黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第3部

    蒼天剣・魍魎録 5

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    晴奈の話、第144話。
    リスト活躍/仮説の裏付け。

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    5.
    「出たか……!?」
     晴奈はやぐらから身を乗り出し、悲鳴のした方角をにらみつける。
    「グワッ、グワッ」
    「わあ、あーっ」
    「寄るな、寄るなーッ!」
     人間の2倍、いや3倍はあろうかと言う巨大な鷹が、兵士たちの上を飛んでいる。
    「でかいな……! リスト、早速狙撃してくれ!」
    「う、うん」
     リストは慌てて狙撃銃を手にし、弾を装填する。
    「よ、よし。じゃ、う、撃つわよ」
    「ああ、頼む」
     だが、リストの手は震え、銃口がガクガクと揺れている。
    「……それで当たるのか?」「ま、任せてよ」
     狙いを定めようとするが、腕が震えるばかりで、一向に撃つ姿勢へ入れない。
    「……ご、ゴメン。ちょっと集中させて」
    「……」
     リストは銃を下ろし、うずくまる。見かねた晴奈が側に座り込み、リストの肩を抱きしめる。
    「え……」
    「落ち着け。よく考えろ。確かに相手はバケモノだ。あんなでかい鳥は、まともな世界にいるわけが無い、それは私もそう思う。
     だが、いくら人外といえども、一瞬でこちらまで来られるわけではないだろう? もし外してこちらに向かってきても、迎撃する時間は十分にある。そうなった場合は、私が何とかしてやる。だから気負う必要などない。お主はお主の役割を全うしろ」
    「……うん」
     リストは晴奈の腕を払い、もう一度銃を構えた。
    「大丈夫、大丈夫……」
     兵士の頭上を飛び回る鷹を、じっくりと観察する。
    「怖くない、怖くないから……」
     一呼吸し、体の震えを抑えつける。
    「……シュート!」
     引き金を引き、バスッと言う、拳銃よりも数段重たい炸裂音が響いた。

     大鷹の右翼が弾け飛び、どさりと地面に墜落する。逃げ回っていた兵士たちはすかさず武器を構え、大鷹を取り囲む。
     だが、大鷹は残った左翼を振り上げ、兵士たちを威嚇する。
    「グアッ、グアアア!」
    「う……」
     その叫び声に、兵士たちは皆怯んでいる。
    「チッ……、臆すな、お前らッ!」
     晴奈は兵士たちに向かって叫び、やぐらから飛び降りる。
    「ちょっ、セイナ!?」
    「リスト、お主は援護しろ!」
     3階分の高さからひらりと着地し、晴奈は大鷹に向かって駆け出した。
    「りゃああッ!」
     刀を抜き、大鷹に向かって「火射」を放つ。真っ赤な炎が空を裂き、大鷹の左翼を焼いた。
    「ギャアアア!?」
     ところが大鷹は、燃え上がる翼をそのまま晴奈たちに向けて振り上げる。すると燃えた羽が、晴奈や兵士たちに向かって何枚も降り注いできた。
    「お、……っと!」
     晴奈は後ろに跳び、火の粉を払う。が、他の兵士たち数名はまともに火の粉や羽を食らい、ブスブスと煙を上げる。
    「わ、あちちち!」「あつつっ!」
     羽に脂が乗っているのか、兵士たちの戦闘服に張り付いた羽は勢いよく燃え上がる。兵士たちがまごついている間に、大鷹の燃えていた羽はすべて抜け落ちてしまい、その結果大鷹に大きなダメージは与えられなかった。
    「離れろッ!」
     もう一度晴奈が接近し、今度は刀に火を灯さず斬り込む。
    「やあッ!」
    「グワッ!」
     大鷹は、今度は半分ほど残っていた右翼で晴奈の刀を止める。
    「む……。これは、面倒な」
     羽が硬すぎて、武器が通らない。かと言って火で攻めても、逆に利用されてしまう。間合いを取りながら、どうしようかと思案していると――。
    「ギャッ!?」
     やぐらの方から2発、弾丸が飛んできた。1発は脚1本をちぎり、もう1発は右翼に当たり、完全に粉砕する。続いてもう1発。これは大鷹の胴を貫いた。
    「グエエ……ッ」
     だがそれでも、大鷹は倒れない。血をこぼしながらも片羽を振り上げ、なお威嚇する。
    「しぶといな……! あれを使ってみるか。お前ら、離れていろ!」
     晴奈は周りの兵士を遠ざけ、もう一度刀に火を灯す。
    (三技一体……、焼き尽くせッ!)
     ぐるりと回転し、「火射」をばら撒く。大鷹と晴奈の間に、幾筋もの炎が立ち起こる。続いて「火閃」。これにより空気が急速に熱せられ、大鷹の体中からブスブスと黒い煙が噴き始める。
    「グエ……!?」
    「『炎剣舞』!」
     最後に晴奈が放ったのは「火刃」。周囲の熱が晴奈の刀一点に凝縮され、大鷹に触れた瞬間、解放される。
     莫大な熱が発生し、空気は一瞬にして膨張、爆発――大鷹は勢いよく燃え上がった。



    「ふむ」
     ワルラスの企みを見抜くため、大火は央南各地を「散策」していた。これまでに教化・陥落された街を回り、彼が指導していた教団員や僧兵、教化された人間、そして布教に使われた経典などをそれとなく監視していた。
     そして、総本山である黒鳥宮との、ある違いに気が付いた。
    (俺の教本が、書き換えられている)
     大火が書き記した戦闘や訓練に関する教本が、一部書き換えられていた。大まかな違いは無いのだが、妙に攻撃的な文言が書き加えられている。
     また、この街の教団員たちも無闇に殺気立ち、総本山の落ち着いた雰囲気がまるで感じられない。
    (同じ『黒』でも、黒鳥宮は夜空のそれだ。静かで落ち着いている。が、この辺りの者はタールか絵の具の、不純物が混ざり合った黒だ。無駄に重苦しく、粗雑で、気分が害される)
     中には大火にケンカを売る者さえいる――勿論、大火に瞬殺されたが――明らかに、黒炎教団本来の目的から外れた集団だった。
     そして極めつけ――教団の出先である礼拝堂や教会の奥には、大量の物資が積み上げられている。中身は食糧や資材、そして武器。
    (これを見れば、もう明らかだ。ワルラスは、布教のために央南教化を進めていない。間違いなく、侵略や権力奪取のために人集め、物集めをしている。でなければ教本を書き換え、粗暴な者や武器を集める理由が無い。
     あいつの口先や物腰では図りかねたが、こうして端を確かめれば本性が見える。本陣でいくら取り繕っても、末端を調べればボロを出すと言うことか)
     この考察が、515年のことである。この後にエルスの黒鳥宮侵入や黄海防衛戦が起こり、抗黒戦争が勃発することになる。
     もしこの戦争がなければ、ワルラスがクーデターを起こすことは必至だっただろう。
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