「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第6部
白猫夢・五雛抄 1
麒麟を巡る話、第280話。
天狐の面接。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
「姉(あね)さんにゃ似てねーな。親父さんの面影は割かしあるけど」
それが天狐ゼミ塾長、克天狐が葵に向けて放った第一声だった。
「あねさん?」
「ん……、お前さんの父方のお婆ちゃんに当たる人のコトだ。その人とオレとは、色々あってな。
……で、だ。渾沌、何でコイツをオレんトコに連れてきたんだ? ココは魔術塾であって、訓練所じゃねーんだぞ」
ギロ、とにらみつけてきた天狐に、渾沌は肩をすくめて返す。
「いいじゃない。晴奈のよしみよ」
「程があるぜ。姉さん本人から頼まれたんならそりゃ、特別に引き受けもするさ。だがお前からの頼みってなると、無性に癇に障るんだよ」
「でしょうね。でも天狐ちゃん、あなたのその魔術指導の腕を見込んで、私は彼女の指導を頼みに来たのよ」
「ん?」
怪訝な表情を浮かべた天狐に、渾沌はこう続けた。
「難訓の魔術を盗んだのよ、この子」
天狐の怪訝な表情が、唖然としたものに変わる。
「……いっつもいつも思うが、何でお前、眉唾な話ばっかり持って来んだよ。来る話来る話、一々嘘臭えっつーの」
「あら、からかうことはちょくちょくあるけど、こう言う話はいつも本当だったでしょ?」
「……つっても『あいつ』の話だろ? オレ、『あいつ』に遭ったコトすら無いしなぁ」
「あら、そうなの?」
「お前もだろ?」
「まあ、そうね。本人に遭ったことは一度も無いわ」
「そう言うヤツだろ、『あいつ』は。魔術を食らう、盗む以前に、ヤツと遭遇するコト自体がまずありえねー。
そんな絶滅危惧種みてーなヤツから魔術を盗んだなんて、どう信用しろってんだ」
「……その証明は難しいわね。でも彼女がすごいって証明は、すぐにできるわよ」
「見りゃ分かるさ」
天狐はフン、と鼻を鳴らし、葵を指差した。
「今まで見た中じゃ、鈴林並に魔力持ってやがる。あと……、何つったか、昔、姉さんと戦った時にいた緑髪の、……猫、……ん?」
天狐は突然立ち上がり、葵の顔とくすんだ緑髪とを、しげしげと眺め出した。
「……あれ?」
「なに?」
「……ちょっと待てよ?
……アレが40年くらい前だよな、……で、……一緒にいたのがあの金髪エルフで、……そいつが20年くらい前にもこっち来て、……そう言やあの時、指輪してたし、あいつの娘っつってたのも緑髪の『猫』で、……んん?」
「その金髪のエルフって、もしかしてじいちゃんかな。ネロ・ハーミットって言うんだけど」
「ぶっ」
葵からその名前を聞いた途端、天狐が噴き出す。
「……すると、お前の母方のばーちゃんって、まさかその、緑髪の『猫』なのか?」
「うん。多分それ、ばーちゃん」
「……まだそっちの方が信用できるな、ケケっ」
天狐は額を抱え、ゲラゲラ笑いだした。
「ケケケケ……、なるほどなるほど、ソイツの孫かぁ。
面白えな、お前さん。とんだサラブレッドじゃねーか! 片や姉さんの血筋、片やあの緑髪の女とネロの血筋かぁ!」
「パパとママ、飛ばさないで」
「おう、悪い悪い。
ともかく……、難訓云々より、そっちの方がよっぽど興味をそそられたぜ。いいぜ、入塾を許可してやる。
後は研究テーマの設定だな。ウチは三流大学の一般教養みてーに、ぼーっと講義聞かせるよーなトコじゃねー。お前さんがやりたいコトを、まず最初に決める」
「ん」
葵は淀みなく、こう答えた。
「攻撃魔術の研究したい。どんな奴が相手でも勝てるように」
「分かった。ま、ソレこそウチの、……いや、克一門の本領だ。
親父も目を丸くするよーな、すげー魔術師にしてやんよ」
天狐からの話がひと段落し、葵が鈴林から寄宿場所などの説明を受けている間に、渾沌は密かに、天狐に尋ねていた。
「師匠のことは『親父』って呼ぶのに、お母さんはそう呼ばないの?」
「産んですぐにオレを捨てたクソ女だぜ?
