「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第6部
白猫夢・狙狐抄 3
麒麟を巡る話、第293話。
度を超した嫌がらせ。
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3.
天狐からの叱責などまるで気にしていない様子で、マロはこの夜も派閥問わず、ゼミ生を伴ってラウンジへ出かける。
「今日はどないしましょ?」
「やっぱ今日もカードかなぁ。昨夜は大負けしたけど、今日は行けそうな気がする」
「じゃ、あたしはルーレットかなぁ」
「はい、はい、じゃんじゃんやりましょ、やりましょ!」
マロは上機嫌な様子でくるりと振り返って手を挙げ、皆を誘導しようとした。
と――立ち止まったその瞬間、マロの一歩先をヒュン、と横切るものがあった。
「……へ」
飛んで行った先を見ると、そこにあった壁に、穴が開いている。
「……え? ちょ、え?」
何が起こったのか分からず、マロは後ずさる。
するとどこからかパン、と言う短い破裂音が響くと共に、また壁に穴が開く。
「……ちょ、ちょ、ちょおっ!?」
いきなり2発も銃撃を受け、全員が悲鳴を上げる。
「うっ、うわっ、うわーっ!?」
「なに、なに、何なの!?」
ゼミ生たちは慌てて、その場から逃げ出す。
マロも同様に逃げ出そうとしたが、腰が抜けてしまったらしい。
「ま、待って、待ってぇぇ~!」
ずるずると足を引きずりながら、マロはほとんど腹ばいになって逃げた。
結局この日は遊びに行くことなど到底できず、全員寮へと逃げ帰った。
その後も彼が遊びに以降とする度、銃撃や爆竹、鉢、その他もろもろをあちこちから投げ付けられ、店に入るどころではなくなった。
それどころか――。
「あのー」
「う、……や、やあ、マロ」
つい先週まで、一緒にカードゲームにはまっていたゼミ生に声をかけた途端、引きつった笑いを浮かべられ、マロがほとんど何も言っていないのに、ベラベラとしゃべり出した。
「ま、またラウンジかな? いや、行きたいよね、行きたいなって言うのは山々なんだけど、でも、ほら、僕たち学生じゃないか、ね? あんまり遊び回ってりゃ、ほら、期末も心配だし、レポートも疎かになっちゃうし、テンコちゃんに怒られちゃうし。まあ、今抱えてるレポートがまとまったらまた遊ぼう、ね?」
「あ、いえ、そうやなくて」
「じゃっ!」
そそくさと立ち去られ、マロは硬直したまま、ぼそっとつぶやいた。
「……シャツの裾出てます、って言おうとしただけなんやけど……」
と――半ば呆然とした様子の彼を、背後からせせら笑う者がいる。
(うふ、ふふふっ……! どうだ、参ったか! まだまだこれからだぞ、僕の復讐は……!)
マロへの執拗な「嫌がらせ」は、これだけに留まらなかった。
「ん? くっ、ぬっ、……がっ」
自分の部屋に戻ろうとし、ドアノブを回そうとするが、びくともしない。と、彼の様子に気付いた先輩が、声をかける。
「どうした?」
「なん、かっ、……えらい固うなってて、……回らへんっ」
「ちょっと見せてみろ。……ああ」
ドアノブを確かめ、納得したような、一方で呆れたような顔をした先輩に、マロが尋ねる。
「ハァ、ハァ……、どないなってるんです?」
「溶接されてる」
「……は?」
「向こう側からドアノブが溶接されてて、カッチカチになってる」
「な、……何でですねん」
「高威力の火術かなんかを使われたんだろう。
多分、『ファイアランス』? いや、『テルミット』かなぁ、こんなガチガチにするとなると」
「いや、そうやなくて、何でこんなこと……」
「さあ?」
ともかくこのままではどうしようもないため、エルガ亭のおかみに事情を説明し、マロがドア代を弁償することで納得してもらった上で、彼女立ち合いの下、ドアを破って中に入ると――。
「……内装も弁償してもらうよ」
ドアノブを溶接した犯人は、どうやら部屋の中で火の術を放っていたらしい。
部屋の中は煤だらけになっており、あちこちから焦げた臭いが立ち上っていた。
「何でですねん、僕が被害遭うてんのに……」
「この寮はあたしのだ。じゃあ被害者はあたしじゃないか。その原因は部屋を借りたあんたにある。
反論あるのかい?」
「……おいくらです?」
「そうだねぇ、……ざっと見て25万エルってところだね」
「ちょっ」
見積もりを聞き、マロは蒼ざめる。
「こないだ実家から『金使い過ぎ』って怒られたのに、いきなりまた25万も使たら今度こそ、勘当されてしまいますて!
