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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第6部

    白猫夢・五雛抄 5

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    麒麟を巡る話、第284話。
    克大火の六人弟子。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    5.
     葵が入寮してから2日が経ち、563年度上半期ゼミ生の募集も、この日に最終日を迎えた。
    「今期の入塾生は、……9名、と。平年よりちょっと少な目だな」
    「だねっ」
     名簿を付けながら、天狐と鈴林は今期生について感想を交わす。
    「数は少ないが、内容はかなり珍しいよな。何たって、9名中4名が10代だからな」
    「うんうんっ。前期も前々期もその前も、20歳以上ばっかりだったのにねっ」
    「こりゃ、予兆ってヤツだな」
     天狐の言葉に、鈴林は首を傾げる。
    「予兆ってっ?」
    「目を引くようなヤツはここ数期、あんまり現れなかった。ところがその反動みてーに、今期はドッとやって来た。
     こりゃ近いうち、何かデカいコトが起こるぜ」
    「ふうん……?」
     きょとんとしている鈴林を見て、天狐はケラケラと笑う。
    「つっても今日、明日の話じゃねーさ。5年か10年か、それかもうちょいかかるくらい、……ってところだな」
    「ぼんやりだねっ」
    「分析はオレの得意分野じゃねーからな。
     そーゆーのは、虹龍の兄(あに)さんの仕事だし」
    「こう……りゅう?」
     初めて耳にするその名前に、鈴林はまたもきょとんとした。
    「ん……、言ってなかったっけか?」
    「克一門の人なのっ?」
    「ああ。克虹龍(こうりゅう)、親父の四番弟子さ。
     元はマコトさん……、親父の親友の助手だったんだが、色々見どころがあるってんで、弟子になったそうだ」
    「……そう言う話、もっとしてほしいなっ」
     鈴林は天狐の側へ寄り、膝立ちになってこう続ける。
    「アタシ、克一門って名乗ってるけどっ、姉さんより上の兄弟子さんに会ったコト、一度もないもんっ。
     お師匠とまともに話したのだって、創ってもらった時だけだし。コッチに寄っても、いっつも姉さんと話してばっかりだしっ」
    「……そうだったな。いくらオレが教えたって、そんなんじゃ堂々と、『八番弟子』って言えないよな」
    「うん」
    「今度、親父に頼んでみるか。お前にも弟子らしく、色々教えてやってくれって」
    「うん、お願いだよ、姉さんっ。
     ……て、ソレも重要だけど、アタシが聞きたいのは……」
    「あ、そうだった。兄さん方の話だったっけか。
     ちょっと待ってな」
     そう言うなり、天狐は手をパン、と合わせ、離す。すると両手の間に、紫と金とに光る金属板が現れた。
    「コレ、何っ?」
    「『黄金の目録』ってヤツさ。簡単に言えば、超絶大容量の百科事典みたいなもんだ。ちなみに親父も持ってるが、造ったのはオレだ。
     そう……、克一門は一人一人、得意分野を持っててな。オレはモノを造らせたら、他の弟子の誰よりもうまかった。親父の刀を打ったコトもあるし、やろうと思えば鈴林、お前の妹だっていっぱい創れるんだぜ?」
    「いいよ、そんなのっ。もしも2人で手が足りなくなった時は、創ったらいいと思うけど」
    「ま、そん時はそん時だな。……っと、いけね。まーた話が逸れちまった。
     さっき話した虹龍の兄さんは、情報収集と分析を得意としてた。兄さんにかかりゃ、世界の裏側で今まさにクシャミしたヤツの名前や職業、年齢、趣味やら持病やらまで、何でも調べ上げちまえるんだ」
    「すごいねっ。じゃ、一番、……は飛ばして、二番弟子さんはっ?」
    「克窮奇(きゅうき)、剣術の達人だった。純粋に剣術の腕だけで言えば、親父をはるかに凌ぐ。得意技は、……ケケケ」
    「どしたのっ?」
    「いや、思い出し笑いさ。
     そう、その得意技と来たら! 台所に食材を並べて、剣で全部叩っ斬って鍋にブチ込んで、ものの1分で豚汁作っちまうなんて言う、……今思い出しても笑っちまう技だったな。
     で、十人前は作ったはずのその豚汁を、半分以上ぺろっと平らげちまうのが三番弟子、克饕餮(とうてつ)の兄さんだった。よく皆から怒られてたぜ、『オレたちの食べる分が無くなっちまったぞ』ってな。
     でもその分、体はすげーでかくて怪力自慢。あれやこれやの戦いの時は、窮奇の兄さんと二枚看板で活躍してたんだ。……グス」
     楽しそうに話していた天狐の目から突然、ぽたぽたと涙がこぼれる。
    「姉さんっ?」
    「悪り、ちょっと切なくなっちまった。オレも案外歳取ってっからな、こーゆー話すると結構、来ちまうんだ。
     ……コホン。虹龍の兄さんはどうだか分からねーが、少なくとも窮奇の兄さんは間違いなく死んでる。あと親父から聞いた話じゃ、饕餮の兄さんと麒麟の姉さんも既に、この世にゃいないらしい。
     色々……、あったからな」
    「そっか……」
    「で、この写真が皆で集まった時のヤツだ」
     天狐は袖口で顔を拭きながら、「黄金の目録」に浮かび上がった画像を見せる。
    「真ん中にいるのが親父だ。ま、今と全然変わんねーな。隣が、マコトさんと奥さん。反対側のコイツが、オレだ。まだ11歳だか12歳くらいの時だったかな。
     で、後ろにいるのが左から、窮奇の兄さん、饕餮の兄さん、虹龍の兄さん、そして麒麟の姉さんだ」
    「へぇ……。あれっ?」
     と、鈴林は写真の中の天狐の横に立っている、当時の彼女と同い年くらいの少年を見付けた。
    「この子はっ?」
    「ん? ああ、こいつは……」
     天狐が説明しかけたその時――玄関をノックする音が聞こえてきた。
    「あっ、はーい」
     鈴林が応え、玄関へと向かう。
     その間に天狐は「目録」を収め、ふう、とため息をついた。
    「……鳳凰(ほうおう)、か。アイツ、生きてんのかなぁ」
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