あんなクズの腹から産まれたってだけで、何であんなのを母親と思わなきゃならねーんだよ。
向こうだってオレのコトは、『出来損ないのゴミ』だって思ってるぜ」
「でしょうね」
あまりに刺々しい天狐の物言いに、流石の渾沌もそう返すしかなかった。
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天狐の面接。
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「姉(あね)さんにゃ似てねーな。親父さんの面影は割かしあるけど」
それが天狐ゼミ塾長、克天狐が葵に向けて放った第一声だった。
「あねさん?」
「ん……、お前さんの父方のお婆ちゃんに当たる人のコトだ。その人とオレとは、色々あってな。
……で、だ。渾沌、何でコイツをオレんトコに連れてきたんだ? ココは魔術塾であって、訓練所じゃねーんだぞ」
ギロ、とにらみつけてきた天狐に、渾沌は肩をすくめて返す。
「いいじゃない。晴奈のよしみよ」
「程があるぜ。姉さん本人から頼まれたんならそりゃ、特別に引き受けもするさ。だがお前からの頼みってなると、無性に癇に障るんだよ」
「でしょうね。でも天狐ちゃん、あなたのその魔術指導の腕を見込んで、私は彼女の指導を頼みに来たのよ」
「ん?」
怪訝な表情を浮かべた天狐に、渾沌はこう続けた。
「難訓の魔術を盗んだのよ、この子」
天狐の怪訝な表情が、唖然としたものに変わる。
「……いっつもいつも思うが、何でお前、眉唾な話ばっかり持って来んだよ。来る話来る話、一々嘘臭えっつーの」
「あら、からかうことはちょくちょくあるけど、こう言う話はいつも本当だったでしょ?」
「……つっても『あいつ』の話だろ? オレ、『あいつ』に遭ったコトすら無いしなぁ」
「あら、そうなの?」
「お前もだろ?」
「まあ、そうね。本人に遭ったことは一度も無いわ」
「そう言うヤツだろ、『あいつ』は。魔術を食らう、盗む以前に、ヤツと遭遇するコト自体がまずありえねー。
そんな絶滅危惧種みてーなヤツから魔術を盗んだなんて、どう信用しろってんだ」
「……その証明は難しいわね。でも彼女がすごいって証明は、すぐにできるわよ」
「見りゃ分かるさ」
天狐はフン、と鼻を鳴らし、葵を指差した。
「今まで見た中じゃ、鈴林並に魔力持ってやがる。あと……、何つったか、昔、姉さんと戦った時にいた緑髪の、……猫、……ん?」
天狐は突然立ち上がり、葵の顔とくすんだ緑髪とを、しげしげと眺め出した。
「……あれ?」
「なに?」
「……ちょっと待てよ?
……アレが40年くらい前だよな、……で、……一緒にいたのがあの金髪エルフで、……そいつが20年くらい前にもこっち来て、……そう言やあの時、指輪してたし、あいつの娘っつってたのも緑髪の『猫』で、……んん?」
「その金髪のエルフって、もしかしてじいちゃんかな。ネロ・ハーミットって言うんだけど」
「ぶっ」
葵からその名前を聞いた途端、天狐が噴き出す。
「……すると、お前の母方のばーちゃんって、まさかその、緑髪の『猫』なのか?」
「うん。多分それ、ばーちゃん」
「……まだそっちの方が信用できるな、ケケっ」
天狐は額を抱え、ゲラゲラ笑いだした。
「ケケケケ……、なるほどなるほど、ソイツの孫かぁ。
面白えな、お前さん。とんだサラブレッドじゃねーか! 片や姉さんの血筋、片やあの緑髪の女とネロの血筋かぁ!」
「パパとママ、飛ばさないで」
「おう、悪い悪い。
ともかく……、難訓云々より、そっちの方がよっぽど興味をそそられたぜ。いいぜ、入塾を許可してやる。
後は研究テーマの設定だな。ウチは三流大学の一般教養みてーに、ぼーっと講義聞かせるよーなトコじゃねー。お前さんがやりたいコトを、まず最初に決める」
「ん」
葵は淀みなく、こう答えた。
「攻撃魔術の研究したい。どんな奴が相手でも勝てるように」
「分かった。ま、ソレこそウチの、……いや、克一門の本領だ。
親父も目を丸くするよーな、すげー魔術師にしてやんよ」
天狐からの話がひと段落し、葵が鈴林から寄宿場所などの説明を受けている間に、渾沌は密かに、天狐に尋ねていた。
「師匠のことは『親父』って呼ぶのに、お母さんはそう呼ばないの?」
「産んですぐにオレを捨てたクソ女だぜ?
あんなクズの腹から産まれたってだけで、何であんなのを母親と思わなきゃならねーんだよ。
向こうだってオレのコトは、『出来損ないのゴミ』だって思ってるぜ」
「でしょうね」
あまりに刺々しい天狐の物言いに、流石の渾沌もそう返すしかなかった。
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