「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第6部
白猫夢・眠猫抄 2
麒麟を巡る話、第307話。
眠り猫が眠る理由。
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2.
「俺にはその力は無いが」
男は警戒する様子を見せた葵に構わず、話を続けた。
「あの二人がこうして出会ったことで、その未来がどうなるかは、誰の目にも明らかだ。
さぞ楽しかろう――自分の言葉一つで、人の未来を決定せしめると言うのは」
「……」
「お前には『見えた』のだろう。あの二人がこれをきっかけに、この先親しくなり、睦み合い、やがては互いに愛し、愛される仲となり、長い時を共に過ごすのが。
そしてそうなるには、お前の存在が不可欠であったこと。逆を返せば、お前が何もしなければ、二人はそうならなかったであろうと言うことを」
「何が言いたいの?」
葵は微動だにせず、男に尋ねる。
しかし男は応じず、自分の話を続ける。
「今、お前は一歩退くか、さもなくば徒手空拳で構えよう、あるいは魔術を放とうと考えていただろう。頭では、な」
「……」
「しかし直感では、そのいずれも徒労に終わると悟っていた。どうだ?」
「……」
そこでようやく、葵は一歩退き、構えを見せた。
「お前の行動を一々分析するのは流石に愚行であるから、そんなことはしないが――お前には俺がこの先どんな行動を執るか、そして自分はそれに対しどう行動し返せば最適であるか、相対したその瞬間、すべて分かっている。
はっきり言おう。お前は予知能力者だ。そう、お前の夢の中で語りかけてくる、あの女と同じように、な」
「女? でもあの方、……っ」
口を開きかけて、葵はばっ、と手で覆う。
「あいつの言葉遣いは俺の友人を真似たものだ。女にしてはいくらか奇矯な口調であると思えるかも知れんが、生物的、思考的には女だ。
今もあいつがコンタクトを取ろうとしたようだが、邪魔をさせてもらうぞ。流石に目に付き過ぎたから、な」
男は右手を挙げ、指先でとん、と壁を叩く。そこから景色が黒く染まり、葵と男の周囲を覆った。
「お前に言っておく。そのままそいつの言葉を聞き続けることは、結果的にお前を滅ぼすことになるだろう。
あいつには互助精神、『ギブ&テイク』と言う考えが存在しない。お前は利用するだけ利用され、そしてその結果、あいつに何もかもを食い尽くされ、この世に欠片一つ残せはしないだろう。
意思すらも、な」
「構わない」
葵は右手をかざし、魔術を放つ姿勢を見せた。
「あたしはあたしの意思でそれを選んだ。
もしそうなると言うのなら、それがあたしのたどるべき運命。それがあたしの、たどるべき未来だよ。
すべてを成し終えるまで、誰にも邪魔なんかさせない」
「聞く耳を持たん、か」
次の瞬間――葵の放った魔術が黒く染まった空間を切り裂き、破壊した。
「きゃっ……」
「じ、地震!?」
図書館がぐら、と揺れ、中にいた職員やゼミ生は慌てて机の下に駆け込む。しかし揺れたのは一瞬であり、それ以降何も起こらない。
まだ図書館に残っていた春とルシオも、恐る恐る机の下からはい出て、お互いの姿を確認する。
「……収まった?」
「みたい、……ですね」
二人は辺りを見回し、何の被害も無さそうであることを確認し、揃ってため息をついた。
「ああ……、怖かった」
「僕もびっくりしたよ」
と――図書館の奥から、天狐の驚いた声が響いて来る。
「親父!? なんでアンタがココに……!?」
続いて、それを咎める声が聞こえてきた。どうやら職員に怒られたらしい。
「どうしたんですか、テンコちゃん?」
春たちをはじめ、他に図書館にいたゼミ生たちが、一斉に彼女の下へやって来た。
「ああ、すまねーな。思わず大声出しちまった」
天狐は長身の真っ黒な男と共に、職員3名に囲まれていた。
と、その職員の一人が、恐る恐る天狐に尋ねる。
「それで……、先程の揺れは一体?」
「オレもそれを調べに来たんだ。そしたらいきなり目の前に……」
そう言って、天狐は目の前の黒い男――克大火を指差した。
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眠り猫が眠る理由。
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2.
