「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第6部
白猫夢・不遜抄 1
麒麟を巡る話、第298話。
派閥主義。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
マークとマロとの確執が解消された後、マークは事実上、ブロッツォ派からハーミット派へと移っていた。
「でですね、細胞組織を顕微鏡で観察してみたら、何と言うかこう、植物のそれと似たような固まり方をしてるんですよ。そこの相似性を応用できないかって……」「ふんふん」
その日も葵は、熱っぽく語るマークに、真剣に耳を傾けているような、それともただ生返事を返しているかような、ぽやっとした様子で相対していた。
「相変わらず眠たそうにしてますな」
「でも後でマークくんが『ちゃんと聞いてましたかっ!?』って聞くと、ちゃんと的を得た質問を返してくるのよね」
「睡眠学習、……なんでしょうか」
「そら、ちゃいますやろ」
そしてその二人を、マロとシエナ、春が離れて眺めている。
ここ半月ほど、葵たちは寮近くの喫茶店で勉強会を開いていた。勿論無料ではないが、学生が毎日茶やコーヒーを飲みに来られる程度には安く、他のゼミ生の姿も多い。
そのため、葵たちが固まって談笑しているところに、ちょくちょく質問に訪れる者も少なくなかった。
「アオイさん、ちょっといい?」
「いいよ」
「さっきの講義で……」
「ん、そっち行くよ」
「ありがと、アオイさん」
葵が中座したところで、マークが「ん?」と声を上げた。
「どないしたん?」
「いや……、あそこにいるの、ブロッツォ派の人ですよ。向こうの勉強会で何度か見たことあります」
マークがペンで示した先には、一人黙々とバタートーストをつまみつつレポートをまとめている、猫獣人のゼミ生がいた。
「だから?」
尋ねたシエナに、マークは口を尖らせた。
「ここ、ハーミット派の人ばかりなのに」
こう続けたマークに対し、シエナは肩をすくめる。
「別にココ、アタシたちが貸し切ったワケじゃないでしょ」
「そりゃ、まあ、そうですけど」
「大体、すぐ『我が派閥の陣地だ』、『我が組織の管轄だ』って言い出すのは、自分に自信が無い証拠よ。アンタ、もっと自分に自信持ちなさいな」
「そ、それとこれとは話が別でしょう」
「一緒よ。とにかく、放っときなさい」
「……まあ、ええ、確かに事を荒立てる理由はありませんから」
むくれたマークに対し、マロが突っついた。
「偉そうに言うとるけどお前、はじめはブロッツォ派やったやないか」
「う、……ええ、まあ」
「お前がそんなん言うたらアカンわー」
「……」
シエナとマロに責められ、マークは顔をしかめて黙り込んだ。
と――そのブロッツォ派の学生の側に近付いて行く者が2、3名現れた。
「おい、あんた」
「はい?」
どうやら彼らも派閥主義を持ち出そうとする輩らしく、居丈高にわめき始めた。
「ここがどこだか分かってるのか?」
「え? ……喫茶店でしょう」
「分かってないな。周りをよく見ろよ」
「はあ……?」
「空気、読めないのか?」
「と言うと?」
「あんたの派閥のヤツなんかどこにもいないぞ」
「みたいですね」
「……チッ」
彼らは悪態をつくなり、座っていたゼミ生の襟をつかんで引っ張り上げた。
「な、何するんです!?」
「出てけって言ってんだ!」
「わ、私が何をしたとっ」
「あ? 言っただろ? ここはハーミット派の……」「やめて」
彼らのそばに、いつの間にか葵が立っていた。
「あ、アオイさん。いや、コイツが……」
「この人、ただトースト食べてただけでしょ」
「いや、ここは俺たちの派閥……」
「あなたの派閥のことなんか知らない。その人、困ってるでしょ? 手を放してあげて。
それからあなたたち3人、ここから出て行って。うるさいよ。みんなの邪魔」
「……何でそんなこと言うんですか」
それまで騒いでいた短耳のゼミ生が、今度は葵をにらみつけた。
「俺たちはあんたの派閥を……」「二度も言わせないで」
葵は相手の威圧にまったく反応する様子を見せず、淡々と、しかしはっきりと言い返した。
「あたしの派閥なんて、そんなの主張した覚えは一度も無いよ。あなたが自分勝手な主張を通すために、口実でそう言ってるだけでしょ。
出て行って」
「……っ、このっ」
短耳は葵に向き直り、拳を振り上げかけた。
ところがその直後――べちん、と何かを弾く音と共にその短耳は床に倒れ、白目をむいていた。
「えっ」
短耳の仲間2人が床と葵の伸ばした左手とを交互に見ていたが、葵は構わず続けた。
「あたしこう見えても、わりとイライラするタイプなんだ。三度も同じこと言わさせられたら、本当に怒るよ」
「……すっ、すいませんでしたっ!」
2人は床に倒れた仲間を引きずり、大慌てで喫茶店から出て行った。
@au_ringさんをフォロー
派閥主義。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
