黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第6部

    白猫夢・不遜抄 2

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    麒麟を巡る話、第299話。
    むきしつ。

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    2.
    「アオイさん、今のは……?」
    「今の?」
     席に戻ってきた葵に、マークが恐る恐る尋ねた。
    「今騒いでた人、いきなり倒れたじゃないですか」
    「あー」
     葵は左手を上げ、人差し指と中指、親指とで輪を作る。
    「人中(じんちゅう:人体の急所。鼻と口の中間にある)、指でぺちって弾いただけだよ」
     それを聞いたマロが、きょとんとする。
    「へ……? そんだけで?」
    「うん。力入れて弾くと結構痛い」
    「ホンマかいな……」
     マロは自分で自分の人中を弾き――涙目で口元を覆う。
    「……ぅお、ぅ、……確かに、……めっちゃ、効くぅ」
    「アホね」
     シエナはマロの愚行を鼻で笑いつつ、絡まれていた猫獣人に声をかけた。
    「アンタ、大丈夫?」
    「あ、はい」
    「災難だったわね。……折角このゼミに入れたのに、こんなくだらない争いに巻き込まれるなんて、思いもしなかったわ」
    「前期まではそうでもなかったんですけどね……」
     猫獣人はチラ、と葵に目をやり、それから残っていたバタートーストの切れ端を口に放り込んで、喫茶店を出て行った。
    「……」
     何も言わず、黙々とノートに視線を落とす葵に、マークは恐る恐る声をかける。
    「あの……」
    「ん?」
    「……いや、何でも」
     言い淀んだマークに、シエナが代わりに尋ねた。
    「何か思うところは無いのか、って聞きたいみたいよ」
    「ないよ」
     淡々とそう返す葵に、今度は春が口を開く。
    「葵さんって、……何と言うか、淡泊な方ですね」
    「そう?」
    「いつでも他人の事情に関せず、と言う態度ですし」
    「他人だもん」
    「……冷たすぎません?」
    「そう?」
     無機質じみた葵の応答に、春もそれ以上、何も言えなくなった。



     自分が一因となっているこの争いに介入する気配をまったく見せない葵だったが、天狐により、強制的に介入させられることになった。
    「呼び出した理由が分かるか?」
    「分かんない」
    「ふざけんな」
     葵を呼びつけた天狐は、苛立たし気にバン、と机を叩いた。
    「オレは前にも言ったよな、『リーダーやってるってんなら、自分の下にいるヤツをきっちり管理しやがれ』ってな。
     アレから1ヶ月半は経ってるが、お前は何かやったのか?」
    「なんにも」
    「だよな」
     天狐は立ち上がり、葵をにらみつけた。
    「じゃあピエール・レッツェ、マルコ・ペザロ、トニオ・アレッツォって名前に聞き覚えは?」
    「誰?」
    「……てめえ、いい加減にしねーと張り倒すぞ」
     天狐は額に青筋を浮かべ、怒鳴りつけた。
    「昨日、お前らがいた喫茶店で騒ぎを起こしたバカ共の名前だッ! お前らの派閥にいるヤツ一人も管理できてねーのかよ!?」
    「それは……」「まさかこの期に及んで、『あたしが作った派閥じゃない』って言い訳すんのか?」
     天狐ははーっ、と怒り混じりのため息を漏らす。
    「そいつらもそう言ってたよ、『アオイさんのためにやったのに、自分には関係ないって言われた』ってな。
     だけどな葵、最初にあいつらから『勉強教えてくれ』って乞われて、ソレを引き受けたのはお前自身のはずだ。ソレがきっかけでできた派閥だってのに、今更作った本人のお前が『知らない』はねーだろ。
     何が何でも知らぬ存ぜぬを通そうって言うんなら、葵。騒動の中心になってるお前には、塾から出て行ってもらわなきゃならねー。故郷に戻ってもらうコトになる」
    「……」
    「ソレが嫌だってんなら、お前がこの騒動を収めろ。いいな?」
    「分かった」

     葵が退室した後、天狐はひそ……、とつぶやいた。
    「で、どうよ? 今のアイツの様子を見て」
    「やっぱり不思議です」
     クローゼットの中から、そっとフィオが現れた。
    「僕の知るアオイ・ハーミットじゃないですね」
    「猫被ってる、ってか? 『猫』だけに」
    「はは……」
     天狐の冗談に笑みを浮かべつつ、フィオはこう続ける。
    「でも他人に対する関心の低さは、やっぱり僕の知ってる通りです。
     普段から言葉数が少ないのは恐らく――基本的に眠いからって言うこともあるんでしょうけど――他人と関わりたくないんじゃないかな、と。
     他人から干渉を受ければある程度応えるけど、自分からは絶対他人に干渉しない。一種の潔癖症じみたところはありますね」
    「ふーん……。まあ確かに、アイツが自分から行動を起こしたって話は聞いたコトねーな。渾沌の話じゃ、アイツのじーちゃんを助けた時は全力出してたっぽいけど」
    「ハーミット卿ですか」
     フィオは顔を曇らせ、苦々しげに述べる。
    「色々と大変なモノを遺してくれた人ですよ、僕からしてみれば」
    「……ん?」
     天狐はフィオの言葉に、目を見開く。
    「その言い方だと……」
    「ええ。お察しの通りです」
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