黄輪雑貨本店 新館


    「白猫夢」
    白猫夢 第6部

    白猫夢・不遜抄 7

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    麒麟を巡る話、第304話。
    異派焔流対決。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    7.
     勝負が始まるまではざわついていた見物人たちも、いざ両者が対峙した途端、しんと静まり返った。
    「……」「……」
     両者とも道着のみで、防具の類は付けていない。
    「危なくないのかな……」
    「いや、危ないだろ、どう考えても」
    「テンコちゃんによれば、当たっても切れはしないらしいけど」
    「でもその代わり、絵の具みたいなのがべっとり付くって聞いたわよ」
    「ダメじゃん。道着だけだったら最悪、ぐっちょぐちょになるよ」
    「むしろ両方とも、そっちが狙いなんじゃない?」
    「え?」
    「つまり、お互い『べっとり汚して恥をかかせたい』って考えてるのかも」
    「アオイさんはどうか分かんないけど……、お嬢様ならやりかねないね」
     両者が微動だにしないため、次第に見物人たちから、ひそひそと声が漏れ始める。
     しかし開始から1分も経った頃になって、楓の方から動き始めた。
    「……りゃあッ!」
     ぐいぐいと間合いを詰め、葵に斬りかかる。
     それを葵が一歩引き、かわす。楓の刀が空を切り、下を向いたところで、葵は彼女の頭めがけて刀を振り下ろした。
    「うっ……ッ」
     楓もとっさにこれを避け、姿勢を崩しつつも足蹴りを放ち、葵を弾く。
     両者が体勢を崩し、離れて互いに構え直したところで、見物人たちから歓声が上がった。
    「すげっ」
    「迫力あるぅ」
    「うわー……、俺、もっぺんアオイさんを応援したくなってきた」
    「裏切り者っ。ついさっきまで『流石です、お嬢様』つってた癖して」
     見物人たちが騒ぐ間にも、二人は何合も打ち合い、一進一退の勝負を続けている。
    「はあッ!」
    「やッ」
     楓が打ち込めば、葵はそれをひらりとかわし、反撃する。
     葵が間合いを詰めれば、楓も詰め返し、弾き飛ばす。
     一進一退の攻防に、見物人たちの熱気は加速していった。
    「行けーっ!」
    「そこよ、そこ!」
    「うわっ、危なっ」
     大歓声の中、天狐と鈴林も駆けつけ、勝負の様子を眺めていた。
    「どっちが勝つと思うっ?」
    「そうだな……。ざっと見た限りじゃ、楓の方が力はありそうだ。葵の攻撃、バシバシ跳ね除けてるし、な。
     一方の葵は、技巧派だな。相手の攻撃を誘って、ソレを巧みにかわしつつ、牽制も仕掛けてる。
     多分、葵は長期戦を仕掛けるつもりだ。明らかに楓の方が、ガタイがいいからな。力で押し合っちゃ、確実に葵が負ける。ソレを葵も分かってるから、あーやって相手を動き回らせて、スタミナが尽きるのを待つつもりなんだろ」
    「じゃあ葵ちゃんが勝つってことっ?」
    「そうは言い切れねー。言ったろ、楓の方が力はある。葵が序盤で凌げなきゃ、押し切られて終わりだ」

     天狐の予想から言えば、勝負は葵にとって有利に運んだ。
     勝負は10分を超える長丁場となり、楓の方には、疲労の色が顔に現れ始めていた。
    「はっ……、はっ……」
     一方の葵は、汗こそかいてはいるが、それ以外は普段通りの、どこか眠たげな表情を浮かべている。
     と、その葵が不意に口を開く。
    「本気、出した方がいいんじゃない?」
    「なんですって?」
    「どれだけ刀を振り回しても、当たらないのは分かってるでしょ? もっと全力出していいよ。
     それともあなた、焔流剣士って名乗ってるのに、『燃える刀』は使えないの? もしかして今、本気でやってた?」
    「……~ッ」
     葵の挑発に、苛立っていた楓が即座に乗った。
    「その言葉、飲み込ませませんわよ……ッ」
     楓の刀に、ぼっ、と音を立てて火が灯る。
    「お、おいっ!? そりゃダメだっ!」
     それを見て、天狐が止めようとする。
     しかし楓はそれに目もくれず、刀を思い切り振り被った。
    「『火閃』ッ!」
     相当の魔力を発したらしく、振り抜いた直後、ボン、と炸裂音が轟く。見物人たちにもその衝撃波が届き、ざわめきが一際大きくなる。
    「うわっ!」
    「な、何、今の!?」
    「ちょっとアレ、やりすぎじゃ……」

     しかし――楓が起こした爆発と、その余波で発生した土煙が収まった時、見物人は予想外の光景に絶句していた。
    「……そんな……あたくしが……!?」
     楓の刀は、中ほどからぽっきりと折れている。
     そして楓は頭から胸にかけて、ショッキングピンクのまだらに染まっていた。
    「勝負ありだね」
     葵は傷ひとつ負っている様子もなく、ピンク色の煙を上げる刀をぽい、と投げ捨てた。



     その後一週間、楓は部屋から一歩も出ず、ずっと籠もっていた。
     そして彼女一人で無理やりまとめ直した派閥が、彼女抜きで存続するはずもなく――その一週間のうちに、派閥は自然消滅した。
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