「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第6部
白猫夢・五雛抄 4
麒麟を巡る話、第283話。
モール・ホールデム。
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4.
マロが開いたカードゲームの場は、大いに盛り上がっていた。
今宵行われていたのは、「ウィザード・ホールデム」、もしくは「モール・ホールデム」と呼ばれているカードゲームである。この名称は言うまでも無くあのギャンブル好きの賢者、モール・リッチに由来する。
使用されるのは、1~9の数字にそれぞれ魔術の6属性(火・氷・水・雷・土・風)が1枚ずつ割り振られた計54枚に、ワイルドカードとして「天」「冥」が付加された、通称「56枚式」カード。(ただし今回は、マロが『無い方が面白いですて』と強く推したため、ワイルドカードは抜かれている)
ゲームの進行方法だが、まず、ディーラーがプレイヤー1名に対し、3枚カードを配る。それからプレイヤーに配るのとは別に、卓上に2枚、表を向けて配る。
この時点でプレイヤーは、自分のカードと卓上のカードとを組み合わせ、手役を作る。作れない、もしくは小さな手役しか作れないと判断した場合は、さらにもう1枚をディーラーに要求できる。
手役については、一番小さなものから順に、以下の通り。まず、手札5枚中2枚が同じ数字である「1ペア」。1ペアが2組できれば「2ペア」。
5枚中3枚が同じ数字であれば「3カード」。数字が途切れること無く並んでいれば「ストレート」。5枚すべてが同じ属性であれば「フラッシュ」。
1ペアと3カードが同時に揃っていれば「フルハウス」。5枚中4枚が同じ数字であれば「4カード」。ストレートとフラッシュの条件を同時に満たせば、「ストレートフラッシュ」。
そして5枚すべてが同じ数字であれば、最大役である「5カード」となる。
「こっちは4から8のストレート。どうです、そっちは?」
「……す、3カード」
「よっしゃ、ペナルティや!」
「うへぇ」
新入生、在来生が入り混じり、食堂内は非常に騒々しい。
そんな中で一際、盛り上がっているのが――本人こそ静かなものだが――葵の周囲である。
「こいつすげーなー」
「一回も負けてないもんねぇ」
「ビートなんて無謀な勝負ばっかりして、もう洗濯ばさみ付けるとこないもんなぁ」
「うっせぇ」
既に20回近くもペナルティを課された真横の先輩、ビートに比べ、葵は未だ、綺麗な顔のままである。
「……でも、あいつもすげぇよ」
そしてもう一人、まだ一つも洗濯ばさみを付けていないゼミ生がいる。
件の10代入塾生の残る1人――短耳の央南人、17歳の紺納春(こんの・はる)である。
が――春はカードをテーブルに置き、席を立とうとした。
「もう大分遅いですから、そろそろわたし、休みますね」
若干たどたどしい央中語でそう述べた春に対し、周りは納得しない。
「えー」
「まだ10時だぜ?」
「勝ち逃げするのかよぉ」
「そう言われても、ちょっと眠くなってきてしまって」
「……じゃー、最後に一勝負だけ。な?」
一番洗濯ばさみを付けているビートからそう頼まれ、春も渋々と承知した。
「分かりました。それじゃ、これが本当に最後と言うことで」
「ありがとう。そんで、さ」
ビートは皆からカードを集め、春と、葵にだけ配った。
「え?」
「ここまでどっちも負けなしだろ? みんなもさ、どっちが強いのかって思ってるぜ。そうだろ、みんな?」
「うんうん」
「そこは決着、見てみたい」
「見なきゃ今夜、眠れないよー」
「はあ……」
その場の流れに逆らえず、春はカードを取り、葵に向き直った。
「それじゃ、ハーミットさん。よろしくお願いします」
「ん」
葵も応じ、この晩最後の勝負が始まった。
卓上にカードを配ったところで、ディーラー役のビートが尋ねる。
「どうする、二人とも? 勝負するか?」
「ううん」「いえ」
二人同時に、カードを要求する。
「それじゃ、もう一枚、……と」
ビートがもう一枚卓上に配ったところで、春がにこっと笑う。
「勝負します」
「おっ」
ゼミ生たちは先制した春の方へ一斉に顔を向け、続いて対面の葵へと、揃って向き直る。
「ハーミットは?」
「あたしも行けるよ」
「……っ」
葵の返答に、春の顔色が曇る。
「じゃあ、オープンだ」
「は、……い」
先に宣言した春が、恐る恐るカードを開く。
