ」
    「むにゃ」
     半分眠っていた葵が、だるそうに返事をする。
    「小屋でした話がまだ、途中だったよね」
    「……ん」
    「『テレポート』を使える人間を特定できたことまでは分かった。十分に納得行ってる。
     その先も見当は付く。恐らく『リンネル』氏の『知られることを極端に嫌う』性格と、事件性の無さを偽装すると言う都合上、人通りのほとんどない、しかし僕が歩いて家に帰って来られる程度には近い場所に連れて行ったであろうこと、……ここまでは推理できる。実際、僕が連れて行かれたのは市内の倉庫だったし、おかげですぐ帰って来られた。
     でもそこからの話を展開するにあたって、不確実性の高い点があるよね――どうして君は街の中の、数多くある倉庫や空き家の中から、あんな短時間で僕を見付けられたんだい?」
    「……ん……」
     葵は薄く目を開き、ぼそ、とこう答えて、また目を閉じてしまった。
    「あたしの、……勘」
    「勘って、おい」「ちゃんと説明しなさいって、もう」
     両親の突っ込みも空しく、葵は既に寝息を立てていた。
    「いや」
     と、ハーミット卿が口を開く。
    「彼女の言ってることは恐らく本当なんだろう。それで説明のつくことが、他にあるから。……いや、こんなのを『説明』だなんて言ってしまっていいのかどうか」
    「え?」
    「ナンクン氏や人形と戦った時の、アオイの動きは異様だったよ。まるでタイカか誰かを見ている気分だった。
     と言って、タイカ並みの実力があるだなんてことはまず、あり得ない。別の手段によって、タイカ並みの行動を執ることができたと考えるのが最も自然な帰結だ。
     恐らく彼女は本当に、『勘』で相手の攻撃を見切っていたんだ。……それ以外に説明が付けられない」
    「マジっスか」「パパがそんなこと言うなんて……」
    「いやいや、表現の問題だよ」
     ハーミット卿はそう前置きし、持論を話した。
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