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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第7部

    白猫夢・悩狼抄 4

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    麒麟を巡る話、第313話。
    白猫党。

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    4.
     己の研究成果である治療術を母に施すことを強く推したものの、いざそれが現実のものとなった途端、マークは不安になった。
    「はあ……」
     4年ぶりに自分の部屋に戻り、ベッドに横たわるが、まったくくつろげない。
     頭の中に浮かぶのは、万が一自分が施術に失敗してしまい、母の顔を醜く歪めてしまうのではないかと言う不安ばかりである。
    (やっぱり父上が提案した通り、志願者を募った方が良かったかな……。
     いや、まず第一に母を治したいと思ったからこそ、僕は天狐ゼミへ行ったんじゃないか。今さらそれを曲げてどうする)
     そうしてひたすら、悶々としているところで――トントン、とドアがノックされた。
    「はい」
     マークはベッドから起き上がり、ドアを開ける。
    「私だ」
     訪ねてきたのは父、トラス王だった。
    「お前、母さんからの返事を、私に報告してなかっただろう?」
    「あ」
    「まったく……! 大事なことなんだから、そう言うことはきちんと報告しなきゃならんだろう」
    「すみません……」
     ぺこっと頭を下げたところで、トラス王がふっと笑った。
    「私への報告を怠るほど高揚していたか? それとも緊張したのか?」
    「……両方です」
     マークの答えに、トラス王は今度は、はっきりと声を上げて笑う。
    「ははは……、だろうな。しかしそのまま浮足立って、自分の部屋に閉じこもる、と言うのは困る。
     こう言うことは言いたくないが、お前はそそっかしいところが多いからな。こう言う些細なところでミスするような者に、人の体を弄ると言った大事を任せるのは、不安になってしまうではないか」
    「反省します……」
    「……ん、まあ、なんだ。そう落ち込むな。
     あれだけ頑固に自分の意見を推したくらいだ、成功する自信は十分にあるのだろう?」
    「はい」
    「ならば良し。私も許可しよう。で、いつ行う予定だ?」
    「準備もありますし、あと、僕自身も少し休んで調子を整えておきたいので、一週間後に行おうかと」
    「うむ、分かった。必要なものがあれば、何でも言ってくれ」
    「ありがとうございます」
    「では、今日はもう休むがいい」
     そう言ってドアを閉めかけ――「おっと」とつぶやいて、もう一度ドアを開けた。
    「もう一つ用事があったのを忘れていた」
    「何でしょう?」
    「お前、エルナンド・イビーザと言う男を知っているか?」
    「イビーザ……?」
     そう問われ、マークは記憶を掘り起こしてみるが、全く思い当たる節は無い。
    「いえ、存じません」
    「ふむ? ……そうか、知らんか」
     トラス王は神妙な顔をし、懐から何通かの封筒を取り出した。
    「いやな、お前が不在の間――ここ半年くらいだが――そのイビーザと言う男から、お前宛に手紙が来ていたのだ。
     私が妙だと思ったのは、イビーザ氏があの『白猫党』の幹事長であることだ」
    「白猫……党?」
     聞きなれない言葉に、今度はマークが首をかしげた。
    「ん、知らんのか? ……いや、そうか。彼奴らが台頭し始めたのはここ1年くらいだからな。4年離れていたお前が知るはずもあるまい」
    「一体なんですか、それは?」
     何の気なしにマークはそう尋ねたが、トラス王は苦い顔を返した。
    「正式名称は何であったか……、確か、『白猫原理主義世界共和党』、……だったかな。
     何とも胡散臭い連中だよ。何でも『白猫の夢』を自由自在に見られるとか言う眉唾者を『預言者』などと称して祀り上げ、その預言とやらを党是・方針として臆面も無く掲げ、あちこちで政治活動めいた振る舞いをしていると言う、凡そまともとは言い難い奴らだ。
     ところが不思議なことに、人気と資金を集めているとの報告もある。既に央北の小国2、3ヶ国においては、議会や内閣の過半数を党員が占め、政権を掌握されているとのことだ。
     その何とも名状し難き連中の幹部となっている者が何故、お前に手紙を送ってくるのか。これが分からんのだ」
     父の評価を聞き、マークも胡散臭いものを感じる。
    「確かに……。ちょっと、不気味ですね」
    「私にとってはちょっとどころじゃない程度に不気味だ。まさかこの国の王子、第一後継者であるお前を党に勧誘しようとしているのではあるまいか、と言う懸念もあるからな。
     もしもそんなところに加入したら、私は即刻、お前を勘当するからな」
    「ご心配なく。僕だってそんな気味の悪いところは御免蒙ります」
    「ならばよし」
     トラス王は手紙をぐしゃ、と握り潰し、懐に収め直した。
    「これは捨てておく。もう忘れて構わんぞ。
     ではマーク、ゆっくり休むが良い」
    「はい。おやすみなさい、父上」
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