「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第6部
白猫夢・狙狐抄 1
麒麟を巡る話、第291話。
放蕩学生。
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1.
天狐の叱責から1ヶ月が経った、双月暦562年3月。
一応、ハーミット派もブロッツォ派も主立って対立する様子は見せてはいなかったが、食堂での席配置や出る講義など、間にはくっきりと溝が見えていた。
しかしどこにおいても、組織や縄張り意識を軽んじ、どちら側にも属したがらない者はいる。
「なぁなぁ、ちょっとええです?」
今回のそれは、マロであった。彼は対立が生じ、諍いが起こる前から、両派の間を行ったり来たりしていた。
その主な理由は、男にとっては単純明快、かつ、まだ10代の少年としては若干、尚早な理由――女目当てである。
「なに……?」
10代生は基本的にハーミット派と見られているため、マロに声をかけられたブロッツォ派の女性陣4人は疎ましげな態度を執るか、もしくは戸惑っていた。
「ちょっとこの辺り、教えてほしいなー思いまして」
「ハーミットさんにでも聞けば?」
「あ、いやいや、あの子結構あっちこっち声かけられとって、俺、なかなか声かけられへんもんで。
それに前に同じテーマで講義あった時も何回か皆さんお見かけしてたんで、ひょっとしたらこの辺詳しいんちゃうかなーって。
な、ええですやん? 同じ講義受けとるよしみってことで」
しつこく食い下がるマロに、4人は渋々応じることにした。
「……で、これがこうなって、……こう言うこと。分かる?」
「はい、はい。もうバッチリですわ、ありがとさん。
あ、そうそう。お礼言うたらアレなんですけどもな、良かったらこの後、ご飯とかどうでしょ? あ、勿論俺が払いますんで」
「……」
あまりにも馴れ馴れしく、かつ、自分たちの派閥の外の人間であるため、彼女らはあまりいい顔をしなかったが――学費と下宿代が免除されているとは言え、学生の身分では何かと物入りであるのは確かである。
「どうする?」
「まあ、ご飯くらいなら」
「うーん」
「いいんじゃないかな……?」
相談の末、彼女たちは結局、マロにご馳走になることにした。
この機を十分に生かそうと、マロは連れて行ったレストラン先で、熱心に彼女たちに取り入っていた。
「みなさん、もうお酒呑めますやんね?」
「まあ、呑めるけど」
「でも勉強あるし……」
「いやいや、もう今日は講義無いですし、一日くらい勉強会とかそう言うの抜きでええですやん。ホンマに俺、何でもおごりますし」
「……じゃあ、これ。この一番高い『チャット・ル・エジテ』って言うワイン。いいの?」
「はいはいー」
御曹司であるマロにとっては、一食に1万や2万エルかけたところで、別に痛くもかゆくもない。
女性陣も、最初は不安半分、苛立ち半分でおずおずと注文していたが、本当にマロが何でも請け負うため、酒の勢いも手伝って、次第に調子に乗り始めた。
「次ぃ、この『チークガーデン産の牛ロースステーキ』ってやつぅ」
「はいはいー」
「あたしはぁ、『セイコウ産クルマエビのソテー』食べたーい」
「はいよー」
「もう一本ワインちょうだぁい」
「はい喜んでー」
店側が不安になるくらい散々に飲み食いし、会計はなんと3万6千280エル、寮の学食約1500食分にも上ったが、マロは「ほなこれでー」と小切手を切って渡した。
店員は一瞬、とんでもない客と思い、唖然としかけたが――支払人に大富豪、「ゴールドマン」の名が書かれているのを見て、一転、「ありがとうございました」と顔をほころばせた。
この一件がうわさとなり、マロは両派を問わず人気者となった。
いや、人気者と言うよりも、「おだてて調子に乗らせれば代わりに金を払ってくれる奴」として扱われていた。
と言って、マロ自身も「ここでは自分に金以上の取り柄は無いし、これで慕われるんであれば」と割り切っている。
ある事件が発生するまで、マロは葵やルシオ以上に引っ張りだこになっていた。
