「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第6部
白猫夢・五雛抄 7
麒麟を巡る話、第286話。
新入生歓迎会。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
7.
フィオへの面接を最後に、562年上半期のゼミ生募集は終了時刻を迎えた。
それと同時に、ゼミ生たちの寮「エルガ亭」では、今期入塾生の歓迎会を開く準備が整えられていた。
「あの、わたしも何かお手伝いを……」
申し出た春に、先輩たちは「いやいや」とやんわり首を振る。
「新入生はじっとしてな」
「そうそう、ゲストなんだから」
「いいんですか?」
「勿論さ。来期になったら、一緒に手伝ってくれればいいから」
「あ……、はい。それじゃ」
言われるまま、春は席に着く。
「よー、ハルちゃん」
先に席に着いていたマロが、にへらとした顔であいさつしてくる。
「こんばんは、ゴールドマンさん」
「あ、マロでええですよ。俺、年下ですし」
「え、……あ、うん」
マロの態度に何となくわだかまったものを感じつつも、春はそれに応じる。
「じゃあ、マロくん」
「どもー」
と、その様子を横目でにらんでいたマークが、苦々しげに口を開いた。
「相変わらず失礼な人ですね」
「ん? 何かしたっけ……?」
「年上の方に対して『ちゃん』付けだなんて、どこからどう見ても失礼じゃないですか!」
「あ、いえ、気にしてませんから」
春がやんわりと諭したが、揚げ足を取る形で、マークはとげとげしく続ける。
「気にしてないだなんて! つまり気にかかったことがあったけれど、不問にすると言うことでしょう!? やっぱり失礼だと……」「いえ、そんな、本当に違うんですっ」
春が止めようとするが、マークに応じる気配はない。
「いいえ! こう言うことは一度、きっちりと……」「こら」
そこに、葵がやって来る。
「それ以上騒がないの。ハルさん、困ってるよ」
「えっ」
「きみ、思ったことを片っ端から口に出すタイプでしょ」
「まあ、はい」
「全部言ってったら、うるさすぎるよ。もうちょっと静かにしよう?」
「……はい」
「むくれない」
「……ええ」
まるで姉が弟を諭すような会話に、またマロが口を挟もうとする。
「おーおー、ホンマにマークはアオイちゃんに……」「マロくん」「ん」
こちらも、葵がたしなめた。
「きみも余計なこと言い過ぎ。マークくんの言う通り、ちょっと失礼なとこ多いよ」
「……ん、……ですかね」
「二人とも反省」
そう言って、葵も着席する。
しばらく沈黙が流れたが、やがてマロの方から折れた。
「まあ……、ちょっと調子乗ってたかも知れません。すんません、ハルさん、アオイさん」
これを受けて、マークも頭を下げる。
「僕も細かいことを言い過ぎたみたいです。お騒がせしました」
「ん、よし」
二人の様子を見て、葵は薄く、しかし優しげな笑みを浮かべた。
と――固まっていた4人のところに、フィオもやって来た。
「はじめまして」
「ん?」「誰?」
たった1時間前に同級生になった彼を見て、4人とも怪訝な顔を並べた。
「今日、562年上半期のゼミ生になった、フィオリーノ・ギアトです。フィオと呼んでください」
「あ、そうなんだ。よろしくね」
葵がにこっと笑い、会釈を返した。
「……」
ところが葵と目が合った途端、フィオの顔色が目に見えて悪くなった。
「えっ……? どうしたの、フィオくん?」
いつも飄々とした態度を崩さない葵も、この時は流石にうろたえて見えた。
「あ、……いえ、今日、こっちに着いたばっかりなので、ちょっと疲れちゃったみたいです。ごめんなさい、ぼうっとしちゃいました。
よろしくお願いします、……アオイ、さん」
「え?」
そしてもう一度、葵がわずかに驚いた様子を見せる。
「あたし、きみとどこかで会ったっけ?」
「え、……あ、……ええと」
葵に問われ、フィオはいかにもしまったと言いたげな顔で、口をつぐんでしまった。
「初対面だよね? 見た覚え、無いし。なんであたしの名前、知ってるの?」
「いや、えっと、その……」
と、ここでゼミの先輩たちが5人を呼ぶ。
「準備できたよー」
「あ、はーい」
「今行きまーす」
春たち3人が席を立つ。
「あ、ぼ、僕たちも行きましょ! ねっ!」
「う……ん」
結局、何故フィオが初対面のはずの葵を知っていたのか――うやむやになったまま、歓迎会が始まった。
今はまだ、一見無垢に見えるこの五人の鳳雛たちの中に、後に世界的な騒乱の主役となる者がいたとは――天狐にも、鈴林にも、そしてゼミの先輩たちも。
その場の誰にも、予想すらできるはずもなかった。
白猫夢・五雛抄 終
