「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第7部
白猫夢・悩狼抄 7
麒麟を巡る話、第316話。
マークへの啓示。
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7.
「親愛なる同窓生 マークへ
イビーザに何度か手紙を出させたけど、一向に返事が無いってコトだから、今回はアタシが出したわ。
アタシは今、アオイと一緒にいるの。今、彼女は『突発性睡眠発作症』だか何だかって言う病気を患ってるの。普通に起きてると思ったら、いきなりパタッと倒れて眠り出す。そう言う病気。
ひどい時には三日間眠り通しってコトもあるし、そんな状態で一人にしてちゃ到底生きてられないから、今はアタシが身柄を預かり、世話してるのよ。
そんな状態だから、アイツは手紙を書くコトができない。だから、アタシやイビーザが代筆してたんだけど、やっぱりアタシが出した方が早かったかしらね?
本題、アオイからの伝言内容。
アイツによれば、コレを読んでる今、アンタはものすごく落ち込んでるって言ってた。
で、その解決方法も、こんな感じで伝えられたわ。『木のことは木に聞け、石のことは石に聞け、目のことは目に聞け』だって。何だか分かんないけど、アンタは分かる?
それからもう一つ、『お母さんを早く治してあげたいって気持ちは分かるけど、臨床実験も無しにいきなり施術しちゃ駄目だよ』って伝えろって。
ココからはアタシたちの話。
アタシたちは今、ヘブン王国にいる。
今年中は滞在する予定。良かったら会わない? 色々話もしたいし。
今度こそ、返事ちょうだいね。
白猫原理主義世界共和党 党首 シエナ・チューリン」
手紙を読み終えたマークは絶句していた。
(アオイさんが、シエナさんと一緒に……!? ずっと行方不明だったのに、まさかこんな形で居場所が分かるなんて……。
いや、それよりも。『目のことは目に』って、一体……? それに僕が今まさに落ち込んでいることを、どうやって彼女は知ったんだろう。
勇み足で母に施術したことまで、……いや。施術してから一ヶ月経ってるんだから、どこかに話が漏れていてもおかしくはないか。
だとすると多分、アオイさんは僕が施術に失敗することを読んでたんだな。であれば、僕がこうして落ち込んでいることも当然、察しが付く。失敗するであろう理由も分かっていたからこそ、こうして手紙を送ってくれたんだろうな。
……となると、この『目のことは目に』って言うのは、その失敗点を指摘してくれているんだろう。でも、意味がよく分からない。確かに失敗したのは目だけど、耳だって成功とは言えない。そっちについても教えてほしいくらいなのに)
「マーク?」
父に声をかけられ、マークは我に返る。
「あ、はい」
「何と書いてあった?」
「えっと……」
マークは葵からの伝言内容を省いて、手紙の内容を伝えた。
「ヘブン王国に? ……ふーむ」
「どうしたんですか、父上?」
「白猫党がヘブン王国に乗り込んだと言うのは、あからさまに不穏な事態だと思ってな。
以前にも言っていたと思うが、白猫党は央北各国の議会に党員を送り込み、あるいは在来の議員を党に引き込んで、その行政機能を掌握して回っているのだ。
そんな彼らが何のために、ヘブン王国に滞在しているのか。理由は明白だろう?」
「ヘブン王国の議会を乗っ取ろう、……と?」
「恐らくはそうだろう。
そしてその最中にお前を呼ぶ、と言うのも気になる。お前を政治的に利用しようとしているのかも知れん。
悪いことは言わん。行かん方が賢明だ」
「……そうですね。ただ、やはり昔のよしみもありますから、返事だけは出しておこうと思います」
「そうだな、ここまで何度も無視してしまったこともあるし、出しておいた方が礼を失せんだろう」
翌日、マークは部屋を片付け、それからシエナ宛に手紙を送り、破り捨てたレポートを別の紙に書き写し――そして葵の助言について考えた。
(『目のことは目に』、……か。つまり、僕が目の復元に失敗した原因は、目のことを完全には理解できていなかったから――目の構造を、実際の目を参照にして熟知しなかったから、その結果あんな肉塊と化してしまった、……と考えるべきだ。
そう考えれば、耳に対しても同じことが言える。形をそっくりに作っただけで、中身のことなんか考えてなかった。そのせいで母の右耳は外側、上っ面だけが出来上がった状態になり、骨や神経の形成にまでは至らなかったんだろう。
……僕がまったく眼中に無かったその問題を、アオイさんは遠く離れた場所で、こうも簡単に見抜いていたなんて。つくづく驚かされるな、アオイさんには)
父には「行かない」と同意したものの、葵から受けたこの助言のことを考えると、マークには抑えがたい知識欲が湧き上がってくる。
(もっと助言を仰ぎたい。もっと話がしたい。アオイさんと意見を交わせば、僕のこの研究はもっと、完成に近付くはずだ。
……会わなきゃ)
マークは密かに、ヘブン王国へと赴くことを決意した。
白猫夢・悩狼抄 終
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マークへの啓示。
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「親愛なる同窓生 マークへ
イビーザに何度か手紙を出させたけど、一向に返事が無いってコトだから、今回はアタシが出したわ。
アタシは今、アオイと一緒にいるの。今、彼女は『突発性睡眠発作症』だか何だかって言う病気を患ってるの。普通に起きてると思ったら、いきなりパタッと倒れて眠り出す。そう言う病気。
ひどい時には三日間眠り通しってコトもあるし、そんな状態で一人にしてちゃ到底生きてられないから、今はアタシが身柄を預かり、世話してるのよ。
そんな状態だから、アイツは手紙を書くコトができない。だから、アタシやイビーザが代筆してたんだけど、やっぱりアタシが出した方が早かったかしらね?
