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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第6部

    白猫夢・五雛抄 3

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    麒麟を巡る話、第282話。
    狐と狼の少年。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    3.
     葵が入寮したその晩、食堂にて。
     彼女は早速、マークが「気を許すな」と忠告していた少年、マラネロと出会った。
     葵より1歳か2歳程度年下に見える彼は、葵ににこっと屈託なく笑い、声をかけてきた。
    「あのー、今日入った方、……ですよね?」
    「うん」
     遠くでマークが目を白黒させて眺めていたが、葵は彼の正面に座る。
    「はじめまして、よろしゅう。マラネロ・アキュラ・ゴールドマンと言います。周りからはマラネロ、もしくはもっと縮めてマロと呼ばれてます」
    「あたしは葵・ハーミット。よろしくね、マロくん」
    「……んん?」
     葵の名前を聞いた途端、マロは怪訝な表情を浮かべる。
    「どこの人です?」
    「西方の、プラティノアールって国から来た」
    「……ん、んん?」
     葵の返答を受け、マロの眉間にさらにしわが寄る。
    「西方語って確か、『H』を抜いて発音するんや無かったでしたっけ」
    「うちのじーちゃんが元々、他の国の人だったから。マロくんの言う通り、向こうでは『ハーミット(Hermit)』を『エルミット』って呼ぶ人もいたよ」
    「あと、名前が何か、央南風な感じするんですけど」
    「パパが央南の人だったから」
    「……えらい変な生まれですな」
    「そう?」
    「し、失礼じゃないですか!」
     と、二人のやり取りを聞いていたマークが、夕食を乗せた盆を持ってやって来た。
    「え、失礼やった? ……そうかなぁ」
    「人の出自にあれこれケチを付けるなんて、失礼じゃなかったら何だと言うんですか!」
    「いや、そんなつもり無いんよ。変わっとるなー、くらいで」
    「……なら、……いいです。僕の思い過ごしです。すみません、お騒がせして」
     盆を持ったまま踵を返そうとしたマークを、葵が呼び止める。
    「一緒に食べないの?」
    「えっ、……あ、じゃあ、まあ、はい」
     マークは葵と、マロとを交互に見ていたが、やがて恥ずかしそうに、葵の横に座った。
    「お邪魔します」
    「どうぞ」
     が、座ってもチラチラと葵やマロを眺めるばかりで、フォークを取ろうとしない。
    「食べないの?」
    「あ、……食べます」
     葵に尋ねられ、マークはようやく食器を取った。
    「……お、美味しいですね、この鮭」
    「鱒だよ」
    「え、……あ、は、はい。鱒ですね。湖の中ですもんね、はい」
    「具合悪いの?」
    「だ、大丈夫です! ピンピンしてます!」
     淡々と尋ねる葵に対し、マークはしどろもどろに答えている。
     その様子を見ていたマロが、ぷっと噴き出した。
    「な、何がおかしいんですかっ」
    「いや、悪い悪い。いやな、べっぴんさんが近くにいるだけで、そんなにうろたえへんでもええやろ思て」
    「うろたえてなんかっ、……あっ」
     あからさまに狼狽していたマークは、袖を皿の縁に引っ掛けてしまう。
     鱒のムニエルが乗った皿が宙を舞い、葵の方に飛んで――行ったが、葵はひょい、とその皿をつかみ、その上に乗っていた鱒ごと、無事にテーブルへと着地させた。
    「はい」
    「えっ? ……あ、はい」
    「……アオイちゃん、めっちゃ反射神経ええやないですか」
    「うん。何か飛んできそうって思ったから」
    「へ?」
     唖然とするマークに、葵はこう続ける。
    「あたし、勘がいい方だから」
    「……ど、どうも」
     葵から皿を受け取り、マークは依然困惑した顔をしつつも、それ以上何も言わなくなった。
     一方で、マロは興味津々と言う目つきで、葵を眺めている。
    「なに?」
    「いや、ホンマにええ勘しとるわ、……と思てたんです。もしかしてこう言うのん、やらはります?」
     そう言ってマロは、懐からカードを取り出す。
    「うん、学校で友達と、ちょっと遊ぶくらいはやってた。でも一番好きなのは、囲碁かな」
    「イゴ?」
    「央南のボードゲーム。白と黒の石を置き合って、自分の陣地を増やすゲーム」
    「よぉ分かりませんけど……、そっちも面白そうですな。
     ま、それはまた、今度教えてもらうとして。腹ごなしと仲良くなるのんを兼ねて、カードやりません?」
     そう提案したマロに、葵は「ん」とうなずいて応じた。
    「マークくんは?」
    「……僕はいいです。ごちそうさまでした」
     マークは席を立ち、急ぎ足で去って行ってしまった。
    「ありゃ、残念。……でも2人でやるっちゅうのんもちょっと味気ないですしな。
     ……あ、そうや」
     マロもカードを置いて席を立ち、食堂に残っていたゼミ生たちに声をかける。
    「なーなー、こっち来て一緒にゲームしません?」
    「お、いいね」
    「やるやる」
     すぐに人が集まり、ゲームが始まった。
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    マークくんがマロくんを嫌うのには、もっと大きな理由があります。
    詳しくは今後の展開にて。

    勝負事を描く時にイカサマの要素を入れてしまうと、
    高度な読み合いやルールの間隙を突く、
    といったゲーム本来の醍醐味が無くなってしまう気がしますね。

    NoTitle 

    なるほど、マークくんはマロくんのイカサマにやられて小遣いを全部むしり取られたとかそういうことですね(^^;)

    うちのエドさんで使った、「王冠と碇」という伝統的ダイスゲームだったら、イカサマなんて考える必要がないので安心ですよ。

    イカサマもなにもしなくても理論上、親に8%くらいの利益がありますので(笑)
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