黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第6部

    白猫夢・狙狐抄 6

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    麒麟を巡る話、第296話。
    現れた犯人。

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    6.
     夕暮れが迫って来たこともあり、葵たちは寮へと戻ることにした。
    「あ」
     と、寮の玄関に入ったところで、マロが声を挙げる。
    「どうしたの?」
    「俺の部屋あんなんやし、今夜は……、っちゅうか、これからどこで寝たらええんやろな、って」
    「あー……」
     葵とシエナは顔を見合わせ、相談する。
    「アタシかアンタのどっちかが泊める、ってワケに行かないわよね」
    「うん」
    「コイツまだガキだけど、夜中に何しだすか」
     シエナの言葉を、マロはブンブンと首を振って否定する。
    「いやいやいやいや、何言うてますねん。静かに寝ますて」
    「何もしないとしても、女の子の部屋にオトコ入れるの嫌だし」
    「そ、そこを何とか」
     頼み込むが、葵もシエナも、首を縦に振らない。
     結局マロは、毛布だけシエナから借りて、焼け焦げた自分の部屋で寝ることになった。
    「……ったく、アイツ何考えてんのかしらね」
    「……」
    「で、アオイ」
     マロが部屋へ戻ったところで、シエナが小声で葵に尋ねる。
    「アンタ、さっき追いかけてた時、本気で走って無かったでしょ?」
    「うん」
    「どうして? アンタの足なら、本気出せば捕まえられたかも知れないのに」
    「あそこであの子を捕まえたら、騒ぎが大きくなりそうだったから」
    「あの子? 犯人が誰なのか、もう分かってんの?」
     怪訝な顔をしたシエナに、葵は静かに答えた。
    「マロくんを狙う子なんて、一人しかいないよ」

    「ケホ……、ものすごい香ばしいな、もぉ」
     部屋に戻ったものの、室内には煙と煤の臭いが充満し、とてもそのまま寝られる環境ではない。
     マロは窓を開け、ノートの下敷きを使って、臭いを外へ送る。
    「……くっそー。もうちょい下手に出たら、どっちか泊まらせてくれたかも知れへんなぁ」
     いくらか臭いが紛れたところで、半分燃え落ちたベッドに腰掛ける。
    「しかし、……マジでムカつくわぁ。なんで俺がこんな目に遭わなアカンのんや」
     マロは頭を抱え、怒り交じりにそうつぶやいた。
     と、次の瞬間――外からひゅん、と空を切る音と共に、ロープが飛んで来た。
    「へっ?」
     ロープは瞬時にマロの体に絡み、拘束する。
    「なっ、何や、これ」
     そしてもう一本飛んできたロープが、マロを外へと引きずり出した。

    「うわっ、うわ、おわあああっ!?」
     ロープに引っ張られるまま、マロは寮から裏路地、そして島の北にある丘の、その裏手へと連れて来られる。
    「はあ、はあ……、ひぃ」
     服も毛並もボロボロになり、彼をここまで引っ張ってきたロープも、あちこちが千切れている。
     どうにか立ち上がったところで、マロは目の前10メートルほど先に、誰かが立っているのに気が付いた。
    「……マーク?」
    「ええ」
     マークの右手には、拳銃が握られていた。
    「……えっ」
     マロがそれに気付き、後ずさったところで、マークは拳銃を向ける。
    「逃げても無駄ですよ」
    「……っ」
     マロの足が止まったところで、マークは一歩ずつ、ゆっくりと歩きながら、距離を詰めていく。
    「何で僕があなたを、……と思ってるでしょうね」
    「お、おお」
    「まあ、分からないでしょう。だから一から、説明してあげます」
     マークは眼鏡を外し、マロをにらみつけた。
    「昔ね、央北で内戦があったんですよ。15年くらい前かな。
     央北を東西二分する、そこそこ大きな戦いだったんですけど、どっちが勝った、ってことにはならなかったんです。どっち側もお金が尽きちゃったんですよ。
     で、停戦しようってことになって、間に仲介人を立てて話し合いをしたんです。ところが」
     マークはマロをにらみつけ、憎しみのこもった声でこう続けた。
    「その仲介に立ったのは、金火狐財団だったんですよ。そう、あなたの家だ」
    「え?」
     これを聞いたマロは怪訝な顔をするが、マークは構わず語る。
    「あろうことか財団は、両者に散々な因縁を付け、600億エルと言う莫大な賠償金を互いに支払わせるよう命じた! そしてその、到底払いきれないような巨額を、財団が無理矢理に貸し付けた!
     1エルも得られないばかりか、多額の借金を抱えさせられた両陣は、どんな目に遭ったと思います!? そのとんでもない借金を返すために、『天政会』も、我が『新央北』も、どれだけの苦汁をなめさせられたかッ!
     おかげで央北の経済成長は、他地域に比べて明らかな後れを取った! その代わりに肥え太ったのは、あなた方財団だッ!」
     マークは拳銃を両手で構え、マロに狙いを定めた。
    「あなた方のせいで、『新央北』の宗主だった僕の父と、そして父をずっと支えてきた母は、長い間ずっと苦労してきたんだ!
     そのせいで……、そのせいで母はっ」
     マークはボタボタと涙を流しながら、拳銃の引き金に手をかけた。
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