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    短編・掌編

    遠回りないたずら

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    遠回りないたずら

     ……くっそ。
     やりやがったな、Nめ。



     Nと言うのは俺の幼なじみだ。
     Nは間違いなく、天才の部類に入る女だった。
     中学校1年から高校3年の間、一度も学年1位から落ちたことは無かった。
     当然のように、大学も主席卒業。そのままアメリカに飛び、1年で博士号を取った。
     俺なんかとは出来がまるで違う。同じ人間だなどとは、到底思えない女だ。
     ここまで説明した時点で、Nがまともじゃ無いと言うのは分かってもらえただろうが、何よりまともな神経があるとは思えない、ろくでもない悪癖がある。

     ほら、なんかの教育番組だか、ちょっと古いハリウッド映画だかであっただろ?
     ボールを転がしたらドミノに当たって、倒れたドミノがスイッチを押して、モーターが動いて糸を巻きとって、……みたいな、こまごました装置を長々と連結する。
     で、大仰な仕掛けの末にただ旗を揚げたり、ただドッグフードを皿に開けたりする、あれだ。

     Nは小さい頃から、この周りくどい仕掛けを組むのが大好きな、とんでもない奴だった。



     例えば幼稚園の時。先生がドアを開けて教室に入ろうとしたところで、ドアに挟んでいたなわとび用のゴム縄が緩む。
     カーテンサッシを経由して、ゴム縄で吊っていたシーツが、俺の頭上にばさっと落ちる。
     頭上に全く注意を向けていなかった俺は驚き、バタバタと手を動かしながら叫ぶ。
     先生は俺をお化けだと思ったらしく、ドアを開けた直後に絶叫した。
     勿論、Nはめいっぱい怒られたさ。そして実際に驚かせた俺も、一緒怒られた。

     小学生の時。Nは自由研究を大義名分に、誰もいない教室にロープやらバネやらボールやらを仕掛けまくった。
     そして9月1日の朝、何も知らない俺が一番乗りで教室に入って来た瞬間、装置が起動。
     結果、教室中を何十ものボールが跳ね回り、教室内の窓という窓は、すべて粉々に砕け散った。
     俺達が授業を受けられるようになったのは、9月3日になってからだった。
     Nは当然、しこたま怒られた。そして片棒を担いだとして、俺もとばっちりを食らった。

     だが、Nは懲りない。中学の時には、今度は校庭中を使って装置を組みやがった。
     それはまさに、誰もいない大運動会と言っても過言ではなかった。
     この時にも俺が仕掛けを動かす役として、勝手に選ばれ、そして勝手に巻き込まれ、Nと一緒に散々叱られた。
     高校の時には、この悪癖はさらにヒートアップした。
     校舎どころか、学校周辺の道路や電柱、はては信号機までも使用し、あわや街の交通が麻痺するかと言うような事態を引き起こした。
     当然の如く、この時も朝一番に駆けつけた俺が引き金にされ、そしてNと一緒に2週間の停学を食らってしまった。

     しかし街一つ大混乱に陥れるほどの、このどうしようもないイタズラも、良いように評価してくれる奴はいたらしい。
     この事件の後、Nのところに工学系の大学から、いくつか声がかかったと聞いた。
     だけどNが選んだのは、俺がスポーツ推薦で入った、一応と付く程度の一流大学だった。
     その後は大学の研究で満足していたのか、これ以降、Nがはた迷惑な装置を組むことはなくなった。



     と思って、油断していた。
     Nがアメリカに渡ってから3年が経ち、俺もプロのアスリートとして活躍していた。
     その多忙な生活にも慣れ、大学でのNとの記憶も薄れかけていた頃、それは起動した。
     今にして思えば、Nは渡米前から装置を組んでいたのかも知れない。

     今朝のことだ。俺は何の気なしに玄関を開けた。
     その瞬間、ドアノブがぽろ、と落ちた。
    「うわっ!? ……え?」
     床に落ちたドアノブをよく見てみると、内側にボタンのようなものが付いている。
     一瞬、嫌な予感を覚え、俺はそのボタンを押さずに、そのまま床に投げ捨てようとした。
    (誰が押すか、こんなもん!)
     しかし後から説明されて、そこでようやく知ったことだが――そのボタンはオフになると、つまりドアから外れた状態になると、起動するようになっていたのだ。
     ドアノブを投げ捨てようとしたその時、2階の俺の部屋から、ごとん、と重たい音が響く。
    「……な、なっ、なーっ!?」
     俺は目を疑った。
     まるで昔のコント番組のように、2階に続く階段が急傾斜へと変わり、そこを俺の机が滑り落ちてきたからだ。
     猛然と迫ってくる机を回避しようにも、狭い玄関から飛び出る以外の選択肢は無い。
     次の瞬間、俺は久々にグラウンド以外で全力疾走を披露していた。

     そこから何がどうなったか、俺はよく覚えていない。
     気付けば俺はトラックの荷台に転がり、空港まで運ばれていた。
     長い長い青信号の連続の末、トラックはようやく、空港のロータリーで停まる。
     俺は恐る恐る、道路に降りる。その瞬間、背後から声をかけられた。
     いや、かけられたと言うより、半ば独り言を聞かされたようなものだったが。
    「ドアノブの信号が途絶えてから3時間12分33秒。誤差、3秒か。上々ね」
    「は……?」
     振り向くとそこには、3年ぶりに見るNの姿があった。
    「久しぶり。元気してた?」



     そして現在。
     俺はいつの間にか持たされていた指輪を傍らに置き、Nと食事している。
     逃げ回る道中で手に入れたと思うのだが、まったく覚えていない。
     これもNの仕掛けた装置の一つなのだろうか。
    「……」
     と、Nがやや不機嫌そうな顔をしている。
    「なんだよ?」
     ここまで散々引きずり回された俺も不機嫌になっていたし、ぶっきらぼうに尋ねる。
    「最後の仕掛け、まだ動かないなーって」
    「え? まだ何か仕込んでんのか?」
    「うん。後はそれをあたしに渡してくれたら、装置の作動は完璧なんだけど」
    「それ? ……これ?」
     テーブルに置いていた指輪を指すと、Nはこくんとうなずいた。
    「あたし、プロポーズするよりされたいし」

     ……くっそ。そう言うことか。
     完璧な設計すぎて、腹も立ちやしない。



     訂正しよう。
     Nがこの装置を組み出したのは、幼稚園の頃かららしい。
     やりやがったな、Nめ。
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    彼女風に言い換えれば、「これからあなたは一生、あたしの部品よ」と言う感じでしょうか。
    やっぱり変わり者ですね。

    こちらこそ、本年は大変お世話になりました。
    来年もよろしくお願いします。

    NoTitle 

    これから貴方は病気になるのよ!!
    …恋の病にね。
    ・・・という状況に近いですね。
    気合いは買いますし、愛情表現だと思えばかわいいですけどね。
    屈折していますが。

    今年一年ご愛読ありがとうございました。
    来年もまたよろしくお願いします。
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