「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第7部
白猫夢・悩狼抄 2
麒麟を巡る話、第311話。
ゼミ生活の終わり。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2.
「……は、ははっ」
掲示板を確認した途端、マークは腰を抜かしてしまった。
「大丈夫、先輩?」
尻餅を着きかけるところで、後輩の狼獣人、シャラン・ネールが手を引き、肩を貸した。
「だ、大丈夫です。ちょっと気が抜けてしまって」
マークの返事に、シャランはクスクス笑う。
「うふふ、おめでとっ。……もう立てる?」
「あ、はい。……あ、わ、わわっ」
シャランから手を放した途端、マークは前のめりに倒れてしまった。
「……あはは、ダメだ、膝がカクカクしちゃってる」
「部屋まで運ぶよ」
「すみません、シャランさん」
シャランに引き続き肩を貸してもらい、マークはどうにかよたよたとした足取りで歩く。
と、天狐の屋敷からその主、克天狐が現れた。
「よお、マーク。その様子だと、評価は確認したみてーだな」
「はい。……すみません、こんな格好で」
「ケケケ」
天狐はマークを見て、ケタケタ笑い出す。
「掲示板見て、合格だってのに腰抜かしたのは、お前で4人目だ。
ま、ともかくお前は今期で卒業だ。この後の進路は考えてあるか?」
「はい。故郷に戻ろうと思います。
まずは母に、僕が培った治療術を施してあげたいと考えているので」
「そっか。実はな、お前のレポート見て、雇いたいってトコがいくつかあったんだが……」
「参考までに、お名前だけ教えていただけますか?」
「でかいトコを挙げると、央中のネール職人組合傷病対策局と、同じく央中のコールマイン医療研究局、ソレから西方プラティノアール王立大学病院だな。ドコも指やら脚やら千切れる大ケガが頻繁に起こるからな、再生医療ってヤツを特に研究してるところだ。
他にも大小合わせて20近くの医療関係から求人が出てる。引く手あまただぜ、お前」
「身に余る光栄です」
話しているうちに、足の震えが収まってくる。
マークはシャランから腕を離し、深々と頭を下げた。
「折角ですが、まずは故郷の母を、第一の治療成功者にしたいんです」
「そっか。ま、今後また話を聞いてみたいってコトがあれば、オレに言ってくれ」
「はい。……3年半の細微にわたるご指導ご鞭撻、誠にありがとうございました」
「ケケケケ……、ま、コレからも精進しろよ。うまく行けば、歴史に名が残るかも知れねーぜ?」
厳しかった天狐から賞賛され、マークは部屋に戻ってからも、顔をほころばせていた。
「僕の研究がそこまで評価されていたなんて、まったく思いもよりませんでした、本当」
「あたしは最初っからすごいと思ってたよ。
だってあたしの故郷――ほら、テンコちゃんも言ってたけど、大ケガする人が多いんだ」
「ああ……、ネール公国でしたね」
「そ、そ。でさ、ひどい時には手首の先から無くなっちゃったり、足がグチャグチャになっちゃったりって人もいたし……。
あたしも小さい頃から、そう言う人たちの手とか足とか、元通りにしてあげたいって思ってたから。
だから先輩の研究、応援してるんだ。あたしも同じテーマを選んでるしさ」
「卒業レポートでは、本当に助かりました。僕一人じゃ評価『優』どころか、『可』さえ怪しかったかも知れません。
最初にまとめたのを見せた時のシャランさんの言葉には、泣きそうになりましたし」
これを聞いて、シャランは不安げな顔になる。
「え、そんなにひどいこと言っちゃってた?」
「いえ、今にして思えば的を得た意見でした。本当にシャランさんには感謝してもしきれません」
「……えへへ、ありがとね」
一転、シャランは顔を真っ赤にして嬉しそうにする。
「あたしも来年か、再来年の上半期には、卒業を目指すつもりなんだ。……で、……あのさ」
と、今度は真剣な目つきになり――これほど表情をコロコロ変える人間には、マークは自分の父以外には、彼女しか会ったことが無い――シャランは机から身を乗り出した。
「卒業できたら、……今度は先輩のところに、……あの、そのね、勉強しに行きたいんだ」
「ええ、大歓迎で……」「……ううん、違う」
シャランは顔を伏せ、ぼそぼそと何かをつぶやいた。
「なんですか?」
「……ほしいなって」
「何が欲しいんです?」
「……あのね、……お付き合いして、……ほしいな」
「……へっ?」
思いもよらない彼女の言葉に、マークは面食らった。
「お、お付き合い? 僕と、ですか?」
「うん」
顔を挙げたシャランは、耳まで真っ赤にしてこう続ける。
「先輩のこと、……まだ15なのに、年下なのに、すっごくかっこよく感じてて。一緒にレポートまとめてたら、本当に、その、……好きに、なっちゃって」
「……あ、あは」
マークも自分自身、顔が紅潮しているのを感じている。
「ぼ、僕も、シャランさんみたいな可憐な方に、そんな風に想っていただけるなんて、本当、身に余る光栄です。
是非、僕からもお願いさせてください」
「……ありがと」
こうしてマークのゼミ生活は万事満足行く結果、有終の美を以て、終わりを告げた。
