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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第6部

    白猫夢・離西抄 4

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    麒麟を巡る話、第279話。
    お別れ。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    4.
    「カズラ」
     葛が泣き止んだところで、葵が口を開いた。
    「なに……?」
    「最後に、一回だけ仕合しよっか」
    「え?」
     葵は葛から手を放し、まとめていた荷物の中から竹刀と道着を取り出した。
    「だめ?」
    「……ううん、やる」
     葛はぐしぐしと顔を拭き、葵の誘いに応じた。



     門下生が全員帰った後の、既に夕日も落ち、暗くなった道場を、葵と葛が訪れた。
    「防具、どうする?」
     夜間用の火術灯を設置しつつ尋ねてきた葵に、葛は首を横に振る。
    「いい。寸止めで行こ」
    「分かった」
     勿論、防具なしでの練習・試合は非常に危険な行為であり、通常は師範の秋也からも、「遊びや冗談でも絶対すんなよ」と厳しく止められている。
     しかしこの時は何故か、葛は道着だけで打ち合いたい気になっていた。
    (お姉ちゃんの顔をじっくり見られる、最後のチャンスかも知れないもん)
     まず先に、葵が道着にたすきを掛け、道場の中央に立つ。
    「ちょっと待ってね」「うん」
     その間に葛も髪をアップにまとめ、それから同じようにたすきを掛けて中央に向かう。
    「一本勝負ね」
    「分かった」
     それだけ言って、二人は構え合った。

     姉の陰に隠れがちではあるが、葛も13歳にしては、相当な剣の腕を持っている。もしも葵がいなければ、葛こそ「『蒼天剣』の生き写し」と呼ばれていたかも知れない。
     しかし――姉、葵の存在はあまりにも大き過ぎた。例えるなら、月ひとつと太陽ほどの別格、いや、揃え並べることすら無為、ナンセンスと言っていいほどの、壮絶に桁の外れた違いだったのだ。
    (勝てないのは分かってる。
     お姉ちゃんほどじゃないけど、あたしも、1分くらい後には竹刀を頭すれすれに突きつけられてるだろうなってコト、勘で分かるもん。
     ……でも、あたしはやる。勝つとか負けるとか、この仕合はそう言うコトじゃないもん)
     まず、葛が一歩、間合いを詰めた。しかし、葵は動かない。それを確認し、さらに葛がもう一歩詰める。
     それでも葛を眺めたまま微動だにしない葵に、葛はしびれを切らした。
    「……えやああああッ!」
     バン、と床を踏み鳴らし、葛は一気に間合いを詰め、上段から振りかぶった。
     だが――葛も予想できたことだったが――葵はす、と一歩退き、妹の初太刀をすれすれでかわす。
    「やっ」
     そして葛の竹刀が下を向いたところで右へ回り込み、竹刀を必要最小限であろう挙動で振り、葛の額ギリギリでぴた、と止めた。
    「……やっぱ、そうだよね」
     葛は竹刀を納め、ため息をついた。
    「お姉ちゃんとあたしじゃ、勝負なんかできない。挑めるほどあたしに、実力無いもんね。こうやって簡単にいなされるコトは、最初から分かってたよ。
     でも」
     葛は葵に向き直り、こう続けた。
    「5年後はどうか分からないよ」
    「……」
    「2年経ったら、今のお姉ちゃんと同じ15歳になる。その上もう3年も頑張ったら、もしかしたら今のお姉ちゃんより強くなれるかも知れないもん。
     だからお姉ちゃん、……こんなので勝ったと思わないでよ。この勝負の決着は、5年後に付けるからね」
    「……」
     葵も竹刀を納め、こくんとうなずいた。
    「分かった。5年後、もう一回やろ」
    「うん」
    「あたしも頑張るから」
    「じゃああたしはもっと頑張る」
    「……分かった。楽しみにしてる」
    「あたしも」
     二人は竹刀を置き、がっしりと抱きしめ合った。

     ちなみに――この時、道場主である秋也は事務処理を終え、帰る前に道場の見回りと戸締りをしていたのだが、そこでこの仕合に出くわした。
     本来ならば防具なしで打ち合う彼女たちを止め、咎めなければいけないのだが――。
    (……野暮だな、そりゃ。それにあいつらなら、滅多なコトはしないだろうし)
     秋也は二人に気付かれないよう、そっと道場から出た。
    (ま、……しっかりやれよ)



     4日後――葵は渾沌に伴われ、央中・ミッドランドに渡った。

    白猫夢・離西抄 終
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