「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第1部
蒼天剣・血風録 2
晴奈の話、12話目。
姉御魔術師再登場。
2.
紅蓮塞は中核となる本丸を囲むように、大小50程度ある修行場と、さらにその倍ほどの宿場・居間が連なっている。
普段はその字面の通りに修行の場、居住区として機能しているが、有事の際にはその様相は一変し、要塞としての働きを見せる。
それが紅蓮塞の、「塞」たる所以である。
襲撃の報せから数日も立たないうちに、紅蓮塞の守りは堅固なものとなった。塞内のいたるところに武器・医薬品が積み上げられ、要所には数人の手練が詰めた。
当然、師範格の柊も晴奈ともども駆り出され、紅蓮塞北西側の修行場、嵐月堂の護りに付くことになった。
「師匠。黒炎の者たちは一体、どこから攻めると?」
三方を囲む急坂をぐるっと眺め、晴奈が尋ねる。
それを受けて、柊も周囲を見回しながら答えた。
「そうね……、ここから侵入するとなると、境内の垣を乗り越えるか、それとも破るか。もしくは山肌から降りて来るか、の2通りでしょうね。
いずれにしても、油断は禁物よ。敵は克直伝の魔術を使うそうだから」
「なるほど。……ん?」
晴奈は柊が言葉を間違えたと思い、こんな風に突っ込んでみた。
「直伝、ですか? まさか200年前の人間が現代に直接、伝えたと?」
ところが柊は真面目な顔で、言葉を選ぶような口ぶりでポツポツと答えた。
「その、ね、うーん、何て、言ったらいいかな。
克はまだ生きている、らしいの。それも若々しい、青年の姿で」
「え? まだ、生きている!? まさか!」
現実離れした答えが返ってくるとは思わず、晴奈は声を高くして聞き返した。
「ありえません。人の寿命など、精々60年や80年、どんなに長くとも100年でしょう。それは確かに、長耳の方は長寿と聞き及んでおりますし、何かしらの記録では、150年の大往生を果たした方もいるとか。
しかしそれを踏まえても、ずっと青年のままと言うのは眉唾でしょう。長耳の方とて、60なり70になれば相応に老けるはずですし」「晴奈」
言葉を立て並べて反論した晴奈に、柊は静かな声で返した。
「それが、克が克たる所以よ。
200年生きる。不老不死の存在。誰もがそんな話、ありえないと言う。『そんな悪魔じみた話があるものか』とね。
でも克は別なの。だって彼は、悪魔だもの」
「あく、……ま?」
「そう、悪魔。知ってる、晴奈?」
柊はそう前置きし、薄い笑みを浮かべる。
「克大火は色んな通り名を持っているけれど、その一つが『黒い悪魔』なの。
彼は、本物よ」
「……」
柊の目には、嘘をついたりからかっているような色は無い。
その目を見て、晴奈はぞっと寒気を覚えた。
と、山肌の一部が突然爆ぜる。
いくつもの岩塊が山肌から飛び散り、晴奈たちに向かって飛んでくる。
「わあっ!?」
「怯むな、焼けッ!」
そこにいた何人かは一瞬たじろいだが、年長者や手練の者たちは臆することなく、「燃える刀」で飛んでくる岩を焼き切り、叩き落とす。
「黒炎だ! 攻めてきたぞーッ!」
大声で叫ぶ声があちこちから聞こえてくる。
それを受けて、柊がつぶやく。
「今回は敵が多そうね。かなり大規模に人を送ってるみたい」
「え?」
「じゃなきゃ、こんなに四方八方から来るぞ来るぞって聞こえて来ないし」
「な、なるほど」
程なく嵐月堂にも、教団員たちが山肌を滑るようにして侵入してきた。
いや、何人かは「本当に」滑っている。駆け下りるような感じではなく、わずかに空中に浮き上がり、するすると空を走っているのだ。
「あれは!?」
晴奈の目にはそれが異様な光景に映り、うろたえる。
一方、柊は未だ、平然と構えている。
