黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第3部

    蒼天剣・狷狼録 4

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    晴奈の話、第149話。
    伝説の奸雄。

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    4.
     明奈は大火をチラチラと見ながら、おずおずと説明してくれた。
    「克大火。男性。年齢・出身不詳。魔術師兼、剣士。
     昔の戦争で名を馳せ、今なおその実力を世に知らしめる乱世の英雄。北方や央北では奸雄、『黒い悪魔』と呼ぶ者もいますが、黒炎教団では神と崇められております。
     魔術や剣術の強さも伝説となっておりますけれど、それよりわたしがもっと、心惹かれるお話があります」
    「ほう」
    「それは、何だ?」
     明奈は大火を一瞬見て、晴奈に視線を戻す。
    「あの……、『神器』をお創りになると言うお話が、とても好きです」
    「ふむ、神器か」
     明奈の言葉に、大火はニヤリと笑う。
    「例えば、これか?」
     そう言って大火は腰に差した刀を抜く。その刀は普通の太刀より2倍ほど長いが、大火は座ったままで抜ききった。
     薄い紫を帯び、青白く光る刀身があらわになった途端、晴明姉妹は同時に身震いする。
    「……!」「それは、あの『妖艶刀 雪月花』でしょうか」
    「その通り。確かにこの刀なら、神器と言えなくも無い」
     雪月花と呼ばれたその刀は、確かに名の通り、不気味なほどに美しく輝いていた。だがそれだけに、触れただけで絶命してしまいそうな凄味も、刀全体からにじみ出ていた。
    「まさか、拝見できるなんて!」
     刀を見た明奈は珍しく目を輝かせている。教団が嫌いだと言っていた彼女だが、大火自体はまんざら嫌いでも無いらしい。
    「クク……。他にもいくつか作っているが、とりわけ魔術や、魔力に関わるものを得意としている。俺の本分は魔術師だからな。
     どうだ、晴奈。お前の力を余すところ無く使いきれる刀は欲しくないか? 欲しいのなら打ってやるが、どうする?」
    「う……む……」
     尋ねられ、晴奈は口ごもる。
     確かに、刀は欲しいと思っていた。免許皆伝を得て以降、晴奈はあまり武器に満足できていなかったのだ。凡庸な刀では力不足なのか、これまでに何振りも刀をダメにしてしまっている(余談だが、以前紅蓮塞に戻った際に、この件で師匠から小言を喰らっていたりする)。
     また、この前の大鷹討伐でも、奥義「炎剣舞」を放った刀はボロボロに焼け付き、錆びてしまった。
     晴奈の実力が刀の耐久度を上回ってしまっているのは明白であり、今の晴奈には相当の逸品が必要になってきていたのだ。
     だが、あの妖刀――雪月花か、それと同等のものを手にしてしまったら、修羅への道を突っ走ってしまいそうであり、それも恐ろしい。
    「うー……む」
     しかし自分でも言った通り、これは千載一遇の機でもある。神器を創り出せる男が、自分のために刀を打ってくれると言うのだ。
    (これを逃せば――恐らく終生、私は逸品に巡り会えまい)
     やがて、晴奈は決心した。
    「では、刀をいただくことにしよう。その依頼、引き受けた」
    「契約成立だな。それでは、内容に移ろうか」
     大火はニヤリと笑い、本題に入った。

    「暗殺の標的は先程も言った通り、ワルラス・ウィルソン2世。黒鳥宮に赴き、そいつを消してくれ」
    「簡単に言ってくれるが……」
     晴奈は小さく首を振り、問題点を指摘する。
    「どうやって黒鳥宮に?」
    「俺が手配しよう」
    「暗殺後の脱出も、手を貸してくれるのか?」
    「無論だ」
    「暗殺に都合が良い状況を作るなど、計画などは?」
    「立てている。それについては実行の際、指示を出す」
    「ふむ」
     晴奈はそこで一旦言葉を切る。チラ、と明奈を見て、もう一つ質問した。
    「いつ行う?」
    「お前の予定が付き次第、いつでも。できる限り、早急にしてくれた方がいいが、な」
    「そうか。では、一旦黄海に戻らせてくれ。明奈を家に……」「いいえ」
     晴奈の言葉をさえぎり、明奈は手を挙げる。
    「わたしも行きます」「明奈?」
     晴奈は驚いたが、彼女にも何か思うところがあるのだろうと考え、明奈の言葉を黙って聞く。
    「わたしは黒鳥宮の地理に詳しいですし、それにお姉さまを補助する魔術も心得ています。
     何より、教団にいた頃――ウィルバーに絡まれた時など――猊下に良くしていただきました。あのお優しい方が、無残に殺されるなど……」
     明奈の言い分を斜に構えて聞いていた大火が、大儀そうにぺら、と手を振ってさえぎる。
    「構わん。一緒に行きたいと言うのなら、止めはしない。付いてくるがいい」
    「……私の側から、離れるなよ」
     明奈の決意に満ちた目を見て、晴奈は明奈を連れて行くことを決意した。
     晴奈は大火に向き直り、もう一度黄海に戻りたい旨を伝える。
    「では黄海で準備を整えた後、すぐに向かおう。何事も早いに越したことは無い」
     晴奈の返答を受け、大火は嬉しそうにクク、と笑った。
    「助かる」