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放蕩学生。
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天狐の叱責から1ヶ月が経った、双月暦562年3月。
一応、ハーミット派もブロッツォ派も主立って対立する様子は見せてはいなかったが、食堂での席配置や出る講義など、間にはくっきりと溝が見えていた。
しかしどこにおいても、組織や縄張り意識を軽んじ、どちら側にも属したがらない者はいる。
「なぁなぁ、ちょっとええです?」
今回のそれは、マロであった。彼は対立が生じ、諍いが起こる前から、両派の間を行ったり来たりしていた。
その主な理由は、男にとっては単純明快、かつ、まだ10代の少年としては若干、尚早な理由――女目当てである。
「なに……?」
10代生は基本的にハーミット派と見られているため、マロに声をかけられたブロッツォ派の女性陣4人は疎ましげな態度を執るか、もしくは戸惑っていた。
「ちょっとこの辺り、教えてほしいなー思いまして」
「ハーミットさんにでも聞けば?」
「あ、いやいや、あの子結構あっちこっち声かけられとって、俺、なかなか声かけられへんもんで。
それに前に同じテーマで講義あった時も何回か皆さんお見かけしてたんで、ひょっとしたらこの辺詳しいんちゃうかなーって。
な、ええですやん? 同じ講義受けとるよしみってことで」
しつこく食い下がるマロに、4人は渋々応じることにした。
「……で、これがこうなって、……こう言うこと。分かる?」
「はい、はい。もうバッチリですわ、ありがとさん。
あ、そうそう。お礼言うたらアレなんですけどもな、良かったらこの後、ご飯とかどうでしょ? あ、勿論俺が払いますんで」
「……」
あまりにも馴れ馴れしく、かつ、自分たちの派閥の外の人間であるため、彼女らはあまりいい顔をしなかったが――学費と下宿代が免除されているとは言え、学生の身分では何かと物入りであるのは確かである。
「どうする?」
「まあ、ご飯くらいなら」
「うーん」
「いいんじゃないかな……?」
相談の末、彼女たちは結局、マロにご馳走になることにした。
この機を十分に生かそうと、マロは連れて行ったレストラン先で、熱心に彼女たちに取り入っていた。
「みなさん、もうお酒呑めますやんね?」
「まあ、呑めるけど」
「でも勉強あるし……」
「いやいや、もう今日は講義無いですし、一日くらい勉強会とかそう言うの抜きでええですやん。ホンマに俺、何でもおごりますし」
「……じゃあ、これ。この一番高い『チャット・ル・エジテ』って言うワイン。いいの?」
「はいはいー」
御曹司であるマロにとっては、一食に1万や2万エルかけたところで、別に痛くもかゆくもない。
女性陣も、最初は不安半分、苛立ち半分でおずおずと注文していたが、本当にマロが何でも請け負うため、酒の勢いも手伝って、次第に調子に乗り始めた。
「次ぃ、この『チークガーデン産の牛ロースステーキ』ってやつぅ」
「はいはいー」
「あたしはぁ、『セイコウ産クルマエビのソテー』食べたーい」
「はいよー」
「もう一本ワインちょうだぁい」
「はい喜んでー」
店側が不安になるくらい散々に飲み食いし、会計はなんと3万6千280エル、寮の学食約1500食分にも上ったが、マロは「ほなこれでー」と小切手を切って渡した。
店員は一瞬、とんでもない客と思い、唖然としかけたが――支払人に大富豪、「ゴールドマン」の名が書かれているのを見て、一転、「ありがとうございました」と顔をほころばせた。
この一件がうわさとなり、マロは両派を問わず人気者となった。
いや、人気者と言うよりも、「おだてて調子に乗らせれば代わりに金を払ってくれる奴」として扱われていた。
と言って、マロ自身も「ここでは自分に金以上の取り柄は無いし、これで慕われるんであれば」と割り切っている。
ある事件が発生するまで、マロは葵やルシオ以上に引っ張りだこになっていた。
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