「魔術よ。確か、名前は……」「『エアリアル』、風の魔術よ。魔術が盛んな地域では、わりと有名な術ね。つっても、あそこまで使いこなせるヤツはあんまりいないけど」
二人の後ろから、聞き覚えのある声がかけられる。振り向くと、かつて晴奈と戦った相手、橘が魔杖を手に立っていた。
「橘殿、来られていたのですか?」
「うん、つい1週間ほど前にね。んで、呑気に温泉で一杯やってたトコに、『何卒お力を貸していただきたく候』なーんて、丁寧に頼み込まれちゃったのよ。
まあ、ココは修行するのにはいい場所だし、温泉もお酒もいいのが揃ってるしね。無くなったりブッ壊されたりすんのも嫌だし、手伝ったげるわ、雪乃。ソレから晴奈」
「かたじけない、橘殿!」
深々と頭を下げた晴奈に、橘は手をぺらぺらと振って返す。
「アハハ……、そう堅くならないでよ、コドモのくせに。
さ、ソレじゃボチボチ、迎え撃つわよ!」
そう言うなり、橘は魔杖をシャラと鳴らし、魔術を放った。
「『ホールドピラー』! 阻めッ!」
地面を駆け下りていた教団員たちの何人かが、岩肌から突然飛び出した石柱に突き飛ばされ、また、ガッチリと四肢をつかまれる。
「おわっ!?」
「ぐあ……っ!」
「いでてて、離せ、離せッ!」
橘の術で、第一陣の半分近くが蹴散らされる。
だが、「エアリアル」で空中を飛んでいた者たちはすい、と事も無げに石柱を避けてしまう。しかし侵入してきた端から剣士たちがねじ伏せているのが、半ば呆然と山肌を見つめていた晴奈の視界に映った。
(これが……)
一瞬のうちに起こったこれらの光景にあてられ、晴奈はぶるっと武者震いする。
(これが戦い、か。……戦いか!)
晴奈の中で熱く、そして激しく燃えるものが噴き出し始めていた。
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姉御魔術師再登場。
2.
紅蓮塞は中核となる本丸を囲むように、大小50程度ある修行場と、さらにその倍ほどの宿場・居間が連なっている。
普段はその字面の通りに修行の場、居住区として機能しているが、有事の際にはその様相は一変し、要塞としての働きを見せる。
それが紅蓮塞の、「塞」たる所以である。
襲撃の報せから数日も立たないうちに、紅蓮塞の守りは堅固なものとなった。塞内のいたるところに武器・医薬品が積み上げられ、要所には数人の手練が詰めた。
当然、師範格の柊も晴奈ともども駆り出され、紅蓮塞北西側の修行場、嵐月堂の護りに付くことになった。
「師匠。黒炎の者たちは一体、どこから攻めると?」
三方を囲む急坂をぐるっと眺め、晴奈が尋ねる。
それを受けて、柊も周囲を見回しながら答えた。
「そうね……、ここから侵入するとなると、境内の垣を乗り越えるか、それとも破るか。もしくは山肌から降りて来るか、の2通りでしょうね。
いずれにしても、油断は禁物よ。敵は克直伝の魔術を使うそうだから」
「なるほど。……ん?」
晴奈は柊が言葉を間違えたと思い、こんな風に突っ込んでみた。
「直伝、ですか? まさか200年前の人間が現代に直接、伝えたと?」
ところが柊は真面目な顔で、言葉を選ぶような口ぶりでポツポツと答えた。
「その、ね、うーん、何て、言ったらいいかな。
克はまだ生きている、らしいの。それも若々しい、青年の姿で」
「え? まだ、生きている!? まさか!」
現実離れした答えが返ってくるとは思わず、晴奈は声を高くして聞き返した。
「ありえません。人の寿命など、精々60年や80年、どんなに長くとも100年でしょう。それは確かに、長耳の方は長寿と聞き及んでおりますし、何かしらの記録では、150年の大往生を果たした方もいるとか。
しかしそれを踏まえても、ずっと青年のままと言うのは眉唾でしょう。長耳の方とて、60なり70になれば相応に老けるはずですし」「晴奈」