     数刻後、晴明姉妹と大火は黒鳥宮に立っていた。晴奈はため息をつき、改めてこの「黒い悪魔」の力に恐れ入った。
    「世界を一瞬で飛び回る――これも魔術、か。教団の者が使う術は、まだほんの児戯だったのだな」
    「本物は違う、と言うことだ」
     大火は晴奈の言葉にニヤ、と口角を上げ、自分たちのいる場所について説明した。
    「ここは黒鳥宮北の敷地、通称『黒狼殿』の物置裏だ。名前の通り、黒い『狼』ウィルソン家の邸宅となっている。ここの3階、東の塔にワルラスが住んでいる。
     だが、そこでは殺らん」
    「何故だ?」
    「ワルラスがただ単にここで死んだのでは、その『報い』を弁済しきれんからだ」
    「報いの、弁済……?」
     大火は南を指し示し、淡々と語る。
    「奴はこの十数年間、己の野望を実現するためにあらゆる手を尽くし、その結果教団を食い物にしてきた。
     財を食い荒らし、兵を無駄に殺し、そして今、教団の誇りさえもけがそうとしている」
    「つまり教団や、黒炎様に背いたその悪行の、報いを与えると言うことですか」
     明奈の言葉に、大火は小さく手を振って訂正する。
    「少し違う。俺に背いた、とは言えん」
    「え?」
    「多くの者が勘違いしているが」
     大火は二人に背を向け、遠くの尾根を眺める。
    「黒炎教団は俺が作ったのではない。俺を慕う者が、俺への最大の賛美、賛辞として築き上げた組織なのだ。
     が、俺に直接関係が無いとは言え、俺に並々ならぬ利益を収める組織だ。その見返りに、庇護してやる必要がある。組織を成長、拡大させたいと言う者がいるならば、手を貸してやる。
     が――」
     大火は晴奈たちに向き直る。その細い目は平時より熱を持ち、黒く輝いて見えた。
    「組織を潰す、あるいは食い物にしようと言う輩は消えてもらわねば、いなくなってもらわねば、な」
    「……つまり、ワルラスを殺すだけではなく、『見せしめ』にするつもりなのだな? 今後同じことを行う気を、起こさせないように」
     晴奈の推察に、大火はまた笑った。
    「そう言うことだ。……クク、賢しい姉妹で助かる」
     晴明姉妹はこの時、克大火と言う男は思っていたよりずっと「悪魔」から離れた行動を執る――自分たちにも理解しやすい、人間的な思考をする人物なのだと思い始めていた。
    (まんざら、『博士が勝手に襲ってきた』と言う話も、嘘では無いらしい。
     ……あの時無闇に戦ったりしなくて、良かったのかもしれないな)

     大火によれば、先日ワルラスは敗走の責任を取るために央南布教の任を解かれ、そしてそれに対する逃避行動とウィリアムに対する反発心から、密かに暗殺を企てていたと言う。
    「恐らく一両日中、いや、今日にでも計画を実行するだろう。殺されそうになったところで俺はウィリアムを助けるから、お前たちはワルラスと実行犯を仕留めてくれ」
    「実行犯?」
    「狡猾なワルラスが自らの手を汚すと言うのは考えにくい。何らかの方法で、自分に嫌疑がかからないように手配しているだろう」
    「なるほど。……もしかして、それは」
     明奈の気付きを、大火が先に答える。
    「ああ、ウィルバーの可能性が高い。であれば、犯行が行われるのは……」
     続いて、晴奈がつなぐ。
    「ワルラス、ウィリアム、そしてウィルバーの3名が揃った時、と言うわけだな」

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    2010.06.03 加筆修正
    2016.04.08 修正
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