何とか負かりまへんか……?」
「払えないんなら出て行ってもらうだけだ。あんたの身の振りなんか知ったこっちゃないんだよ、こっちは」
にべも無くそう返され、マロは絶句した。
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度を超した嫌がらせ。
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天狐からの叱責などまるで気にしていない様子で、マロはこの夜も派閥問わず、ゼミ生を伴ってラウンジへ出かける。
「今日はどないしましょ?」
「やっぱ今日もカードかなぁ。昨夜は大負けしたけど、今日は行けそうな気がする」
「じゃ、あたしはルーレットかなぁ」
「はい、はい、じゃんじゃんやりましょ、やりましょ!」
マロは上機嫌な様子でくるりと振り返って手を挙げ、皆を誘導しようとした。
と――立ち止まったその瞬間、マロの一歩先をヒュン、と横切るものがあった。
「……へ」
飛んで行った先を見ると、そこにあった壁に、穴が開いている。
「……え? ちょ、え?」
何が起こったのか分からず、マロは後ずさる。
するとどこからかパン、と言う短い破裂音が響くと共に、また壁に穴が開く。
「……ちょ、ちょ、ちょおっ!?」
いきなり2発も銃撃を受け、全員が悲鳴を上げる。
「うっ、うわっ、うわーっ!?」
「なに、なに、何なの!?」
ゼミ生たちは慌てて、その場から逃げ出す。
マロも同様に逃げ出そうとしたが、腰が抜けてしまったらしい。
「ま、待って、待ってぇぇ~!」
ずるずると足を引きずりながら、マロはほとんど腹ばいになって逃げた。
結局この日は遊びに行くことなど到底できず、全員寮へと逃げ帰った。
その後も彼が遊びに以降とする度、銃撃や爆竹、鉢、その他もろもろをあちこちから投げ付けられ、店に入るどころではなくなった。
それどころか――。
「あのー」
「う、……や、やあ、マロ」
つい先週まで、一緒にカードゲームにはまっていたゼミ生に声をかけた途端、引きつった笑いを浮かべられ、マロがほとんど何も言っていないのに、ベラベラとしゃべり出した。
「ま、またラウンジかな? いや、行きたいよね、行きたいなって言うのは山々なんだけど、でも、ほら、僕たち学生じゃないか、ね? あんまり遊び回ってりゃ、ほら、期末も心配だし、レポートも疎かになっちゃうし、テンコちゃんに怒られちゃうし。まあ、今抱えてるレポートがまとまったらまた遊ぼう、ね?」
「あ、いえ、そうやなくて」
「じゃっ!」
そそくさと立ち去られ、マロは硬直したまま、ぼそっとつぶやいた。
「……シャツの裾出てます、って言おうとしただけなんやけど……」
と――半ば呆然とした様子の彼を、背後からせせら笑う者がいる。
(うふ、ふふふっ……! どうだ、参ったか! まだまだこれからだぞ、僕の復讐は……!)
マロへの執拗な「嫌がらせ」は、これだけに留まらなかった。
「ん? くっ、ぬっ、……がっ」
自分の部屋に戻ろうとし、ドアノブを回そうとするが、びくともしない。と、彼の様子に気付いた先輩が、声をかける。
「どうした?」
「なん、かっ、……えらい固うなってて、……回らへんっ」
「ちょっと見せてみろ。……ああ」
ドアノブを確かめ、納得したような、一方で呆れたような顔をした先輩に、マロが尋ねる。
「ハァ、ハァ……、どないなってるんです?」
「溶接されてる」
「……は?」
「向こう側からドアノブが溶接されてて、カッチカチになってる」
「な、……何でですねん」
「高威力の火術かなんかを使われたんだろう。
多分、『ファイアランス』? いや、『テルミット』かなぁ、こんなガチガチにするとなると」
「いや、そうやなくて、何でこんなこと……」
「さあ?」
ともかくこのままではどうしようもないため、エルガ亭のおかみに事情を説明し、マロがドア代を弁償することで納得してもらった上で、彼女立ち合いの下、ドアを破って中に入ると――。
「……内装も弁償してもらうよ」
ドアノブを溶接した犯人は、どうやら部屋の中で火の術を放っていたらしい。
部屋の中は煤だらけになっており、あちこちから焦げた臭いが立ち上っていた。
「何でですねん、僕が被害遭うてんのに……」
「この寮はあたしのだ。じゃあ被害者はあたしじゃないか。その原因は部屋を借りたあんたにある。
反論あるのかい?」
「……おいくらです?」
「そうだねぇ、……ざっと見て25万エルってところだね」
「ちょっ」
見積もりを聞き、マロは蒼ざめる。
「こないだ実家から『金使い過ぎ』って怒られたのに、いきなりまた25万も使たら今度こそ、勘当されてしまいますて!
何とか負かりまへんか……?」
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