言葉を立て並べて反論した晴奈に、柊は静かな声で返した。
「それが、克が克たる所以よ。
200年生きる。不老不死の存在。誰もがそんな話、ありえないと言う。『そんな悪魔じみた話があるものか』とね。
でも克は別なの。だって彼は、悪魔だもの」
「あく、……ま?」
「そう、悪魔。知ってる、晴奈?」
柊はそう前置きし、薄い笑みを浮かべる。
「克大火は色んな通り名を持っているけれど、その一つが『黒い悪魔』なの。
彼は、本物よ」
「……」
柊の目には、嘘をついたりからかっているような色は無い。
その目を見て、晴奈はぞっと寒気を覚えた。
と、山肌の一部が突然爆ぜる。
いくつもの岩塊が山肌から飛び散り、晴奈たちに向かって飛んでくる。
「わあっ!?」
「怯むな、焼けッ!」
そこにいた何人かは一瞬たじろいだが、年長者や手練の者たちは臆することなく、「燃える刀」で飛んでくる岩を焼き切り、叩き落とす。
「黒炎だ! 攻めてきたぞーッ!」
大声で叫ぶ声があちこちから聞こえてくる。
それを受けて、柊がつぶやく。
「今回は敵が多そうね。かなり大規模に人を送ってるみたい」
「え?」
「じゃなきゃ、こんなに四方八方から来るぞ来るぞって聞こえて来ないし」
「な、なるほど」
程なく嵐月堂にも、教団員たちが山肌を滑るようにして侵入してきた。
いや、何人かは「本当に」滑っている。駆け下りるような感じではなく、わずかに空中に浮き上がり、するすると空を走っているのだ。
「あれは!?」
晴奈の目にはそれが異様な光景に映り、うろたえる。
一方、柊は未だ、平然と構えている。
「魔術よ。確か、名前は……」「『エアリアル』、風の魔術よ。魔術が盛んな地域では、わりと有名な術ね。つっても、あそこまで使いこなせるヤツはあんまりいないけど」
二人の後ろから、聞き覚えのある声がかけられる。振り向くと、かつて晴奈と戦った相手、橘が魔杖を手に立っていた。
「橘殿、来られていたのですか?」
「うん、つい1週間ほど前にね。んで、呑気に温泉で一杯やってたトコに、『何卒お力を貸していただきたく候』なーんて、丁寧に頼み込まれちゃったのよ。
まあ、ココは修行するのにはいい場所だし、温泉もお酒もいいのが揃ってるしね。無くなったりブッ壊されたりすんのも嫌だし、手伝ったげるわ、雪乃。ソレから晴奈」
「かたじけない、橘殿!」
深々と頭を下げた晴奈に、橘は手をぺらぺらと振って返す。
「アハハ……、そう堅くならないでよ、コドモのくせに。
さ、ソレじゃボチボチ、迎え撃つわよ!」
そう言うなり、橘は魔杖をシャラと鳴らし、魔術を放った。
「『ホールドピラー』! 阻めッ!」
地面を駆け下りていた教団員たちの何人かが、岩肌から突然飛び出した石柱に突き飛ばされ、また、ガッチリと四肢をつかまれる。
「おわっ!?」
「ぐあ……っ!」
「いでてて、離せ、離せッ!」
橘の術で、第一陣の半分近くが蹴散らされる。
だが、「エアリアル」で空中を飛んでいた者たちはすい、と事も無げに石柱を避けてしまう。しかし侵入してきた端から剣士たちがねじ伏せているのが、半ば呆然と山肌を見つめていた晴奈の視界に映った。
(これが……)
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双月千年世界 目次 / あらすじ

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短編・掌編

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襲撃シーンか
敵の腕のたつ奴が来ることを望む
実戦ってやつかな?
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気合を入れて書いています。