マークとマロとの確執が解消された後、マークは事実上、ブロッツォ派からハーミット派へと移っていた。
「でですね、細胞組織を顕微鏡で観察してみたら、何と言うかこう、植物のそれと似たような固まり方をしてるんですよ。そこの相似性を応用できないかって……」「ふんふん」
その日も葵は、熱っぽく語るマークに、真剣に耳を傾けているような、それともただ生返事を返しているかような、ぽやっとした様子で相対していた。
「相変わらず眠たそうにしてますな」
「でも後でマークくんが『ちゃんと聞いてましたかっ!?』って聞くと、ちゃんと的を得た質問を返してくるのよね」
「睡眠学習、……なんでしょうか」
「そら、ちゃいますやろ」
そしてその二人を、マロとシエナ、春が離れて眺めている。
ここ半月ほど、葵たちは寮近くの喫茶店で勉強会を開いていた。勿論無料ではないが、学生が毎日茶やコーヒーを飲みに来られる程度には安く、他のゼミ生の姿も多い。
そのため、葵たちが固まって談笑しているところに、ちょくちょく質問に訪れる者も少なくなかった。
「アオイさん、ちょっといい?」
「いいよ」
「さっきの講義で……」
「ん、そっち行くよ」
「ありがと、アオイさん」
葵が中座したところで、マークが「ん?」と声を上げた。
「どないしたん?」
「いや……、あそこにいるの、ブロッツォ派の人ですよ。向こうの勉強会で何度か見たことあります」
マークがペンで示した先には、一人黙々とバタートーストをつまみつつレポートをまとめている、猫獣人のゼミ生がいた。
「だから?」
尋ねたシエナに、マークは口を尖らせた。
「ここ、ハーミット派の人ばかりなのに」
こう続けたマークに対し、シエナは肩をすくめる。
「別にココ、アタシたちが貸し切ったワケじゃないでしょ」
「そりゃ、まあ、そうですけど」
「大体、すぐ『我が派閥の陣地だ』、『我が組織の管轄だ』って言い出すのは、自分に自信が無い証拠よ。アンタ、もっと自分に自信持ちなさいな」
「そ、それとこれとは話が別でしょう」
「一緒よ。とにかく、放っときなさい」
「……まあ、ええ、確かに事を荒立てる理由はありませんから」
むくれたマークに対し、マロが突っついた。
「偉そうに言うとるけどお前、はじめはブロッツォ派やったやないか」
「う、……ええ、まあ」
「お前がそんなん言うたらアカンわー」
「……」
シエナとマロに責められ、マークは顔をしかめて黙り込んだ。
と――そのブロッツォ派の学生の側に近付いて行く者が2、3名現れた。
「おい、あんた」
「はい?」
どうやら彼らも派閥主義を持ち出そうとする輩らしく、居丈高にわめき始めた。
「ここがどこだか分かってるのか?」
「え? ……喫茶店でしょう」
「分かってないな。周りをよく見ろよ」
「はあ……?」
「空気、読めないのか?」
「と言うと?」
「あんたの派閥のヤツなんかどこにもいないぞ」
「みたいですね」
「……チッ」
彼らは悪態をつくなり、座っていたゼミ生の襟をつかんで引っ張り上げた。
「な、何するんです!?」
「出てけって言ってんだ!」
「わ、私が何をしたとっ」
「あ? 言っただろ? ここはハーミット派の……」「やめて」
彼らのそばに、いつの間にか葵が立っていた。
「あ、アオイさん。いや、コイツが……」
「この人、ただトースト食べてただけでしょ」
「いや、ここは俺たちの派閥……」
「あなたの派閥のことなんか知らない。その人、困ってるでしょ? 手を放してあげて。
それからあなたたち3人、ここから出て行って。うるさいよ。みんなの邪魔」
「……何でそんなこと言うんですか」
それまで騒いでいた短耳のゼミ生が、今度は葵をにらみつけた。
「俺たちはあんたの派閥を……」「二度も言わせないで」
葵は相手の威圧にまったく反応する様子を見せず、淡々と、しかしはっきりと言い返した。
「あたしの派閥なんて、そんなの主張した覚えは一度も無いよ。あなたが自分勝手な主張を通すために、口実でそう言ってるだけでしょ。
出て行って」
「……っ、このっ」
短耳は葵に向き直り、拳を振り上げかけた。
ところがその直後――べちん、と何かを弾く音と共にその短耳は床に倒れ、白目をむいていた。
「えっ」
短耳の仲間2人が床と葵の伸ばした左手とを交互に見ていたが、葵は構わず続けた。
「あたしこう見えても、わりとイライラするタイプなんだ。三度も同じこと言わさせられたら、本当に怒るよ」
「……すっ、すいませんでしたっ!」
2人は床に倒れた仲間を引きずり、大慌てで喫茶店から出て行った。
- 関連記事



@au_ringさんをフォロー
総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

もくじ
未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

~ Trackback ~
トラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
~ Comment ~