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フィオへの面接を最後に、562年上半期のゼミ生募集は終了時刻を迎えた。
それと同時に、ゼミ生たちの寮「エルガ亭」では、今期入塾生の歓迎会を開く準備が整えられていた。
「あの、わたしも何かお手伝いを……」
申し出た春に、先輩たちは「いやいや」とやんわり首を振る。
「新入生はじっとしてな」
「そうそう、ゲストなんだから」
「いいんですか?」
「勿論さ。来期になったら、一緒に手伝ってくれればいいから」
「あ……、はい。それじゃ」
言われるまま、春は席に着く。
「よー、ハルちゃん」
先に席に着いていたマロが、にへらとした顔であいさつしてくる。
「こんばんは、ゴールドマンさん」
「あ、マロでええですよ。俺、年下ですし」
「え、……あ、うん」
マロの態度に何となくわだかまったものを感じつつも、春はそれに応じる。
「じゃあ、マロくん」
「どもー」
と、その様子を横目でにらんでいたマークが、苦々しげに口を開いた。
「相変わらず失礼な人ですね」
「ん? 何かしたっけ……?」
「年上の方に対して『ちゃん』付けだなんて、どこからどう見ても失礼じゃないですか!」
「あ、いえ、気にしてませんから」
春がやんわりと諭したが、揚げ足を取る形で、マークはとげとげしく続ける。
「気にしてないだなんて! つまり気にかかったことがあったけれど、不問にすると言うことでしょう!? やっぱり失礼だと……」「いえ、そんな、本当に違うんですっ」
春が止めようとするが、マークに応じる気配はない。
「いいえ! こう言うことは一度、きっちりと……」「こら」
そこに、葵がやって来る。
「それ以上騒がないの。ハルさん、困ってるよ」
「えっ」
「きみ、思ったことを片っ端から口に出すタイプでしょ」
「まあ、はい」
「全部言ってったら、うるさすぎるよ。もうちょっと静かにしよう?」
「……はい」
「むくれない」
「……ええ」
まるで姉が弟を諭すような会話に、またマロが口を挟もうとする。
「おーおー、ホンマにマークはアオイちゃんに……」「マロくん」「ん」
こちらも、葵がたしなめた。
「きみも余計なこと言い過ぎ。マークくんの言う通り、ちょっと失礼なとこ多いよ」
「……ん、……ですかね」
「二人とも反省」
そう言って、葵も着席する。
しばらく沈黙が流れたが、やがてマロの方から折れた。
「まあ……、ちょっと調子乗ってたかも知れません。すんません、ハルさん、アオイさん」
これを受けて、マークも頭を下げる。
「僕も細かいことを言い過ぎたみたいです。お騒がせしました」
「ん、よし」
二人の様子を見て、葵は薄く、しかし優しげな笑みを浮かべた。
と――固まっていた4人のところに、フィオもやって来た。
「はじめまして」
「ん?」「誰?」
たった1時間前に同級生になった彼を見て、4人とも怪訝な顔を並べた。
「今日、562年上半期のゼミ生になった、フィオリーノ・ギアトです。フィオと呼んでください」
「あ、そうなんだ。よろしくね」
葵がにこっと笑い、会釈を返した。
「……」
ところが葵と目が合った途端、フィオの顔色が目に見えて悪くなった。
「えっ……? どうしたの、フィオくん?」
いつも飄々とした態度を崩さない葵も、この時は流石にうろたえて見えた。
「あ、……いえ、今日、こっちに着いたばっかりなので、ちょっと疲れちゃったみたいです。ごめんなさい、ぼうっとしちゃいました。
よろしくお願いします、……アオイ、さん」
「え?」
そしてもう一度、葵がわずかに驚いた様子を見せる。
「あたし、きみとどこかで会ったっけ?」
「え、……あ、……ええと」
葵に問われ、フィオはいかにもしまったと言いたげな顔で、口をつぐんでしまった。
「初対面だよね? 見た覚え、無いし。なんであたしの名前、知ってるの?」
「いや、えっと、その……」
と、ここでゼミの先輩たちが5人を呼ぶ。
「準備できたよー」
「あ、はーい」
「今行きまーす」
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「あ、ぼ、僕たちも行きましょ! ねっ!」
「う……ん」
結局、何故フィオが初対面のはずの葵を知っていたのか――うやむやになったまま、歓迎会が始まった。
今はまだ、一見無垢に見えるこの五人の鳳雛たちの中に、後に世界的な騒乱の主役となる者がいたとは――天狐にも、鈴林にも、そしてゼミの先輩たちも。
その場の誰にも、予想すらできるはずもなかった。
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