本題、アオイからの伝言内容。
アイツによれば、コレを読んでる今、アンタはものすごく落ち込んでるって言ってた。
で、その解決方法も、こんな感じで伝えられたわ。『木のことは木に聞け、石のことは石に聞け、目のことは目に聞け』だって。何だか分かんないけど、アンタは分かる?
それからもう一つ、『お母さんを早く治してあげたいって気持ちは分かるけど、臨床実験も無しにいきなり施術しちゃ駄目だよ』って伝えろって。
ココからはアタシたちの話。
アタシたちは今、ヘブン王国にいる。
今年中は滞在する予定。良かったら会わない? 色々話もしたいし。
今度こそ、返事ちょうだいね。
白猫原理主義世界共和党 党首 シエナ・チューリン」
手紙を読み終えたマークは絶句していた。
(アオイさんが、シエナさんと一緒に……!? ずっと行方不明だったのに、まさかこんな形で居場所が分かるなんて……。
いや、それよりも。『目のことは目に』って、一体……? それに僕が今まさに落ち込んでいることを、どうやって彼女は知ったんだろう。
勇み足で母に施術したことまで、……いや。施術してから一ヶ月経ってるんだから、どこかに話が漏れていてもおかしくはないか。
だとすると多分、アオイさんは僕が施術に失敗することを読んでたんだな。であれば、僕がこうして落ち込んでいることも当然、察しが付く。失敗するであろう理由も分かっていたからこそ、こうして手紙を送ってくれたんだろうな。
……となると、この『目のことは目に』って言うのは、その失敗点を指摘してくれているんだろう。でも、意味がよく分からない。確かに失敗したのは目だけど、耳だって成功とは言えない。そっちについても教えてほしいくらいなのに)
「マーク?」
父に声をかけられ、マークは我に返る。
「あ、はい」
「何と書いてあった?」
「えっと……」
マークは葵からの伝言内容を省いて、手紙の内容を伝えた。
「ヘブン王国に? ……ふーむ」
「どうしたんですか、父上?」
「白猫党がヘブン王国に乗り込んだと言うのは、あからさまに不穏な事態だと思ってな。
以前にも言っていたと思うが、白猫党は央北各国の議会に党員を送り込み、あるいは在来の議員を党に引き込んで、その行政機能を掌握して回っているのだ。
そんな彼らが何のために、ヘブン王国に滞在しているのか。理由は明白だろう?」
「ヘブン王国の議会を乗っ取ろう、……と?」
「恐らくはそうだろう。
そしてその最中にお前を呼ぶ、と言うのも気になる。お前を政治的に利用しようとしているのかも知れん。
悪いことは言わん。行かん方が賢明だ」
「……そうですね。ただ、やはり昔のよしみもありますから、返事だけは出しておこうと思います」
「そうだな、ここまで何度も無視してしまったこともあるし、出しておいた方が礼を失せんだろう」
翌日、マークは部屋を片付け、それからシエナ宛に手紙を送り、破り捨てたレポートを別の紙に書き写し――そして葵の助言について考えた。
(『目のことは目に』、……か。つまり、僕が目の復元に失敗した原因は、目のことを完全には理解できていなかったから――目の構造を、実際の目を参照にして熟知しなかったから、その結果あんな肉塊と化してしまった、……と考えるべきだ。
そう考えれば、耳に対しても同じことが言える。形をそっくりに作っただけで、中身のことなんか考えてなかった。そのせいで母の右耳は外側、上っ面だけが出来上がった状態になり、骨や神経の形成にまでは至らなかったんだろう。
……僕がまったく眼中に無かったその問題を、アオイさんは遠く離れた場所で、こうも簡単に見抜いていたなんて。つくづく驚かされるな、アオイさんには)
父には「行かない」と同意したものの、葵から受けたこの助言のことを考えると、マークには抑えがたい知識欲が湧き上がってくる。
(もっと助言を仰ぎたい。もっと話がしたい。アオイさんと意見を交わせば、僕のこの研究はもっと、完成に近付くはずだ。
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