黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第6部

    白猫夢・眠猫抄 3

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    麒麟を巡る話、第308話。
    白猫の正体。

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    3.
    「今の地震、アンタが関係してんのか?」
     尋ねた天狐に、大火は憮然とした顔をした。
    「指を差すな」
    「あ、悪り」
     天狐が手を下げたところで、大火が答える。
    「確かに今の揺れは、俺に関係がある。だが起こしたのは、俺では無い。
     天狐。お前のゼミ生の中に、緑髪に三毛耳の毛並みをした、身長160センチ後半程度の猫獣人はいるか?」
    「え? ああ、1人いる。ソレがどうした?」
    「今の揺れは、そいつが俺の捕縛術を破った際に発生した衝撃波によるものだ。
     早急に身柄を拘束したい。そいつの住居に案内してくれ」
     こう頼まれ、天狐は訝しげな表情を返す。
    「なんで?」
    「急を要すると言ったはずだ。すぐに案内してくれ」
    「……おう」

     大火に命じられるまま、天狐はエルガ亭の、葵の部屋まで彼を案内した。
    「ここか」
     大火は短く呪文を唱え、ドアの鍵を開けて中に押し入る。
    「……いないか。他にいそうな場所は?」
    「ゼミ生一人一人の行動まで把握してないぜ」
    「それもそうか。……ふむ」
     大火は机に置いてあったレポート用紙を一枚取り、しばらく眺めた後で、天狐にこう尋ねる。
    「俺が見た限り――葵と言ったか――こいつは15歳程度にしか見えなかったが、何年在籍していた?」
    「まだ半年にもなってないぜ」
    「そうか。……読んでみろ」
     大火からレポートを手渡され、天狐は目を通す。
    「……んっ? こりゃ、……葵が書いた、……のか?」
    「お前がその半年間、付きっ切りで集中講義でもしない限り、この成果を残すことはありえん。でなければ元からこれだけの知識を有していたか、あるいはこの短期間で急成長できるほどの才能を持っていたか、だ」
    「……ああ、そうだな。そうだろうな」
     天狐が読んだ限りでも、そのレポート内容はゼミの卒論と遜色ない出来だった。
    「おかしい点だらけだ。お前は何も気付かなかったのか?」
    「何をだよ?」
     苛立つ天狐に、大火も眉をひそめつつ説明する。
    「まず、このレポート内容だ。到底10代の、お前のゼミに入って半年も経たないひよっ子の成果物とは思えん。
     そして俺と対峙した時に見せた魔力。非凡どころでは無い、お前に比肩する力の持ち主だ」
    「ああ。確かに並の才能じゃない。ソレは分かってたさ、勿論な。
     だからオレの方も、それとなく監視はしてたんだ。ところが、だ」
     天狐はむすっとした顔で、こう続ける。
    「誰かさんが会うなり、いきなり挑発してくれやがったからな。警戒して逃げるのも、当然っちゃ当然だろ?」
    「……」
     大火の方も憮然とした顔を返したが、やがて折れた。
    「すまない。先にお前と会うべきだったな」
    「しゃーねーよ。アンタとオレの立場が逆だったら、オレもやりかねないし」
    「そうだな。
     それより、天狐。……相当に厄介な奴を、世に放ってしまったかも知れん、な」
    「……かもな」
     大火はふーっ、とため息をつき、天狐に命じた。
    「恐らくは徒労に終わるとは思うが、葵を探し拘束するよう、ミッドランド市長に伝えろ。こいつは麒麟の傀儡だ」
    「麒麟?」
     その単語に、天狐は怪訝な顔を見せる。
    「麒麟って、麒麟の姉さんのコトか?」
    「そうだ」
     これを聞いた天狐は、唖然とした。
    「死んだんじゃねーのか? アンタからそう聞いたはずだけど」
    「『死んだも同然』とは説明したが、厳密には仮死状態だ。お前の本体と同じように、な」
    「姉さんも『システム』に取り込んでたのかよ?」
    「ああ。理由もお前と同じだ。俺に対して反逆し、世界を支配しようとしたからだ。
     だが意識だけは復活していたらしい。特にここ数ヶ月、この付近であいつの気配を何度も感知していた。
     どうやらあいつは葵の夢の中に現れ、あれこれと指示を送っていたらしい」
    「指示?」
    「お前も聞いたことは無いか? 『白猫の夢』と言う逸話を」
     その言葉を聞いた途端、天狐は目を丸くした。
    「ソレは聞き覚えあるが……、まさかその話に出てくる『白猫』が、麒麟の姉さんだったってのか?」
    「共通項は多い。
     お前も覚えているだろう? 麒麟はあいつの言葉を真似して自分のことを『ボク』と呼んでいたし、顔だちや体型も中性的で、何より、非常に優れた未来予知能力を有していた。
     どうして猫獣人になっているのかは分からんが、な」
    「ああ……。まあ、ソコら辺もオレと似たようなもんじゃねーかな。
     でも親父、葵が麒麟の姉さんに操られてたとして、ソレがまずいのか?」
    「繰り返すが、葵は稀代の能力と才能の持ち主だ。
     そんな超一級の人材を己の僕(しもべ)にした麒麟が、ただ葵を操るだけで満足すると思うか?」
    「……まさか、葵を使って封印を解いて、復活しようとしてんのか?」
    「可能性は低くない。そしてそれが実現すれば、ふたたび麒麟は、世界の支配に乗り出すだろう」
     大火は机に残っていたレポートをばさっと払い、ため息交じりに呟いた。
    「麒麟め……。まだ神になるなどと言う、歪んだ夢を諦めきれんのか」



     その後3日間に渡り、ミッドランド全域の捜索が行われたが、葵・ハーミットを発見することはできなかった。
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