「えっと……、フラッシュ、です。土の」
「おぉ~」
「最後の最後でいいの引いて来たなぁ」
「で、で? ハーミットの方は……?」
「はい」
葵も卓上に、ぱら、とカードを置く。
「残念。6の3カード」
「あちゃー」
「ってことは、コンノの勝ちだな!」
「おめでとー」
春がぱちぱちと拍手を受ける一方、ビートはニヤニヤしながら、自分のあごを挟んでいた洗濯ばさみを手に取り、葵の方を向く。
「さーて、と。初のペナルティだな、ハーミットぉ」
「んー」
ところが――葵は食堂の隅に目を向けている。
「ん? どうし……」
その視線を追ったところで、その場にいた全員が硬直した。
「あんたら、今何時だと思ってんだ!?」
狼獣人の、いかにも怖そうな宿主のおかみが、パジャマ姿で仁王立ちしていたからだ。
「とっとと寝なッ!」
「は、はーいっ」
ゼミ生たちは慌ててカードをまとめ、何名かは洗濯ばさみを付けたまま、バタバタと食堂を後にした。
「危なかったですね」
と、部屋に戻る途中、春が葵に声をかける。
「んー」
これに対し、葵はこう答えた。
「こうなる気がしてた」
「あら、そうなんですか?」
「大分遅かったし」
「クス、そうですね」
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モール・ホールデム。
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4.
マロが開いたカードゲームの場は、大いに盛り上がっていた。
今宵行われていたのは、「ウィザード・ホールデム」、もしくは「モール・ホールデム」と呼ばれているカードゲームである。この名称は言うまでも無くあのギャンブル好きの賢者、モール・リッチに由来する。
使用されるのは、1~9の数字にそれぞれ魔術の6属性(火・氷・水・雷・土・風)が1枚ずつ割り振られた計54枚に、ワイルドカードとして「天」「冥」が付加された、通称「56枚式」カード。(ただし今回は、マロが『無い方が面白いですて』と強く推したため、ワイルドカードは抜かれている)
ゲームの進行方法だが、まず、ディーラーがプレイヤー1名に対し、3枚カードを配る。それからプレイヤーに配るのとは別に、卓上に2枚、表を向けて配る。
この時点でプレイヤーは、自分のカードと卓上のカードとを組み合わせ、手役を作る。作れない、もしくは小さな手役しか作れないと判断した場合は、さらにもう1枚をディーラーに要求できる。
手役については、一番小さなものから順に、以下の通り。まず、手札5枚中2枚が同じ数字である「1ペア」。1ペアが2組できれば「2ペア」。
5枚中3枚が同じ数字であれば「3カード」。数字が途切れること無く並んでいれば「ストレート」。5枚すべてが同じ属性であれば「フラッシュ」。
1ペアと3カードが同時に揃っていれば「フルハウス」。5枚中4枚が同じ数字であれば「4カード」。ストレートとフラッシュの条件を同時に満たせば、「ストレートフラッシュ」。
そして5枚すべてが同じ数字であれば、最大役である「5カード」となる。
「こっちは4から8のストレート。どうです、そっちは?」
「……す、3カード」
「よっしゃ、ペナルティや!」
「うへぇ」
新入生、在来生が入り混じり、食堂内は非常に騒々しい。
そんな中で一際、盛り上がっているのが――本人こそ静かなものだが――葵の周囲である。
「こいつすげーなー」
「一回も負けてないもんねぇ」
「ビートなんて無謀な勝負ばっかりして、もう洗濯ばさみ付けるとこないもんなぁ」
「うっせぇ」
既に20回近くもペナルティを課された真横の先輩、ビートに比べ、葵は未だ、綺麗な顔のままである。
「……でも、あいつもすげぇよ」
そしてもう一人、まだ一つも洗濯ばさみを付けていないゼミ生がいる。
件の10代入塾生の残る1人――短耳の央南人、17歳の紺納春(こんの・はる)である。
が――春はカードをテーブルに置き、席を立とうとした。
「もう大分遅いですから、そろそろわたし、休みますね」
若干たどたどしい央中語でそう述べた春に対し、周りは納得しない。
「えー」
「まだ10時だぜ?」
「勝ち逃げするのかよぉ」
「そう言われても、ちょっと眠くなってきてしまって」
「……じゃー、最後に一勝負だけ。な?」
一番洗濯ばさみを付けているビートからそう頼まれ、春も渋々と承知した。
「分かりました。それじゃ、これが本当に最後と言うことで」
「ありがとう。そんで、さ」