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ゼミ生活の終わり。
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「……は、ははっ」
掲示板を確認した途端、マークは腰を抜かしてしまった。
「大丈夫、先輩?」
尻餅を着きかけるところで、後輩の狼獣人、シャラン・ネールが手を引き、肩を貸した。
「だ、大丈夫です。ちょっと気が抜けてしまって」
マークの返事に、シャランはクスクス笑う。
「うふふ、おめでとっ。……もう立てる?」
「あ、はい。……あ、わ、わわっ」
シャランから手を放した途端、マークは前のめりに倒れてしまった。
「……あはは、ダメだ、膝がカクカクしちゃってる」
「部屋まで運ぶよ」
「すみません、シャランさん」
シャランに引き続き肩を貸してもらい、マークはどうにかよたよたとした足取りで歩く。
と、天狐の屋敷からその主、克天狐が現れた。
「よお、マーク。その様子だと、評価は確認したみてーだな」
「はい。……すみません、こんな格好で」
「ケケケ」
天狐はマークを見て、ケタケタ笑い出す。
「掲示板見て、合格だってのに腰抜かしたのは、お前で4人目だ。
ま、ともかくお前は今期で卒業だ。この後の進路は考えてあるか?」
「はい。故郷に戻ろうと思います。
まずは母に、僕が培った治療術を施してあげたいと考えているので」
「そっか。実はな、お前のレポート見て、雇いたいってトコがいくつかあったんだが……」
「参考までに、お名前だけ教えていただけますか?」
「でかいトコを挙げると、央中のネール職人組合傷病対策局と、同じく央中のコールマイン医療研究局、ソレから西方プラティノアール王立大学病院だな。ドコも指やら脚やら千切れる大ケガが頻繁に起こるからな、再生医療ってヤツを特に研究してるところだ。
他にも大小合わせて20近くの医療関係から求人が出てる。引く手あまただぜ、お前」
「身に余る光栄です」
話しているうちに、足の震えが収まってくる。
マークはシャランから腕を離し、深々と頭を下げた。
「折角ですが、まずは故郷の母を、第一の治療成功者にしたいんです」
「そっか。ま、今後また話を聞いてみたいってコトがあれば、オレに言ってくれ」
「はい。……3年半の細微にわたるご指導ご鞭撻、誠にありがとうございました」
「ケケケケ……、ま、コレからも精進しろよ。うまく行けば、歴史に名が残るかも知れねーぜ?」
厳しかった天狐から賞賛され、マークは部屋に戻ってからも、顔をほころばせていた。
「僕の研究がそこまで評価されていたなんて、まったく思いもよりませんでした、本当」
「あたしは最初っからすごいと思ってたよ。
だってあたしの故郷――ほら、テンコちゃんも言ってたけど、大ケガする人が多いんだ」
「ああ……、ネール公国でしたね」
「そ、そ。でさ、ひどい時には手首の先から無くなっちゃったり、足がグチャグチャになっちゃったりって人もいたし……。
あたしも小さい頃から、そう言う人たちの手とか足とか、元通りにしてあげたいって思ってたから。
だから先輩の研究、応援してるんだ。あたしも同じテーマを選んでるしさ」
「卒業レポートでは、本当に助かりました。僕一人じゃ評価『優』どころか、『可』さえ怪しかったかも知れません。
最初にまとめたのを見せた時のシャランさんの言葉には、泣きそうになりましたし」
これを聞いて、シャランは不安げな顔になる。
「え、そんなにひどいこと言っちゃってた?」
「いえ、今にして思えば的を得た意見でした。本当にシャランさんには感謝してもしきれません」
「……えへへ、ありがとね」
一転、シャランは顔を真っ赤にして嬉しそうにする。
「あたしも来年か、再来年の上半期には、卒業を目指すつもりなんだ。……で、……あのさ」
と、今度は真剣な目つきになり――これほど表情をコロコロ変える人間には、マークは自分の父以外には、彼女しか会ったことが無い――シャランは机から身を乗り出した。
「卒業できたら、……今度は先輩のところに、……あの、そのね、勉強しに行きたいんだ」
「ええ、大歓迎で……」「……ううん、違う」
シャランは顔を伏せ、ぼそぼそと何かをつぶやいた。
「なんですか?」
「……ほしいなって」
「何が欲しいんです?」
「……あのね、……お付き合いして、……ほしいな」
「……へっ?」
思いもよらない彼女の言葉に、マークは面食らった。
「お、お付き合い? 僕と、ですか?」
「うん」
顔を挙げたシャランは、耳まで真っ赤にしてこう続ける。
「先輩のこと、……まだ15なのに、年下なのに、すっごくかっこよく感じてて。一緒にレポートまとめてたら、本当に、その、……好きに、なっちゃって」
「……あ、あは」
マークも自分自身、顔が紅潮しているのを感じている。
「ぼ、僕も、シャランさんみたいな可憐な方に、そんな風に想っていただけるなんて、本当、身に余る光栄です。
是非、僕からもお願いさせてください」
「……ありがと」
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