黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第3部

    蒼天剣・狷狼録 3

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    晴奈の話、第148話。
    契約論。

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    3.
     時間と場所は、晴奈たちと大火の密談に戻る。
    「それで、私にどうしろと?」
     晴奈に尋ねられた大火は、静かに答えた。
    「簡単なことだ。教団大司教、ワルラス・ウィルソンの暗殺を依頼したい」
    「ワルラスの、暗殺……!?」
     晴奈も明奈も、けげんな顔をする。
    「黒炎殿が自ら行えばいい話なのでは? 何故、わざわざ敵方の私に頼むのだ?」
    「そちらの話はそう簡単ではないのだ。俺はウィルソン家とある『契約』をしている」
    「契約、か。聞いている。確か、『契約は絶対にして……』」「違います、お姉さま。『契約は公平にして対等の理』です」
     明奈に指摘され、晴奈は苦笑する。
    「はは……、そうだった、失敬」
    「俺とウィルソン家の間には様々な『契約』がある。
     概要を言えば、互いに危害を加えない代わりに、情報提供や調査を行うことを約束しているのだ」
    「ふむ……?」
     晴奈はその契約内容が腑に落ちず、詳しく聞いてみる。
    「その契約、黒炎殿には無意味なのでは?
     教団があなたに危害を加えるわけが無いし、あなたほどの力があれば情報提供も何も、必要では無いでしょう」
    「ところがなかなか、そうは行かないのが世の常と言うものだ。
     俺は普段から、こう言った孤島で隠棲している身だからな。たまに教団で話を聞かなければ、世俗に通じるのも一苦労でな。
     それに過去、俺に背いた者も少なくない。何をどう算段を付けたのか知らんが、俺に勝てると思って愚行に走る者の、多いこと。正直そんな阿呆は、相手をするのも面倒極まりない。
     ゆえに明文化して、『くだらん真似はするな』と言ってあるのだ」
     そう言って大火はまた、クックッと鳥のような笑い方をした。
    「まあそう言うわけで、俺自らウィルソンに手を出すのは契約違反になる。俺は内容や実情がどうであれ、一度取り交わした契約は何があろうと遵守する。
     魔術師たる者、契約を反故にするのは何より重い恥であり、罪なのだ」
    「そう言うものか……。まあ、そう言う話なら分からぬでもないな」
     晴奈は小さくうなずき、納得する。そして、先ほどの質問ももう一度投げかけてみた。
    「それで何故、私に?
     さっきも言ったが、ウィルソン家、そして黒炎教団とは敵対関係にある。敵の家のいざこざなど、私には対岸の火事も同然だ。
     頼むなら教団の近しい誰かに頼むのが、筋と言うものだろう?」
    「依頼内容は『大司教の暗殺』だと分かっているか?
     俺がそんな依頼を教団員にすれば、『克大火は教主一族と手を切った』とも取られかねない。そうなれば教団の紛糾を鎮めるつもりが、逆に炎上することになりかねん。そんな泥沼は、御免被りたいからな。
     だからこの件は、外部の者に頼むしかない。教団と無関係、あるいは敵対関係にあり、戦闘に長け、なおかつ誠実で忠実な人間。それに適うのが、お前だったのだ」
     唐突なほめ言葉に、晴奈は面食らう。
    「私が、誠実で忠実?」
    「ああ。例えばあの、北方から来た司令官。あいつに頼んだとすると、恐らく依頼されたことを吹聴し、教団に打撃を与えようと目論むだろう。先程も言った通り、この依頼内容はできるだけ教団員には触れさせたくない。
     卑怯な真似を好まず、義に厚いお前なら『黙っていてくれ』と頼まれれば、その通りにしてくれるだろうからな」
    「……ほめられているのか、馬鹿にされているのか」
     晴奈は口をとがらせ、反論する。
    「確かに私は卑怯な真似など絶対にしないし、黙っていてくれと頼まれれば、そうするだろうさ。
     だが敵に対しても、そこまで公平に振舞うと思うのか?」
    「するさ。お前の性格ならば、例え仇や悪魔であっても正々堂々と振舞う」
     大火はニヤリと口角を上げる。晴奈も内心、「確かに自分ならそうするだろうな」と納得してしまったので、それ以上は反論できなかった。
     晴奈が沈黙したところで、大火は話を進める。
    「それに、だ。俺の依頼を遂行してくれれば勿論、報酬も与えよう」
    「報酬? 一体何を?」
    「お前の望むものを」
    「私の、望むもの? 望むものと言うと、具体的には何になる?」
    「何でも、だ。知識でも、技術でも、武器でも」
     武器と聞き、晴奈の猫耳がピク、と立った。
    「武器、でも? ……ふむ」
     晴奈は椅子から立ち上がり、浜辺を少し歩く。ウロウロと歩き続けた後、晴奈は明奈の横に戻ってきた。
    「何でも、か。……そう言えば、私は何も知らない」
    「知らない?」
     大火の問いに対し晴奈は何も返さず、明奈に顔を向けて尋ねる。
    「明奈。教えてくれないか? 克大火なる人物が、一体どのような者なのか。
     彼がどんな人物で、何をしているのか分からなければ、『何でもやる』と言われても求めようが無い」
    「おいおい、なぜ本人が目の前にいるのに聞かない?」
    「それを報酬と取られては、折角の機会を潰しかねんからさ」
    「クッ」
     その答えが面白かったのか、大火は顔を伏せ、肩を震わせて笑った。

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    2010.06.03 加筆修正
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