「俺にはその力は無いが」
男は警戒する様子を見せた葵に構わず、話を続けた。
「あの二人がこうして出会ったことで、その未来がどうなるかは、誰の目にも明らかだ。
さぞ楽しかろう――自分の言葉一つで、人の未来を決定せしめると言うのは」
「……」
「お前には『見えた』のだろう。あの二人がこれをきっかけに、この先親しくなり、睦み合い、やがては互いに愛し、愛される仲となり、長い時を共に過ごすのが。
そしてそうなるには、お前の存在が不可欠であったこと。逆を返せば、お前が何もしなければ、二人はそうならなかったであろうと言うことを」
「何が言いたいの?」
葵は微動だにせず、男に尋ねる。
しかし男は応じず、自分の話を続ける。
「今、お前は一歩退くか、さもなくば徒手空拳で構えよう、あるいは魔術を放とうと考えていただろう。頭では、な」
「……」
「しかし直感では、そのいずれも徒労に終わると悟っていた。どうだ?」
「……」
そこでようやく、葵は一歩退き、構えを見せた。
「お前の行動を一々分析するのは流石に愚行であるから、そんなことはしないが――お前には俺がこの先どんな行動を執るか、そして自分はそれに対しどう行動し返せば最適であるか、相対したその瞬間、すべて分かっている。
はっきり言おう。お前は予知能力者だ。そう、お前の夢の中で語りかけてくる、あの女と同じように、な」
「女? でもあの方、……っ」
口を開きかけて、葵はばっ、と手で覆う。
「あいつの言葉遣いは俺の友人を真似たものだ。女にしてはいくらか奇矯な口調であると思えるかも知れんが、生物的、思考的には女だ。
今もあいつがコンタクトを取ろうとしたようだが、邪魔をさせてもらうぞ。流石に目に付き過ぎたから、な」
男は右手を挙げ、指先でとん、と壁を叩く。そこから景色が黒く染まり、葵と男の周囲を覆った。
「お前に言っておく。そのままそいつの言葉を聞き続けることは、結果的にお前を滅ぼすことになるだろう。
あいつには互助精神、『ギブ&テイク』と言う考えが存在しない。お前は利用するだけ利用され、そしてその結果、あいつに何もかもを食い尽くされ、この世に欠片一つ残せはしないだろう。
意思すらも、な」
「構わない」
葵は右手をかざし、魔術を放つ姿勢を見せた。
「あたしはあたしの意思でそれを選んだ。
もしそうなると言うのなら、それがあたしのたどるべき運命。それがあたしの、たどるべき未来だよ。
すべてを成し終えるまで、誰にも邪魔なんかさせない」
「聞く耳を持たん、か」
次の瞬間――葵の放った魔術が黒く染まった空間を切り裂き、破壊した。
「きゃっ……」
「じ、地震!?」
図書館がぐら、と揺れ、中にいた職員やゼミ生は慌てて机の下に駆け込む。しかし揺れたのは一瞬であり、それ以降何も起こらない。
まだ図書館に残っていた春とルシオも、恐る恐る机の下からはい出て、お互いの姿を確認する。
「……収まった?」
「みたい、……ですね」
二人は辺りを見回し、何の被害も無さそうであることを確認し、揃ってため息をついた。
「ああ……、怖かった」
「僕もびっくりしたよ」
と――図書館の奥から、天狐の驚いた声が響いて来る。
「親父!? なんでアンタがココに……!?」
続いて、それを咎める声が聞こえてきた。どうやら職員に怒られたらしい。
「どうしたんですか、テンコちゃん?」
春たちをはじめ、他に図書館にいたゼミ生たちが、一斉に彼女の下へやって来た。
「ああ、すまねーな。思わず大声出しちまった」
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と、その職員の一人が、恐る恐る天狐に尋ねる。
「それで……、先程の揺れは一体?」
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そう言って、天狐は目の前の黒い男――克大火を指差した。
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