ビートは皆からカードを集め、春と、葵にだけ配った。
「え?」
「ここまでどっちも負けなしだろ? みんなもさ、どっちが強いのかって思ってるぜ。そうだろ、みんな?」
「うんうん」
「そこは決着、見てみたい」
「見なきゃ今夜、眠れないよー」
「はあ……」
その場の流れに逆らえず、春はカードを取り、葵に向き直った。
「それじゃ、ハーミットさん。よろしくお願いします」
「ん」
葵も応じ、この晩最後の勝負が始まった。
卓上にカードを配ったところで、ディーラー役のビートが尋ねる。
「どうする、二人とも? 勝負するか?」
「ううん」「いえ」
二人同時に、カードを要求する。
「それじゃ、もう一枚、……と」
ビートがもう一枚卓上に配ったところで、春がにこっと笑う。
「勝負します」
「おっ」
ゼミ生たちは先制した春の方へ一斉に顔を向け、続いて対面の葵へと、揃って向き直る。
「ハーミットは?」
「あたしも行けるよ」
「……っ」
葵の返答に、春の顔色が曇る。
「じゃあ、オープンだ」
「は、……い」
先に宣言した春が、恐る恐るカードを開く。
「えっと……、フラッシュ、です。土の」
「おぉ~」
「最後の最後でいいの引いて来たなぁ」
「で、で? ハーミットの方は……?」
「はい」
葵も卓上に、ぱら、とカードを置く。
「残念。6の3カード」
「あちゃー」
「ってことは、コンノの勝ちだな!」
「おめでとー」
春がぱちぱちと拍手を受ける一方、ビートはニヤニヤしながら、自分のあごを挟んでいた洗濯ばさみを手に取り、葵の方を向く。
「さーて、と。初のペナルティだな、ハーミットぉ」
「んー」
ところが――葵は食堂の隅に目を向けている。
「ん? どうし……」
その視線を追ったところで、その場にいた全員が硬直した。
「あんたら、今何時だと思ってんだ!?」
狼獣人の、いかにも怖そうな宿主のおかみが、パジャマ姿で仁王立ちしていたからだ。
「とっとと寝なッ!」
「は、はーいっ」
ゼミ生たちは慌ててカードをまとめ、何名かは洗濯ばさみを付けたまま、バタバタと食堂を後にした。
「危なかったですね」
と、部屋に戻る途中、春が葵に声をかける。
「んー」
これに対し、葵はこう答えた。
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「あら、そうなんですか?」
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双月千年世界 2;火紅狐

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双月千年世界 1;蒼天剣

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もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

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未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

~ Comment ~
前に仲間うちでテキサスホールデムを遊んでいたとき、負けていた隣プレイヤーが、やけになったのか、ジョジョみたいに配られたカードを見もせずに最初のベットで「オールイン」、有り金全部賭ける、という暴挙に出た。
かちんときたわたしは、手にエースがあったことから、ハイカード勝負か、場にエースが出たら勝てる、と踏み、こちらもオールイン。他のプレイヤーは面白いと思ったのか余計なリスクを避けようと思ったのか、みんなフォールド。
で、最後のカードが配られてオープンすると。
はい、「見もせずにオールイン」した相手に負けました(^_^;)
現金賭けてなくてよかった(^_^;)
かちんときたわたしは、手にエースがあったことから、ハイカード勝負か、場にエースが出たら勝てる、と踏み、こちらもオールイン。他のプレイヤーは面白いと思ったのか余計なリスクを避けようと思ったのか、みんなフォールド。
で、最後のカードが配られてオープンすると。
はい、「見もせずにオールイン」した相手に負けました(^_^;)
現金賭けてなくてよかった(^_^;)
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魂賭けてたらアウトでしたね。